予想外の展開
――アデオルたちが《幻想の森》に到着する少し前。
アデオルをパーティから追放したベルフレド、フレスタ、ムーマは、昼間からベルフレドの家でエールを嗜んでいた。
今日は彼らにとって、邪魔者を追い出した記念すべき一日。
ストレスの素になっていた奴が近くにいなくなったことで、彼らは全員、上機嫌になっていた。
「ひゃはははははははは! あいつの間抜け面を見ねぇだけで、こんなにも気分がいいたぁな! もっと早めに追い出しときゃよかったぜ!」
「駄目よベルフレド♡ 邪魔者は徹底的に準備をした上で殺さないと♡」
「そ。いまごろデビルキメラのお腹の中か、トラップの猛毒に苦しんで死んでるよ。あいつにはこれくらいの罰が当然」
「ひゃははははは! それもそうだな! あんなポンコツ、ただ殺すだけじゃつまんねぇもんな!」
こんな会話、もちろん外に漏らすわけにはいかない
本当は居酒屋でぱーっと騒ぎたかったところだが、たっぷりと本音で語り合うためにも、今日はベルフレドの家で飲み会を行っていた。
そしてその後は……。
ベルフレドはフレスタとムーマの大きく開けた胸元を見て、うっすらと微笑んだ。
フレスタとは恋仲の関係であるが、実はムーマとも裏で関係を持っている。
たっぷり酒を飲んだ後は、男としての喜びを満喫する。それを想像するだけで、ベルフレドは涎が出そうだった。
「おーい、ベルフレド! ベルフレドはいるか⁉」
ふいに大きく扉が叩かれ、ベルフレドは思わず眉をひそめる。
誰だこんなときに。
他には誰も呼んでいないはずだが。
「はいはいっと……。どなたですかねー?」
怪訝に思いながらも、ベルフレドは家の扉を開ける。
そして来訪者の姿を確認したとき、彼は思わず素っ頓狂な声を発してしまった。
「ギ、ギルドマスター⁉ いったいどうしたんです?」
「ほっほっほ。いやなに、めでたい知らせを聞いたもんでのう」
老齢のギルドマスターはちらと部屋の奥を覗くと、愉快そうに頷いて言った。
「なんじゃ、もう一杯やっておるのか。その気持ちは大いにわかるが、ワシにも黙っておくとは水臭い」
「水臭い……? いったいなんのことです?」
「とぼけるでない。まさか《地下迷宮グレンドリオ》から無事に帰還するだけでなく、あのデビルキメラをも倒してしまうとはな‼ ワシは驚いたぞい! Sランクへの昇格はほぼ確定と見てよかろうて!」
「な、なに……?」
想定外の発言に、ベルフレドは大きく目を見開く。
マスターはいまなんと言った?
あのデビルキメラを……倒した……?
「マ、マスター。どうしてそれを」
「いやなに、先ほど帰還した冒険者から聞いただけじゃよ。迷宮の奥地でデビルキメラが倒れていたとな。記録を遡れば、あの時間にグレンドリオに潜っていたのは、おまえたちと、あとは二人の冒険者のみ。状況からしてあんたたちが倒した可能性もあると思っていたが、その様子だと……ビンゴじゃないかの?」
「ああ……いや。えっと……」
どう答えるべきか一瞬迷ったが、ギルドマスターはさっき「Sランクへの昇格はほぼ確定」と言っていた。
この機会をみすみす逃すほど、ベルフレドは無欲ではなかった。
「あーはいはい! そうなんですよ! 実は俺たちがデビルキメラを倒してて……先に報告せんですみません!」
「ほほ、よいよい。デビルキメラを倒したとなれば、誰だって浮かれるじゃろうて」
ギルドマスターは満足げに頷くと、ゆっくりと身を翻して言った。
「ワシは急ぎ、このことを本部に伝えようと思う。おぬしらがここまで成長できたこと、ワシは心から誇りに思うよ」
「はっは……いえ。ありがとうございます」
こめかみを掻きながら礼を述べつつ、ベルフレドは念のためギルドマスターに問いかけた。
「あの……。それで、現場でアデオルの姿は見ませんでしたか? どっかに遺体とかがあったり……」
「ほ? なんでじゃ。見つかっておらんぞ?」
「え……」
アデオルの遺体が……見つかっていない……?
デビルキメラに食われたか、もしくはトラップ魔法に木っ端微塵にされたか。
遺体の見つからない最期だった可能性もあるが、ベルフレドはどういうわけか、無性に嫌な予感を覚えるのだった。
「どうしてそんなこと聞くのじゃ。なにかあったのかの?」
「あ、いや、なんでもないんです。また後日、お話できたらと……」
「ふむ……? ようわからんが、お主の話なら大歓迎じゃ。いつでもギルドを訪ねるがよいぞ」
ギルドマスターはそれだけ言って愉快そうに笑うと、その場から遠ざかっていくのだった。
「え、デビルキメラが死んでたって……?」
「しかもアデオルの死体がないんだ。なんか嫌な予感するね」
その後、ベルフレドは二人にこのことを打ち明けた。
さっきまで楽しく酒を飲んでいた三人だが、もはやそんな気分ではない。
フレスタもムーマも、驚きの事実に少しだけ動揺している様子だった。
「……そしたら、どする?」
長い沈黙を経て、ムーマが重そうな口を開いた。
「アデオルが生きて帰れるとは思えないけど、万が一ってこともあるよね。私たちの情報を流されたら、まずいかも」
「ああ、そうだな」
ギルマスいわく、ベルフレドたちがSランク冒険者に昇格することはほぼ確定。
Sランクになればもっと良い女と毎日豪遊することもできるし、ギルドからの報酬金もたんまり入ってくる。それでいて大勢の人から尊敬を集め、さながら英雄のような毎日を送ることができる。
だからこそ、「Sランク」というのは冒険者にとって憧れの領域であり――。
ベルフレド自身もまた、Sランクになれる日をずっと夢見ていた。
そんな楽しい日々を送っている最中に、いきなりアデオルが現れたら? ベルフレドたちが行った追放劇を暴露されたら?
ギルドのなかには、一部アデオルを好いている人物もいたはず。
決して楽観視できない状況なのは、もはや考えるまでもなかった。
「……フレスタ」
だから数秒後、彼は恋仲にある魔術師に声をかけた。
「たしかトラップ魔法を提供してくれた奴、こういうの得意だったよな。いまのうち、アデオルの暗殺を依頼できねえか? 連中はかなり金に目ざといが――それを惜しんでる場合じゃなさそうだ。それからもうひとつだけ、万一のときの保険を……」
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