閉話8 サーペントの街の南部大公カルロス・シーサイド
次は18時に投稿します。まもなく最終になります。よろしくお願いいたします。
大公の屋敷はムール海の側にあるサーペントという都市にある大邸宅だ。ここ、サーペントは南部一の商業港で、沢山の貿易船が行き来する町でいろいろな国からいろいろな人々がやってきて、商いをする。
そのため、多くの財貨が飛び交い、それら伴い港湾使用料や、市場使用料、為替取引の管理などここを治める大公には莫大な収入があり、事実上この世界有数の金持ちと言って過言ではないだろう。
そんな金持ちで大きな屋敷の主であるカルロスは、海を眺めながら昔の思い出に浸っていた。
彼はどちらかというと戦士に近い性格を持っていた。もともと次男であり、長男が大公家を継ぎ、彼自身は船乗りとして、そして戦士としてこの国を守る将軍になる予定だった。
ところが、突然現れた海賊たちの襲撃によりすべてが狂った。
海賊たちは一隊を別に上陸させ、山を回って当時山側に会った王宮に攻め込んだ。
同時に海賊たちが海から奇襲をかけてきた。
王宮はなすすべもなく焼かれ、王と皇太子であった長男は、女子供を逃がすため警備の兵とともに戦って戦死した。
突然の奇襲と、王宮が焼かれたことで混乱した海軍は海賊たちの手で次々と沈められた。
海と陸から攻められ、もはやサーペントの運命は終わったに見えた時、一人の男が現れた。
その男はまず、陸側の海賊たちに襲い掛かり、次々と殺していった。海賊たちは包囲して、打ち取ろうとしたが、刀で傷つけられず、魔法も効かず、ただ一方的に殺されていった。
海賊たちは我先へと元来たところへ逃げ出してしまった。
そうしたら、今度は海へと向かって行った。
丁度そのころ、海軍の一員として、海賊と戦っていたカルロスはすでに負傷し、体力の限界が近づいていた。海賊たちに包囲され、もう終わりだと思った時、海賊船が次々と沈められていくのを見た。海賊たちは動揺し、船へと急いで戻っていった。
そして、カルロスは見た。一人の男が海の上を歩いて、船底を殴って吹き飛ばし、大穴をあけて沈めていく姿を。
海賊たちは、火魔法を何発も当てて、火だるまにするも、まったく気にせず、笑い声をあげながら船を次々沈めていった。
小舟に乗って、その男に襲い掛かろうとする海賊もいたが、あっという間に殴り殺されていった。命乞いする者もいたが、ただ笑って頭を吹き飛ばされた。
カルロス達もこの機に乗じて海賊たちに攻めかかり、海賊たちはそのほとんどを沈められ、乗組員も殺された。それでも、数隻が何とか逃げることができたようだ。
戦いが終わり、陸に上がったカルロス達はその男のもとに駆け寄った。
感謝の気持ちを伝え、お礼をしなければならない、カルロスはそう思い、「あんたは我々の救世主だ。町も焼かれることなく済んだ。町全員の代表としてお礼がしたい。何でも言ってくれ」とその男の両手をつかんで拝むようにしていった。
その男はきょとんとして、うーんと考えた後、「じゃ、服が燃えてしまったので、代わりの服が欲しい。あと、飯のうまい食堂と女と遊べる場所を教えてくれ」と言った。
カルロスは思わず目を見開いた。そして笑った。「そんなものでいいのか。わかった。最高の服と、最高にうまい飯と酒、そして最高の女と遊べる場所に連れて行ってやる」
「悪いがそんなに金を持っていなんだ」申し訳なさそうに言うその男は、「おごりに決まっているだろう。というかおごらせてくれ。俺の名前はカルロス、南部大公家の次男だ。とりあえず服を仕立てさせるので、部下とともに服屋に行ってくれ。金の心配はいらんからな。すまんが俺は父上たちの様子を見てくる。後から合流しよう」そう言って、王宮に向かおうとした。「ちょっと待て、俺も行こう」その男はそう言って肩をつかんだ。
