トモダチ
どれくらい走り込んだだろう。
ギルドを飛び出してからも、嘲笑の視線は途切れなかった。
僕もAランク冒険者としてそこそこの知名度はあるし、あの様子だと、ベルフレドもこのことを周囲に言いふらしている気がする。
せっかく昇格できるチャンスかもしれないのに、そこで僕を見捨てていたことがバレてしまえば、奴らの進退にも大きく影響するからな。
だから先手を打って、僕を悪者に仕立て上げた――。
僕から反論させないうちに、みんなを取り込んだ――。
これが大方の経緯だろう。
本当に反吐が出る。
「あうっ」
そんな思索に夢中になっていたからか、地面に埋まっている石に気づけなかった。
僕は思い切りその石につまづき、身体を強く地面に打ち付ける。
「…………」
いつしか雨が降っていた。
まわりには誰もいなくて、誰からの視線もなくて。
無意識に人のいない場所に向かっていたからか、いつの間に郊外に辿り着いていたようだ。目の前には草原が広がっていて、もう少し先に進めば、魔物のうろつく危険地帯に突入する。
――もう、いいかな。
こんなクソみたいな世の中、生きていても仕方がない。
このまま魔物の群れに飛び込んで、誰にも気づかれないまま死んでも問題ないだろう。
いや。
それだと正直、ベルフレドたちへの怒りが収まらない。
自分が死ぬのは構わないが、せめてあいつらをギャフンと言わせなければ……この怒りを鎮めることはできない。
あいつらを、殺したい。
復讐したい。
命乞いしている姿を見たい。
とめどなく怒りの感情が湧き出てくるうち、ふいに視界が真っ暗になった。後ろから両目を手で覆われたようで、ベルフレドたちが追いかけてきたかと身を固くする。
しかし次の瞬間に投げかけられた声は、あまりにも可愛らしいものだった。
「だーれだ?」
「な、なにしてるんだよ……。ユメル」
「ミスリアから教えてもらったの。こういうことをしあうのが、トモダチなんだって」
「ト、トモダチ……」
「そう。アデオル君は、私にとって大事なトモダチ」
「…………」
そう言ってユメルは、ゆっくりと僕の顔から両手を離す。少女特有の甘い香りがその瞬間に漂ってきたのは、きっと気のせいではないだろう。
雨が強くなってきた。
僕らはその雨から逃れることもなく、しばらくその場に佇んでいた。
特にユメルは女の子だ。
髪型も服も激しく乱れてしまうというのに、それでも僕の傍から一向に離れようとしなかった。
「アデオル君は、これから……どうするの?」
「復讐すると思う。あの三人に」
「そっか。……そうだよね。あれだけやられて、怒らないわけがないもんね」
どうしたんだろうか。
ユメルの囁き声が、一瞬だけ憂いを帯びたように感じられた。
「だったら、私にも付き合わせてほしい。アデオル君の……復讐劇に」
「…………」
思わぬ提案に、僕は黙り込んでしまう。
「補助役のアデオル君と、攻撃役の私。相性はぴったりだし、ギルドと繋がっている私はなにかと使い勝手がいいと思う。そう思わない?」
「それはそうだけど……どうしてユメルが? 君にはメリットが一つもないと思うけど」
「ベルフレドみたいな人がSランク冒険者になったら、それこそ冒険者ギルドの崩壊よ。ギルドマスターはベルフルドに取り入れられてるみたいだし、このまま放っておくことはできない。それに」
続いて紡がれるユメルの言葉を、僕にはなんとなく想像できた。
「私たちはトモダチ、でしょ。アデオル君を放っておけるわけないじゃない」
そう言って、彼女はなんと小指を差し出してくるではないか。
「約束しよ。私たちはトモダチ。これからもずっと一緒だって」
「…………」
トモダチ。
その言葉にこだわる真意は、僕にはまるでわからないけれど。
あいつらに復讐するために、ユメルがいてくれれば助かるのも事実だ。
「わかったよ。これからも一緒にいよう」
強烈に吹きすさぶ雨のなか、僕らは小指を重ね合わせるのだった。
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