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レベル1の雑魚、Sランクの強敵に勝利する。

 ――麻痺パラライズ


 それは基本的には、対象者の動きが鈍くなる状態異常だ。


 耐性のない魔物の場合は、そもそも身動きがまったく取れなくなることもある。


 ゆえに戦闘時において、麻痺による状態異常は基本中の基本。これだけで生存率がだいぶ上がるので、麻痺技を一つ持っておくだけでも重宝される。


 ただ現在、僕と対峙しているデビルキメラに関しては――麻痺耐性は普通。

 動きは鈍くなるものの、それだけで勝てるほど甘い相手ではないということだ。


「ガァアアアアアアアアア!」


 デビルキメラが雄叫びをあげながら、僕に向けて突っ走ってきた。


 本来なら目にも追えないはずの速度だが、麻痺にかかればその限りではない。焦る必要もなく、次の補助魔法を取り扱うことができる。


「せあっ……!」


 補助魔法の一つ――《物理防御》。


 僕がそう念じると、突如、目の前に透明な膜が出現した。


 カキィィィィィィイン! と。

 デビルキメラが勢いよく振り下ろした腕が、その膜によって見事に弾かれた。


 これは発動後の数秒間のみ、物理攻撃を完全に防ぐことができる補助魔法だ。強すぎるため五分に一度しか使えないものの、使用のタイミングを見極めさえすれば、非常に有用な補助魔法の一つだ。


 そう。

 僕がこのタイミングで《物理防御》を展開したのには、訳がある。


「喰らえ……! 猛毒デッドリーポイズン


 大きな隙ができたデビルキメラの皮膚に触れつつ、僕はもう一つの補助魔法を発動。


 その名の通り、対象者に猛毒を浴びせるための補助魔法だ。


 通常の「毒状態」よりもさらに破壊性能が高く、これにかかった者は、急速に命を蝕まれていく。麻痺と同時に発動させることができれば、文字通り破格のダメージソースとなりえるだろう。


 ――ただひとつの難点は、この手の状態異常は敵に触れないと発動できないこと。


 レベル1の僕にとっては危険極まりない制限ではあるが、こうでもしないとデビルキメラにダメージを与えられないからな。五分に一度だけの《物理防御》を使ってでも、こいつに猛毒を浴びせる必要があった。


 これで勝利することができれば、もちろんそれに越したことはないんだが――。


「グァァアアアアアアア‼」


 いまだ元気そうな雄叫びをあげるデビルキメラに、僕は乾いた笑みを浮かべる。


 さすがは強敵と呼ばれるだけあって、この程度では健闘のうちにも入らないか。いくら《補助魔法》を極め続けてきたといっても、結局はレベル1。ここまでが限界なのかもしれない。


「ベルフレド……みんな……」


 思わず口から出た言葉は、ついさっきまで一緒に戦ってきた仲間しんゆうの名前。


 こうして状態異常にしさえすれば、あとはみんなが後処理をしてくれた。ベルフレドはずっと僕を守りながら戦ってくれていたし、他のメンバーもうまく支え合いながら場を切り抜けていた。


 ――けど、僕にできるのはせいぜいこの程度。


 足手まといと言われても……たしかに仕方ないのかもしれない。


 僕はみんなのことを親友だと思っていた。かけがえのない仲間だと思っていた。


 けれどそれは、僕だけの幻想だったのかもしれないな。


「グァァアアアアアアアアアア‼」


 相も変わらず絶叫をあげ、再び突進してこようとするデビルキメラ。


 今度は直に殴ってくるのではなく、遠くから攻撃するつもりらしいな。


 ライオンと鷲、龍。その三つの口で大きく息を吸っているのが見て取れる。数秒後には凶悪なブレス攻撃がここに迫ってくるだろう。


 もちろん、レベル1たる僕が喰らったら一溜まりもない。

 少しでもかすった瞬間、こちらが即死するのは目に見えている。


「え……っと、《補助魔法》発動、防御力極限アップ」


 そう唱えた瞬間、温かな光が僕を包み込んだ。


 防御力極限アップ――


 その名の通り、対象者の防御力を極限にまで跳ね上げる魔法である。聞いたところによると、なんと元の防御力が五十倍にもなるのだとか。


 その代わり数秒しか効果時間が持続しないので、これもタイミングの見極めが必要となる。


「念には念を……! 《ブレス半減》」


 次に発動した補助魔法は、文字通りブレス攻撃の威力を半減する魔法だ。


 これも数秒間しか効果がないので、魔物がブレスを使うのか、もしくは別の攻撃をしてくるのか――挙動を見極めて発動するのがポイントである。


 もちろん簡単なことではない。昔のうちは何度も読み間違えた。


 しかしいままで沢山の戦闘経験を積んだ結果、魔物の挙動くらいは少しずつわかるようになってきている。レベル1の出来損ないなりに、できることくらいはやっておかないといけないためだ。