「俺の名はジョン・クサツ。ダイワ王国のクサツ伯爵家の嫡男だ。陸の海賊たちは追い払ったが、まだ残党がいるかもしれん。服と飯と酒、女の約束を守るまではお前に死んでもらっては困る」そう真顔で言ったジョンの顔を見て、思わず笑ってしまった。
「それじゃ一緒に行くか」そう笑顔で言うと、おもむろにジョンはカルロスを担ぎ上げ、猛スピードで走った。そのスピードは馬以上で、たちまち王宮にたどり着いた。
王宮は燃えて死体が転がっていた。その中に王と兄の姿を見つけたカルロスは死体に駆け寄ると、号泣した。
なんとか悲しみから立ち直って立ち上がると、ジョンがいないのに気付き、周りを見ると、ジョンがあちこち動き回っていた。
海賊の死体は積み上げ、兵士たちの死体はござの上に丁寧に並べていた。そして数人だがまだ息があったらしい。その者達は、別の場所で毛布にくるまって、寝かされていた。
助かったものに駆け寄り、「お前たち無事だったのか」と尋ねると、「死にかけていたところをあの方に治療薬を飲ませてもらい、なんとか助かることができました」と涙を流しながら言った。
カルロスは赤面した。自分が悲しみにとらわれて何もしなかった間に、ジョン殿は死んだ兵士たちを丁重に集め、息の在ったものを助けてくれた。
「ジョン殿すまない」カルロスはジョンに駆け寄って手をついてわびた。
「おいおい、やめてくれ」ジョンはなんか慌てた様子だった。
「私が何もしない間に、戦死した兵士たちを丁重に扱ってくれて、更に虫の息だった生き残った兵たちを助けてくれて本当にすまなかった」カルロスは感極まって痞え痞え言った。
「俺は治療薬を戦闘で割れないように金属の水筒に入れているんだ。とりあえず、皆の分が足りてよかったよ」と照れ臭そうに言った。
後を追ってきた部下たちに後を任せ、父と兄の死体を丁寧に棺に詰めると、兵士の死体とともに教会に運ぶように命じた。
ジョンとカルロスは逃げた母親やいとこたちと会い、無事を確認すると、町に戻ってきた。
カルロスは、ジョンに新しい服を用意してやり、そのあと町全体で海賊たちを追い払ったことを喜ぶ宴会を開いた。
ジョンをそこで紹介し、海賊との戦いや王宮での行動などを称えた後、呑めや歌えの大宴会が開かれた。ジョンには、港町にはつきものの女と遊べる場所である遊郭から最高の遊女を何人も手配して、最高のサービスをするよう金を積んだ。
金庫は海賊たちの襲撃を受け、いくつかは破られていたが、全体からしてみれば大したことのないレベルで済んでいた。
大宴会が終わり、なぜかすっきりした顔でジョンはカルロスに声をかけた。
「すっかり世話になった。たっぷり楽しませてもらったよ。そろそろお暇するわ」
カルロスは焦った。大恩人をこれだけのお礼で返してしまってはシーサイド家の名が廃る。
「まだ行かないでくれ。また、お礼をし足りない。何日か逗留してくれないか。宿は最高のものを用意する。頼む」カルロスは必死にお願いした。
ジョンは「いや、これだけいい思いをさせてもらって、十分なんだが」という。
「いやいや、とんでもない。頼む、もうしばらく逗留してほしい」と必死に頼むと情にほだされたのか了解してくれた。
それからもジョン殿の活躍はすごかった。港に沈んだ海賊船を次々にひょいと持ち上げると、町はずれの空き地にもっていき、港をきれいにしてくれた。
海賊船は、「すきにつかいなよ」と言ってくれたので、中を確認し、宝や物資を獲得した後、使える船は修理し、被害を被った商人に分け与えた。
商人からはとても感謝され、「新大公は我々のことをかんがえてくださっている」と強く支持されるようになった。
宝や物資は売却し、損壊を受けた港の補修や老朽化した施設の更新に使用した。
さすがに全部は取り過ぎだと思い、半分をジョン殿に渡そうとしたが固辞された。
なんとか一割を受け取らせたが、そのまま私の名前で教会に寄付したらしい。
