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準備の章 後悔の巻

「さあ、ここが私たちの集落よ!!」


意気揚々とフィムに紹介された集落は、なんとも簡素な場所でした・・・。

いやさ、こういう世界の一般市民はさ、中世ヨーロッパの民家みたいなコジンマリとしたモノを想像するんだけど・・・、これはなんというか・・・その、うん。

とっても原始的ですね!!

いや人様のお家にいちゃもん付けるのは最低ですよ、はい。住めば都って言葉もあるくらいですし。フィムは長年ここに住んでるんだし、それに当てはまるんでしょう。

でもさ、なんかもう屋根一画とんでっちゃったのか無くなっててむき出しで、玄関らしきモノすらない有様な家がもう何軒もあるんですよ。

あぁ、かやぶき屋根の家が恋しいです。

「キヌホ、こっちよ!あの丘の1番高い所にあるのが、この集落の長の家。私の家でもあるの!」

まさかの村長の娘さんだったよ・・・。

確かに他の家に比べたら1番高い所に建ってるし、1番大きい感じだけど、やっぱ屋根の殆どが無くなってた。なんなの?屋根があったらルナ族的にアウトなん???


石畳の階段を上りきった先に待っていたのは、初老のうさ耳おじさんでした。背丈はフィムとどっこいどっこい、おなじ白い毛並みが少々白髪のようにみえる。服装も似たような民族衣装風。多分フィムのお父さんかな?このうさ耳おじさんが村長さんなんだろうな。威厳が感じられる気がする。知らんけど。

「お父様!!」

「フィム!!」

駆け寄ったフィムを抱きしめるうさ耳おじさん、もといフィムパパ。やっぱお父さんだった。

「人の匂いがすると言って出て行ったきり、何時までたっても帰らんから心配しておったんだぞ・・・!」

「ごめんなさい、お父様・・・」

おっと・・・!それは確実にアタシのせいです。ごめんなさい!!

いたたまれなくなってその場でソワソワしてたらフィムパパと目が合ってしまう。誠にすいませんでした!!!

五体投地しなきゃ。

「この人間が森の中を彷徨いていたのか・・・。なんと無謀な・・・」

「あ、はい・・・。フィムが見つけてくれてなかったらどうなってたか・・・本当にすいませんでした・・・!!」

「キヌホ!謝らないで!結果的に私がキヌホに助けられたんだから・・・」

「?どう言うことだ・・・?」

フィムパパの疑問にはフィムが丁寧に説明をしてくれた。

人間の匂いを辿って森に入ってすぐにボアボアの匂いを感じ取ったこと。

ボアボアとそう遠くない位置に人間の匂いがしたために、助けようとしたこと。

道中迷子になって、ボアボアと遭遇してしまったこと。

アタシがスキルを得てボアボアを倒したこと。

そして、アタシが行く当てのない異界人であることを・・・フィムは包み隠さず、それでいてアタシの立場が決して弱くならないように説明してくれた。

道中の迷子はアタシのせいなのに、めっちゃ濁して話すもんだから思わずすいませんって口にしかけたのをフィムにほっぺた押さえられて黙らされちゃった・・・。

いいから私に任せなさいって?イケメンかよ・・・。

「なるほど・・・、フィムが助けられたようですね。感謝します」

「え!?いやいや!!まず先にアタシのほうがフィムに助けられてますから!頭下げないで!!こちらこそ、フィムには感謝しても仕切れない・・・。フィム本当にありがとう・・・」

「キヌホ・・・こちらこそありがとう・・・」

深々と頭を下げるパパさんにめちゃ焦る。

大前提としてフィムがいなけりゃアタシは今もあの森で迷ってたかも知れないし、なんならおじじのスキルも覚醒せずにボアボアに殺されてたかも知れない。

彼女がいてくれたからこその今ココなのだ。

頭を下げて感謝すべきはアタシなのに、何故かフィムまで感謝してくれる。

・・・やばい。まだ数時間の付き合いなのにフィムが大好きです。

異論は認めません!

