恩人を助けるために
結論から言えば、僕は無事に迷宮から抜け出すことができた。
爆発に巻き込まれなかった、もう一人の少女――名をユメル・ハーウェイというらしい――は、予想通り相当の実力者だった。
冒険者ランクもSを授かっているほどの使い手だったので、正直、ベルフレドたちとは格が違うだけだ。
僕と、爆発に巻き込まれた少女を庇いつつ、なんと迷宮の外まで連れ出してくれた。
その爆発に巻き込まれたもう一方の少女の名前は、ミスリア・ユーフェ。
ユメルと違ってAランク冒険者なので、フレスタが仕掛けたトラップ魔法を喰らい、あえなく重傷を負ってしまった。
幸い即死には至らなかったようだが、意識不明の状態がずっと続いてしまっている。このまま放っておけばどうなるかわからない。
だから僕たちは、急いで病院に足を運んでいた。
僕も正直に言えば満身創痍なんだが、自分のせいで彼女が生命の危機に瀕しているのだ。放っておくわけにはいかない。
そして――数時間後。
近くにあった病院の一室にて、僕とユメルは医者からの説明を聞いていた。
「率直に申し上げれば、非常に厳しいでしょうな」
カルテに目を落としながら、老齢の男性医者が重々しい声を発する。
「咄嗟に受け身の姿勢を取ったようですから、今もかろうじて生きてはいらっしゃいますが……。これには《毒》がかけられているようでしてな……」
「ど、毒……?」
おそるおそる訊ね返したユメルに、医者はこくりと頷く。
「ええ。実は焼損そのものはたいしたことがなく、数か月も療養すれば充分に回復する見込みはあるのです。しかし問題なのが、身体の表面から内側までを徐々に蝕んでいく、非常に強力な毒魔法でしてな……。当院の回復術師たちがいかに力を尽くしても、一向に治癒しないのですよ」
「そ、そんな……‼」
ユメルが悲惨な声をあげる。
「先生、どうにかならないんですか⁉ お金ならいくらでも……‼」
「……いいえ、お金という問題ではないのです。これほど強力な毒を解くには、《ピムラ草》という薬草が必要なのですが……」
そこで医者は言いづらそうに視線を横にずらした。
「どういうわけか、最近似たような患者さんが急増しておりましてな。つい先ほど……薬草をすべて使い切ってしまったのです」
ガタン、と。
絶望に陥れられたかのごとく、ユメルが椅子から崩れ落ちた。
「もちろん発注はしておりますが、いつ届くかもわからぬ状態でして……申し訳ございませんが……」
「あ、あの」
なんとか緊張を抑えつけ、僕は医者に疑問を投げかける。
「それなら、薬草の備蓄がある病院を紹介してもらうことはできませんか……?」
「いいえ。どの病院もうちと同じ状況らしいですから、このへん一帯が《ピムラ草》不足に陥っているのですよ。自力で採取しないことには――残念ながら難しいでしょうな」
そんな。
ピムラ草といえば、強力な魔物がうろついている《幻影の森》にのみ生えていると聞いたことがある。しかも最近は採られ尽くされているため、森の中央部分にしか見つからないらしい。
そんな危険地帯に向かうだけでも無謀なのに、さらに治療が間に合うまでに持ってくるなれば……。
さすがにSランク冒険者といえども、困難な状況であると言わざるをえない。
それでも。
「……行きます」
ゆっくり立ち上がったユメルが、決意のこもった表情で医者と向き合う。
「私が《ピムラ草》を取ってくればいいんですよね。どれくらいの時間で取ってくればいいのか、教えてください」
「は……?」
医者がぱちくりと目を見開く。
「延命処置を行えば、半日はもつ見込みですが……。そうか、あなたはユメル・ハーウェイ殿……Sランク冒険者でしたな」
「はい。《幻影の森》は本来パーティーを組んでいくべき危険地帯。無謀なのはわかっていますが、このまま大事な友人をみすみす見送るわけにはいきません」
「……わかりました。私どももできるだけ延命処置を施させていただきます。ユメル殿のお帰りを、心よりお待ちしておりますよ」
★
「あ、あの!」
病院の通路。
足早に走り去ろうとするユメルの背中に、僕は勇気を振り絞って声をかけた。
「……あなたは」
ユメルは僕の顔を一瞥すると、再び視線を前方に戻す。
「お気になさらないでください。あなたを助けることができただけでも、きっとミスリアは喜んでいると思います。……どうかあの子のぶんまで、強く生きてください」
最後は涙声になりつつあった彼女に、僕の胸もぎゅっと締め付けられたけれど。
僕自身もデビルキメラとの戦いで、身体はほとんど満身創痍の状態だけど。
それでも僕は、この場から立ち去ることはどうしてもできなかった。
「僕にも行かせてください。きっと足手まといにはならないはずです」
「へ……? あなたが……?」
ユメルはそこで初めて、僕の全身をまじまじと見渡した。
「そういえば、あなたも超難関の《グレンドリオ》にいらっしゃいましたね。失礼ですが、お名前を聞かせていただいても?」
「……アデオル・ヴィレズンです。剣や魔法は扱えないですが、補助魔法でのサポートなら得意です」
「補助魔法……それは心強いですね……」
ユメルはそこで数秒だけ考え込むと、改めて僕の顔を真正面から見つめた。
「わかりました。大変申し訳ないですが、私の大事な親友を一緒に助けてくれると嬉しいです。どうか……お願いします」
そう言って深々と頭を下げるユメルだった。
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