宗教関係者の私への支持は強くなり、そして港をたちまち復旧した上に新しく施設を建築した私の名声は高まるばかりだった。住民たちの評判はとても高くなり、私が新大公となるのに、全く支障がなく引き継ぐことができた。
ジョン殿には、最高の遊郭で毎夜最高の接待をさせたが、その程度で済むレベルの恩ではなかった。
ある時、ジョン殿に言った。「私のいとこと結婚して、この大公領にいてくれないか。副大公の地位を約束しよう」思い切ってそう言ったが、「いや、もう十分すぎるほど世話になった。これ以上はもらい過ぎだ。それに長居しすぎた。そろそろ国に帰らなくては」と言って固辞されてしまった。
説得したが、ジョン殿の意思は強く、ついに別れの時が来た。
遊女たちはジョン殿との別れを泣いて悲しんだ。遊女たちは本当にジョン殿に惚れたようだ。彼女たちは仮想恋愛のプロで、男に本気になることなどないはずなのだが、聞いてみると、男っぷりもよく、優しく、さらに女心をよくわかっており、更に本気で愛してくれて、テクニックも抜群とくれば惚れぬ女などいないという話だった。
その気持ちはわかる。なんせ俺も、そして多くのサーペントの民もジョン殿に惚れてしまったのだ。ジョン殿は颯爽と去っていった。
北の山熊がいろいろ画策し、連合大公国を支配しようとしているが、私のとってはどうでもいいことだ。私にとって大切なのは、この南の地と南に開ける広大な海だ。
幸い、今回の戦いで国政への発言権を強めることもできたし、ダイワ王国との連絡回廊を手に入れることができた。
わが国にとって最も重要な外敵からの防衛政策は、ダイワ王国との交流を深めること、そしてクサツ家と深く交流を持つことだ。
そして血縁のアメリ王女がユウシ殿に嫁ぎ、その血を継いだ者が我が国に来てくれれば、クサツ家との縁がより深まることになる。
若い時に見たジョン・クサツの強さ、この国の運命を変えたユウシ・クサツ殿の戦いぶり、そしてうわさに聞くタカシ・クサツの恐ろしさ、我が大公領にとって是非とも味方にしたい存在だ。
南部大公カルロス・シーサイドの思考は女の子の声で破られた。
「大公様、お休みのところ申し訳ありません」声のする方を見るとアメリ王女がお付きのメイドともに立っていた。
「どうしましたアメリ王女」カルロスは尋ねた。
「大公様にお願いがありまして、お声をかけさせていただきました」アメリ王女は緊張した声で言った。
「ほう、何が欲しいのかい?」カルロスは微笑みながら尋ねた。
「この豊かで美しいこの土地に、ユウシ様やクサツのご家族の方をお招きして是非とも交流を深めたいのです」アメリ王女は少し顔を赤らめながら言った。
「私はユウシ様の妻になる身ですが、まだ幼いためこちらで妻としての修行中で、なかなかユウシ様とお会いすることができず寂しいです。ご家族の方とも結婚式であいさつを交わしただけで、深く交流しておりません。嫁になる身として、ご家族の方々とも仲良くしたいと考えております。大公様、クサツの皆様をお呼びする許可と御協力をお願いしたいのです」
カルロスはにこりとしながら「それはいい考えだね。ぜひお呼びしよう」と言った。
アメリ王女は嬉しそうに、そして若干の不安そうな雰囲気を見せつつ「大公様ありがとうございます。でも皆さん来ていただけますでしょうか」と尋ねた。
「私とジョン・クサツ殿は昔一緒に戦った仲間で、一時期ここに滞在したこともあるんだ。是非とも旧交を温めたいと言えば、来てくださる可能性は高いと思うぞ」
「大公様とクサツ家のご当主様は戦友なのですか?ぜひお話を聞きたいです」アメリ王女は興味津々と言う感じでカルロスに請うた。
「あはは、そうか聞きたいか。あれはわしがまだ……」
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