「恩人は集落全体でおもてなしをする決まりだ!今日は宴だぞ!」

「任せて!お父様!!キヌホ、楽しみにしていてね!!」

「お、おおう・・・」

唐突に元気になりましたね、お二人とも・・・。

パパさんが元気に「宴だー!!」と階段を駆け下りていくのを見送り、フィムもまた「お家に入って待ってて!」と駆け出してしまった・・・。見ず知らずの場所で放置しないで・・・。心細い・・・。

とぼとぼと家の中に入る。

家の中はまた簡素。

必要最小限の家具、台所、ベッドのどれもがこの一室にある。

どれもこれも使い込まれて古びている。

集落で1番大きな家だけど、玄関から入って一室しかない家には不思議な暖かみがにじんでいる。

・・・なんだか家の事を思い出した。

台所にあった椅子に座り、まだ離れて少しの時間しか経っていない家族を思う。

今、どうしているだろうか・・・。

アタシは・・・帰れるんだろうか・・・。

「おとうちゃんと・・・仲直りできるかなぁ・・・」

思わずこぼれた・・・後悔。そっか、アタシ、仲直りしたいとおもってたんだなあ・・・。

息をついて、上を見上げる。屋根のない吹きざらしの家から見える空は、木々に光りを遮られて淡い太陽の光が美しいコントラストを作っている。

その木々はやはりアタシの知っている植物にはない特徴ばかりで、改めてここがアタシの知る世界ではないことを思い知らせる。

どうしてこうなったんだろう。何故アタシだったんだろう。アタシはこれからどうすればいいんだろう。

今この場所で考えてもしょうが無いことばかりが思い浮かぶ。どうしようもできないのだ・・・。


「帰りたい・・・。家に帰りたいよ・・・みんな・・・」

見上げた瞳から涙が滲んでくる。嫌いだ。いざとなったらすぐ泣いて、強い家族たちに守ってもらおうとするどうしようも無く弱い自分が、大嫌いだ・・・。

-スキルがレベルアップしました。

スキル・姉妹の絆にパッシブスキル・長姉の寵愛が追加。続いて、スキル・兄妹の絆にパッシブスキル・長兄の庇護が追加されました-

「!!」

・・・びっくりして涙が引っ込んだ。

いつ聞いても慣れないな、この声。

っていうか何?また増えたの??今ここで???

増える要素あったか!?どういう基準なんだ!!まったく意味がわからんぞ!!?

別に今危機的状況でもないのに増えたスキルか・・・。なんかのぞくの怖いんだけど。しかも、お姉とお兄のスキルかー・・・、絶対やばいに違いない。

兄妹の中でもとりわけぶっ飛んだ二人だ。確実にぶっ飛んでるに違いない!主に思考が。

まだ未確認のスキルもあるし、泣いてる暇があるならスキルを確認して次の行動に移る方が有意義だよねー・・・。

・・・確認するか・・・。

思考を切り上げ、意識を集中させはじめ・・・

「キヌホ!!」

たら、突然フィムがご帰宅なさった。おかえり、宴の準備がえらく早くないですか??

センチメンタルになっていたアタシの気持ちはどこへ向かうべきなの??そんなあなたが大好きです。

「集落の方へ来て!あなたに私たちルナ族のことを知ってもらいたいの。一緒に準備を楽しみましょう!みんなには声をかけてきたから!」

「そういえばココに来るまでに誰にも会わなかったね。集落のド真ん中突っ切ってきたのに」

「みんな隠れてたのよ。人間のお客様なんてこの集落では初めてのことだもの、怖がっちゃって・・・。ルナ族は本来臆病な種族だから」

「なるほど・・・」

それでいくと、フィムは本当に規格外な子だったようだ。怖がりなのに見ず知らずの人間(未知の生命体)を助けようと動いたって事なんだから。

やっぱりすごいよ、フィム・・・。

「さあさあ、とにかく降りましょう!その見窄らしい格好もなんとかしなくちゃ」

「唐突なディスりがはいった」

まあしょうが無い。このくたびれスウェットと傷だらけの足見たらそうなる・・・、そういえば血だらけのはずの足が全く痛くないな。

気がついて見下ろした足には血痕どころか傷1つ見当たらない。

・・・??????

