追放してきた幼馴染、クズだと思い知る
「あれ……?」
体感的に、それから三十分ほど経った頃だろうか。
退路に繋がる方角から、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「なんだろう、岩が砕けてる……?」
「そうね……。激しい戦闘の後みたい」
二人とも女性のようだが、ベルフレドたちが戻ってきた――わけではないようだな。
ここまで到達できたからには、相当の実力者だとは思うが……。
おおかた、女性二人だけのパーティといったところか。
「た、助かった……」
僕は無意識のうちに、安堵の声を漏らしていた。
努力の甲斐あってデビルキメラを倒すことには成功したものの、これで無事に帰れるとは限らない。
この《地下迷宮グレンドリオ》の内部には、他にも強力な魔物がうろついているからな。
レベル1の僕では敵うはずもないし、満身創痍の状態なら尚更だ。
だからこうして人と出会えたことは、本当に奇跡中の奇跡。
ここの地下迷宮は難易度が高いからこそ、腕利きの冒険者でさえなかなかには立ち入れないのである。
「おーい! ここ、ここです! 助けてくれませんか⁉」
だから僕は、彼女らに向けて大きな声で助けを求めるのだった。
★
――一方その頃。
勇者ベルフレド一行は、ようやく《地下迷宮グレンドリオ》から抜け出したところだった。
薄暗く湿った洞窟を抜けて、久方ぶりの温かな日差し。
ベルフレドは重圧から解放された気分で――少しだけ息を切らしつつも、晴れやかな笑みを浮かべた。
「はぁ……はぁ……。ようやく抜けたぜ……!」
「そ、そうね……。なんだか妙に疲れたけど……」
「私たち、なんか変……? 行きは別になんともなかったのに」
ベルフレドだけでなく、魔術師フレスタや回復術師ムーマもまた、荒い呼吸を繰り返している。
アデオルがさりげなくバフ&デバフをかけてくれていたからこそ安定していたパーティが、早くも瓦解し始めていたのだ。
「ま、まあこういう日もあるさ。なんつったって、ここはSクラス級の地下迷宮なんだからな」
そう。
ベルフレドたちが抜けてきた《地下迷宮グレンドリオ》は、王国に数多く存在するダンジョンのなかでも、超難関だと言われるものの一つ。
S、A、B、C、D、E。
上のランクであればあるほど難易度が跳ね上がり、基本的には、自身と同じ「冒険者ランク」のダンジョンしか潜れない。
たとえばEランクの冒険者だと、同じくEクラスのダンジョンしか入ることができないわけだ。D以上のダンジョンに入りたいなら、自分の冒険者ランクを上げることが必要条件となる。
ベルフレドたちはまだAランクだが、これまで獅子奮迅のごとき活躍を遂げてきた。
間もなくSランク昇格の話も浮かび上がっていることから、特例として、彼らだけはSランクの《地下迷宮グレンドリオ》に潜れたわけだ。
ゆえに、彼らがここのダンジョンで苦戦するのは自明の理であり――。
むしろ軽々と最深部まで到達できたこと自体が、奇跡にも近い出来事だった。
「ふふ……。疲れたけれど、ここまでやったからには絶対に彼は生き残れないでしょう。私たちはよくやったわ」
そう言うのは、妖艶に前髪をかきあげる魔術師フレスタ。
「そ、そうだよな! デビルキメラ……アデオルにはもったいないくらいの相手だぜ」
最悪の怪物、デビルキメラ。
Sランク冒険者でも苦戦する魔物なだけあって、さすがにベルフレドでは手も足も出なかった。アデオルが先手を打って麻痺状態にしてくれていたが、それでもベルフレドたちの攻撃では、かすり傷ひとつ負わせられなかったのだ。
だから当初の予定通り、ベルフレドたちはアデオルを犠牲にして生き延びた。
最凶として知られる魔物の強さを確かめてみたかったのと、アデオルの追放を同時にやり遂げた形である。
