いやいや、これくらい当たり前なんですが
ユメルの研ぎ澄まされた剣撃。
そして自分なりに修行を積んできた《補助魔法》。
この二つが組み合わさることで、危険地帯とされる《幻影の森》を思ったよりスムーズに進むことができている。
さっきのカマキロスを筆頭として、他にも凶悪な魔物は沢山いるんだけどな。
それでもユメルと協力体制を取ることで、危なげなく森の奥へ足を運ぶことができている。完全に彼女の独壇場となっているが、それでも戦闘の足を引っ張っていることはない……と思いたい。
ベルフレドいわく、魔物は状態異常にして当たり前だそうだしな。
僕のようなサポーターは安全地帯に突っ立っているだけで、魔術師のように魔物にダメージを与えることもできないし、回復術師のように仲間を助けることもできない。サポーターたるもの、状態異常の付与くらい当然だという論調だ。
だから他にも《物理防御》で敵の隙を作ったり、できるだけ彼女の攻撃力を上げられるようにバフをかけている。
これなら少なくとも、足手まといにはなっていないはずだ。
……たぶん。
ちなみに現在は、《幻影の森》に到着してから三時間後。
病院を離れてからは五時間ほど経っているので、残された時間はあと七時間ほどか。
おそらく、このペースなら問題なく森の奥まで辿り着けそうか。この森はそこまで広いわけではなく、徘徊している魔物が強いだけだ。そこまで焦らずとも、慎重に進みさえすれば問題なく薬草を採取できるだろう。
「アデオルさん、でしたね」
たぶんユメルも同じことを考えたんだろうな。
さっきまでは足早だった歩調が幾分か緩やかになり、少しだけ余裕のできた様子で話しかけてきた。
「とても高名な補助魔法使いさんだと思います。もし失礼でなければ、所属しているパーティーを教えていただいてもいいですか?」
「そ、それは……」
正直に言えば答えたくないことだった。
ベルフレドもフレスタもムーマも、明確な悪意をもって僕を殺そうとしてきた。デビルキメラとの戦いを押し付けただけでなく、岩石で退路を防ぎ、万一に備えてトラップまで用意していた。
ここまでされておいて、さすがに彼らの仲間に戻りたいとは全然思わない。
思い出したくもない過去のひとつだった。
僕のその気持ちを悟ったのか、ユメルはこれ以上言及してくることもなく。
「……いえ、出過ぎたことを聞いてしまいましたね。大変失礼しました」
申し訳なさそうにぺこりと頭を下げてきた。
「まさかこんなに優秀なサポーターさんがいらっしゃるとは、私も聞いたことがなかったもので……。私も足を引っ張らないように頑張らないといけませんね」
「へ?」
思わぬ発言に、僕は思わず目をぱちくりさせてしまう。
「なに言ってるんですか! 足を引っ張ってるのは僕のほうですよ! 僕にできることは、こうやって魔物を状態異常にするくらいですから……」
「ま、魔物を状態異常にするくらい⁉ あなたこそなにを言ってるんですか⁉」
どういうわけか、ユメルも同じく目をぱちくりして反論した。
「カマキロスといえば、すべての状態異常耐性が高い強敵なんですよ⁉ だから真正面から戦うことしかできなくて、危険度の高い魔物なのに……」
「いやいや、カマキロスの状態異常耐性なんてペラペラですよ。さっきのデビルキメラなんか、麻痺状態なのにばりばり動いてきましたしね」
「あのデビルキメラを状態異常にしたんですか⁉ デビルキメラの耐性は《状態異常無効》だったはずですよ⁉」
「はは……またまた、ご冗談を」
彼女なりに場を和ませようとしてくれているのだろうか。
あまりにも常識外れなことを言ってきていて、僕は思わず苦笑してしまう。
ちなみにユメルの言う《状態異常の耐性》とは、ざっくばらんに言って下記のようにまとめることができる。
耐性ゼロ……補助魔法を一度使えば、確定で状態異常になる。その上で《麻痺》なら完全に動けなくなったり、毒なら体力が高速で減ったり、とにかく状態異常に弱い。
耐性(小)……補助魔法を一度使っただけでは状態異常にならないことがある。また「体制ゼロ」よりは状態異常のデメリット効果を受けない。
耐性(中)……耐性(小)の傾向がより強まったもの。
耐性(強)……耐性(中)の傾向がより強まったもの。
耐性無効……いくら補助魔法を使っても状態異常にならない。
本当はもう少し細かい部分もあるが、簡単に言えば、この五段階に分かれるわけだ。
たしかにデビルキメラの麻痺耐性はそこそこあったが、だとしても、動きがだいぶ鈍っていたからな。
ユメルの言う《状態異常》は絶対にありえない。
せいぜいが耐性(小)か(中)か……そのあたりだと思う。
「じょ、冗談ではないんですけどね……」
ちょっとだけ拗ねたのか、ユメルは小さく頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。その様子を可愛いと思ってしまうのは、さすがにこの場ではふさわしくないだろう。
ちなみにだが――
ユメルはSランク冒険者というだけあって、ギルドでも有名人だ。
腰まで伸びた銀色の髪はとても美しく、こうして会話をしている最中も、何度も見惚れてしまうほどの魅力を秘めている。また細剣による俊敏な動きを重視しているためか、防具の露出度がかなり高く……胸元などは直視できないほどに開けている。
そして歳はたしか、僕と同じ18歳だったか。
若くて綺麗な女の子であり、さらに王国内でも数人しかいないSランク冒険者……。
ここまで条件が揃っているわけだから、有名人になるのはもはや必然といえた。
ひとつだけ気がかりな点があるとすれば、数少ないSランク冒険者のなかでも、彼女だけが圧倒的に若いことか。
たしか他の同ランク冒険者は、若くても四十代だと聞いたことがある。
持ち前の才能はもちろんとして、たゆまぬ努力を続けてきた冒険者のみが……Sランクへの昇格を許される。
それが数年前までの、ギルドの常識だった。
にも関わらずユメルは、持ち前の才能だけでこのランクにまでのし上がった。まさしく冒険者ギルドの異端児ともいえる女性と言えよう。
そしてユメルはまた、《超絶塩対応の女》としても有名なんだよな。
勇気を振り絞って突撃していった男性たちの想いを、「無理です」「やめてください」「近づかないで」「話しかけないで」と一蹴。
多くの男性たちの無念(?)も背負っていると聞いている。
そんな塩対応で有名な彼女が、こうやって頬を膨らませるのはかなり予想外だったけれど……。ミスリアが負傷したことで動揺しているんだろうと、僕は心のなかで結論付けた。
「ぷんだ。私はカマキロスを状態異常にできたこともないのに……」
「あ、あの? ユメルさん?」
「こほん。いえ、なんでもありません」
ユメルはそう言って前髪をかきあげると、Sランク冒険者さながらの毅然とした態度で言った。
「さあ、行きましょう。お医者様の話によれば、もう少しで《ピムラ草》の生えている場所に着くはずです」
「は、はあ……」
ころころ態度を変えるユメルに首を傾げつつ、僕は彼女の後ろをついていくのだった。
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