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追放劇

「なんじゃ騒々しい」


 ギルド内に嘲笑が湧き起こっているなか、一際貫禄のある声が響き渡った。


 ――ヴェレスタ・ボータン。


 王都支部のギルドマスターを務める人物であり、そしてベルフレドをいたく気に入っている人物でもある。なんでも「ベルフレドはかつてのワシに似ている」とかなんとか言って、やたらベルフレドを贔屓にしているんだよな。


 そしてヴェレスタの隣にいた人物を見たとき――僕は思わず大きな声を発してしまった。


「おまえ……ベルフレド……っ‼」


「な、おまえ……。生きてた、のか……」


 ベルフレドも同じく動揺していたが、それはほんの一瞬だけ。

 すぐに醜悪な笑みを作り上げると、僕を指さしてヴェレスタに言った。


「ね、言ったでしょうマスター。デビルキメラを倒した手柄を奪うような奴です。またのこのこと現れて――よからぬ企てをしようとしているに決まっていますよ」


「うむ。お主の言った通りだったな、ベルフレドよ」


 ヴェレスタはこくりと頷くと、見たこともない厳しい表情を僕に向けた。


「――アデオル・ヴィレズン。話は聞かせてもらったぞ。貴様、デビルキメラを倒す寸前で仲間たちを裏切ったようじゃな?」


「え……⁉」


「迷宮にいた冒険者たちが証言しておる。あそこには不自然なトラップ魔法の跡と……魔法によって出現したであろう大岩が転がっていたとな。ベルフレドたちに内緒で、優秀な魔術師を雇っておったそうじゃが?」


「ち、違う……! 違います‼ 僕は断じてそんなことは……!」


「おぬしはベルフレドたちと比べ、戦闘能力だけで言えば皆に劣る部分があった。それでも健気に頑張っているとは思ったが、そんな形で名誉を得ようとするなぞ……言語道断じゃ。よって、アデオル・ヴィレズンよ」


 汚物を見るようなヴェレスタの視線が、ひたと僕に据えられる。


「貴様のような大馬鹿者を、冒険者として活動させるわけにはいかん。よっていまこのときをもって――冒険者ギルドから追放とする‼」


 おい。

 おいおいおい。

 おいおいおいおいおい!


 どういうことだよこれは!


 なんでみんな、ベルフレドのほうを信用するんだ! こんな身に覚えのないことで、どうして……!


「そういうことだよ、アデオル君♪」


 ベルフレドはにっこりと憎たらしい笑みを浮かべて言った。


「俺とおまえじゃ、信用に天と地の差があんの。あんなにわかりやすいトラップ魔法なんか置いてたら、そりゃバレるって♪」


「ベルフレド……貴様……っ‼」


「おおっと。怖い怖い。そんなに怒ってどうするつもりなのかにゃあ? う~~ん??? アデオルくんってば、本当にクズでちゅね〜♡」


 唇を尖らせながら笑ってくるベルフレド。


 いくらかつての親友といえど、これはあまりにも度が過ぎている。さすがに顔面に一発、本気の殴打を見舞わないと気が済まなかった。


 ――けれど。


「帰れ! 帰れ!」

「追放! 追放!」


 ベルフレドに釣られたか、他の冒険者たちまでもが僕を煽り始めた。全員で声を合わせ、僕を追い出そうと大声をあげている。


「…………」


 こんなものを見せられてしまっては、もはや怒る気にもなれなかった。


 もう、なにもかもがどうでもいい。

 もう、こんな奴らと一緒に過ごす道理はない。


 こんな世の中――クソくらえだ。


「おはようございます……。って、え……?」


 そして場の悪いことに、このタイミングでユメルが姿を現した。


 いつも通りギルドの扉を開いたら、僕は冒険者たちから罵声を浴びせられていて、誰もが僕の悪口を叩いていて。


 こんなものを見せられてしまっては、戸惑わないほうが無理あるだろう。


「アデオル君……? これはいったい、どういう……」


「いやぁ~! ユメル様! 聞いてくださいよぉ~~!」


 きょとんとしているユメルに対し、ベルフレドがゴマすりしながら歩み寄っていく。


 奴にとって、Sランク冒険者たるユメルは憧れの大先輩。

 だから僕をダシにして、いまのうちに彼女の懐に入り込みたいのだろう。


「グレンドリオの迷宮で、俺たちこいつにハメられましてぇ~~~~。デビルキメラを倒したっていう功績を、全部持っていかれるところだったんですよぉ~~~~!」


「デビルキメラを倒した功績を……? アデオル君が?」


「ですですそうなんですぅ~~! ひどい奴ですよね! だからこんな奴、ギルドから追放すべきだと思うんですよ! ユメル様もそう思いますよねぇ~~⁉」


「…………」


 いまだ理解が追い付かないのか、ユメルはギルド室内を見回すと。


 最後にその視線を、ひたと僕に見据えた。


「ユメル……ごめん。そういうことだから」


 僕は涙声でそう言うと、一目散にギルドから飛び出していった。


 彼女の戸惑っている表情を見て、耐えきれなくなったのだ。


「あ、逃げるのかよ! やっぱおめぇ卑怯者だなぁ~~!」


「追放♪ 追放♪」


 追い打ちをかけるようにして、ベルフレドたちが後ろから罵倒を浴びせてくる。


 けれどもう、なにもかもがどうでもよかった。


 僕の頭のなかでは、いままでずっと一緒に過ごしてきた元仲間たちとの思い出が――ドス黒く塗られ始めていた。

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