「ん。代わりのサポーターを呼べば万事解決。次はきっと勝てるでしょう」
そう言うのは、回復術師のムーマ。
「そうだな。レベル1のあいつを庇いながら戦うのは、もうごめんだぜ」
「そゆこと。あいつ、どう考えても邪魔。殺して正解」
「はっ、ちげえねえや」
そう言って愉快に笑いながら、ベルフレドは両腕を後頭部にまわし、フレスタに視線を移す。
「ところで、あれはどうなってる? あいつじゃデビルキメラから逃げるのは絶対無理だと思うが……万が一ってこともあるだろ?」
「……ああ、それね。大丈夫。安心なさい」
そう言いつつ、フレスタは下唇に人差し指をあてがい、妖艶に笑う。
「万が一のときに備えて、トラップは仕掛けてあるわ。もし運よく彼が逃げようとしても……仕掛けたトラップに瞬殺されるでしょう」
★
「あ、あそこ! やっぱり人がいるわ!」
「待って……⁉ 向こうで倒れてるのって、まさかデビルキメラじゃ……」
退路の方角から姿を現したのは、思った通り少女の二人組。
さすがここまで来ているだけあって、まるで無駄のない身のこなしをしているな。
胸元が大きく開けていて、全体的に露出度の高い防具をしているが……その分、身のこなしに重点を置いているということだろう。しかもうち一人の少女を、僕はどこかで見たことあるような……?
「どうしよっか……」
「決まってんじゃん! 助ける以外ないって‼」
「や、やっぱそうよね……‼」
二人は数秒間だけ顔を見合わせると、一目散にこちらへ駆け寄ってきた。
他人の命を救うために、自分の身を擲ってまで駆けつけてくれるとは――。ベルフレドたちと比べても、はるかに良い人たちだと言えるだろう。
もし無事に帰れたなら、一生かかってもお返しをしなくては。
……と、そのときだった。
「ん……⁉」
なんだろう。
この妙な胸騒ぎは。
どうしてこんなにも胸がざわつくんだろう。
その瞬間、僕は気付いてしまった。彼女たちがいままさに走っている地面が、うっすらと不気味な輝きを放っていることに――!
「駄目だ! 来ちゃいけない! フレスタの罠だ‼」
気づいたら僕は大声を張っていた。
もう体力なんて残っていないと思っていたのに、案外、その気になれば頑張れるものだった。
それでも、現実は無情なもの。
喉を腫らす勢いで絶叫したのに、彼女たちを止めることは叶わず。
一瞬の閃光ののちに、迷宮全体を揺らす大爆発が発生した。鼓膜を突き抜けるほどの爆音が響き渡り、その影響で岩の破片たちが飛び散っていく。
「え……っ! ちょ、いや――‼」
そしてその大爆発に――あえなく二人組のうち一人が巻き込まれた。
このトラップは、もはや考えるまでもない。
かつて同じ勇者パーティに所属していた魔術師フレスタ……。彼女が得意としていたトラップ魔法だ。
そのトラップを踏むことで、炎属性の上位魔法、《プロミネンスバースト》が発動する。一帯を焦土と変えてしまうほどに高威力な魔法なので、戦闘時に使う際にも、周囲に気を遣いながら発動するはずだ。
たとえ彼女たちが高ランクの冒険者であろうとも、こればかりは――!
「ミスリアっ! ミスリア――――っ‼」
迷宮内では、取り残された少女の悲鳴が大きく響きわたっていた。
「くっ……! ベルフレド、おまえら……‼」
そして僕の心のなかでも、奴らに対する怒りが沸々と湧き起こってくるのだった。
彼女らがどれほどの実力者なのかわからないが、フレスタのトラップは本当に強力だ。
爆発に巻き込まれた少女のほうは、まず間違いなくタダでは済まない。
そこまでして僕を抹殺したかった元仲間たちに、僕は初めて強烈な憎悪を抱くのだった。
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