 ドォォォォォォォォォォオオン‼ と。

 見込み通り、デビルキメラは三つの口からブレス攻撃を放ってきた。


 炎と雷、そして水。

 三属性が組み漁った凶悪な攻撃だな。


 けれど――防御力五十倍に、そしてブレス攻撃半減。


 この二つの補助魔法が組み合わさったいま、たとえ強敵のブレス攻撃であっても。


「ふぅ…………」


 ブレス攻撃の余韻で黒煙が漂うなか、僕は額の汗を拭う。


 さすがにここまで準備を整えた以上は、レベル1の僕でも耐えられて必然か。


 前述の通りタイミングを誤れば補助魔法が不発に終わるので、引き続き気の抜けない戦いが続くことになるが。


「ガガ……⁉」


 そして、どうしたことだろう。

 ブレス攻撃を受け止めきった僕に対し、デビルキメラが慌てたように後ずさった。


「はは……本当にすごいね君は。猛毒を喰らったってのに、まだまだ元気そうじゃないか。僕はもう限界だよ……」


「グ……グググ……」


 まさか恐怖を感じたのか、またしても後ずさるデビルキメラ。


 猛毒を喰らってから、もうそこそこ時間が経ってるはずなのにな。

 それでもまだピンピンしているあたり、さすがは化け物といったところだろう。


「…………」


 背後を振り向けば、フレスタによって出現させられた岩石は綺麗に砕け散っていた。


 先ほどのブレス攻撃を受けて、文字通り破壊されたんだろうな。


 おかげで退路が開かれた。

 うまくいけば――無事に帰ることができる。


「グルルルルルルル……!」


「はは、簡単には帰す気はないって感じだね……!」


 僕の目前では、デビルキメラが警戒心のこもった唸り声をあげている。


 いくらあいつが麻痺状態といえども、僕はレベル1のザコ人間。


 このまま逃げようとしても、まず間違いなく追いつかれてしまうだろう。どうにかうまく隙を見つけて脱出したい。


「くっ……」


 かつてないほどの緊張状態が続いたためか、意識が混濁する。


 肉体的にももう限界で、正直立っているのがやっとだ。この迷宮最深部に来るだけでも、かなりの体力を消費したからな。


 けれど、このまま気を失ったら命までなくしてしまう。


「頑張るぞ……!」


 僕は再度気合を入れなおし、デビルキメラの出方を窺うのだった。





 それからどれほど経っただろう。


 半日か……あるいは一日以上か。

 実際の経過時間は不明だが、少なくとも体感では半日以上、僕はデビルキメラの攻撃を避け続けてきた。


 麻痺にしているおかげで動きそのものは鈍重だし、万が一の際にも《物理防御》を使用すればいいからな。ベルフレドのように剣で攻撃することはできないので、猛毒の蓄積ダメージによってじわじわとデビルキメラを追い詰めていった。


 そして……ついに。


「ァアアアアアァ……」


 鈍い悲鳴をあげて、デビルキメラはその場に崩れ落ちていった。


 こいつもよほど疲弊していたんだろうな。最期の瞬間は本当に静かなもので、一度だけびくっと痙攣したあとは、そのまま動かなくなった。


「か、勝った……のか……?」


 レベル1の僕が。

 Sランク冒険者でさえ苦戦するというデビルキメラに。


 たった一人で、勝利をもぎ取った……!


「は、はははは……。はぁああああ……!」


 喜びの感情が湧き起こったのも束の間、僕もその場に尻餅をついてしまった。


 全身の筋肉が悲鳴をあげている。いままでは緊張感と死の恐怖だけを原動力にして動いていたので、それがなくなった瞬間、ぷつりと気が抜けてしまった形だな。


 とりあえず、今日はもう帰って眠りたい。


 デビルキメラの素材はとても希少なので、このまま帰るのはどう考えてももったいないけどな。けれどもう、そんなところまで考えている余裕はなかった。


 僕はいましばらく、静かになった洞窟内で休息を取るのだった。

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