たしかにフィムに出会う前は傷でズタボロになってた足が綺麗になっている。ってか、いつの間にか治ってる!!?

「なんで!!!???」

「・・・あなたのその唐突な絶叫にも段々慣れてきたわね。一体どうしたの?」

「フィム!!足が治ってる!!」

「は?」

傷ついた足が治っている事に驚愕するアタシをよそに、フィムはなんてこと無いように言う。

「簡単な事よ。多分、あなたの保持しているスキルの中に治癒系の効果をもたらすものが入ってるんだわ。だからあなたの傷も癒えた」

「・・・スキルって万能なんだね・・・」

「そんなことはいいのよ!はやく着替えましょう!」

アタシの驚愕をそんなことで片付けちゃうの・・・??


背中を押され、舞い戻った集落では村民たちが活発に村を行き来して準備に追われていた。

フィムに押し込まれた家屋の中には三人ほどのルナ族の女の子がいて、あっという間にアタシは身ぐるみを剥がされ、真っ裸にされお湯を張った桶に突っ込まれた。その中で体のあらゆる場所を丁寧に、念入りに洗浄されました。もうお嫁に行けない・・・!

今日の宴の主賓に対しての扱い雑じゃないかい、お嬢さん方・・・。

ちょっと硬い布でこれまた丹念に拭きとられ、頭から服をかぶせられる。

デザインはルナ族のみんなが着ている民族衣装と似ているけれど、よくサイズが有ったな・・・。

フィムが着てるのみてたから思うけど、かわいいな・・・。

が、しかし・・・。

「スカート丈・・・短くない???」

「そんなことないよ!とってもかわいい!」

「素敵です!」

「似合ってるわ!」

「え・・・そう??ほんとに?」

カワイコちゃんたちにべた褒めされては、悪い気はしませんな!チョロいって言うな!!

しかし、見れば見るほどスイスとかの伝統衣装に似てる・・・。文化まったく接点無いはずなのに不思議なこっちゃ。

「そういえば、まだお礼を伝えてなかったね!私はノーマ!フィムを助けてくれてありがとう!」

「あ、あのあの・・・私はパティといいます・・・!本当にありがとうございました!」

「私はコゼット!フィムと私たちは幼馴染みなの。あの子を守ってくれてありがとう!」

3人そろって綺麗に頭を下げるものだからこっちがちょっと申し訳なくなってくるけど、そっか。フィムはみんなに愛されてるんだなあ・・・。そりゃそうか、あんなにいい子だしな。

「こちらこそフィムのおかげで死なずにすみました。ルナ族のみんなにも村に受け入れてもらって本当に感謝しています。ありがとうございました!」

お返しに大きな声でお礼を返すと、彼女たちは照れくさそうにはにかんでいた。・・・ルナ族の女の子はかわいい子ばっかだ。

ノーマとパティに手を引かれ、コゼットには背中を押されて家を出ると、どうやら集落の中心でキャンプファイヤーの準備らしきモノに取りかかっていた。

「私たちルナ族は月の女神の加護を受けた種族で、こうした祝いの席になると月の女神様の番・炎の軍神様へ捧げる炎をあげるの」

「女神様にじゃなくって、その番の神様にささげるの?」

「女神様はすでに私たちを生み出し、その行く末を守ってくださっている。かわりに、ルナ族の生涯で起こるあらゆる幸福と安寧は軍神様が、女神様の眷属のために与えてくださっているもの。だから女神様への感謝はもちろん、日々の幸福を軍神様に感謝し、祈りをささげるのよ」

「なるほど・・・炎の軍神様だからキャンプファイヤーしてるのか・・・」

宗教系の話はあっちの世界じゃ全くのノータッチだったから、なんだか新鮮だな。

「さ!キヌホは私たちを手伝って!」

「こちらです!」

と、またまた移動が開始される。

別に不満もなにもないし手伝わせてくれるんなら喜んでするんだけど、こういうのってお客は放置してるもんだと思ってたな。

いや、これもフィムが言ってたルナ族流なんかも・・・。

連れ出された先には大きな川。そこかしこでルナ族の女性が何かを川に浸して洗ったりの作業中だった。

「ここが私たちの生活用水。大森林からマナの恵みをうけて流れ出たありがたい水よ」

「ここで今日の宴に出す料理の準備もしてるから、キヌホもお願いね!」

と篭いっぱいの野菜を手渡される。

おお・・・ニンジンばっかりじゃなかった。なんか他のポピュラーな野菜・キノコ・山菜がてんこ盛り・・・。

森の木はみたことないのばっかだったのになんでこういうのはあっちの世界と一緒なんだ・・・???おかしくない??

細かいことは良いんですっていう天の声が聞こえてきたので、とりあえず3人に倣って川に寄っていく。

「ほひょ~っ!!」

川の水はがち目に冷たくって思わず変な声でた。みんなにクスクス笑われてる・・・はっず・・・。

「ねーねー!フィム姉ちゃん助けたってほんと?」

「ボアボアみたってきいた!」

「見ただけじゃ無くって倒したんだよ!」

「すごーい!」

「どうやって倒したのー??」

「おっきかった?」

「ねーねー」

めっちゃちっちゃい子たちが群がってきた。野菜洗い開始一分も経ってないんだけど・・・。

しかも質問矢継ぎ早!こっちの返答1つも聞いてないじゃん!!

子供はパワフルなのはどの世界どの種族も同じか・・・。かわいいやっちゃ。

手をなるべく止めずに子供たちの相手をしていると、なんだかめちゃくちゃ懐かれて背中に2人ほどへばり付きだした。

ルナ族は人間に比べると小柄だから、大人でもアタシたちの子供サイズ。そんなルナ族の子供はもっと小さい。だから2人くらいへばり付かれても然程重くはないんだけど、さすがに長時間乗っかられてると体がしんどくなってきた・・・。

自分のノルマとして渡された篭の野菜を一通り洗い終わると、キャンプファイヤーの方からフィムが手を振りながらやってきた。

「キヌホー!」

「フィム、お疲れ様」

「キヌホもずいぶん懐かれたわね」

フィムはクスクス笑いながらアタシの背中に張り付いた2人と傍にいるほかの子供たちを指さした。

懐かれるのには嬉しかったんでそりゃあ好きにさせておりますとも。かわいいし。

「野菜洗いは終わったみたいね!じゃあ今度は私を手伝ってほしいの」

「フィムの手伝いは全然するけど・・・今度はなにするの?」

「あなたのボアボア討伐の時見ていて確信したんだけど、あなたのスキルは狩りに向いてると思うの!だから、また森で今夜の宴のメインディッシュを獲りにいきましょう!」

テンションマックスでサムズアップしてきたフィムにドナドナされて、アタシたちは玉響の森方面へと歩き出した。


・・・こんな短いスカートで森の中は危険だと思うの・・・っていう至極全うなアタシの意見は当然のようにスルーされ、森の奥地へと進む。

このときは知らなかったけれど、これがフィムの故郷を見る最後の瞬間だったこと。このあと、アタシがこの世界で果たしたフィムともう1人の運命の人との出会いが待っていることなんて・・・まあ、知らなかったんだよね・・・。








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