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出逢いの章 響く声の巻

「…おかしい」


御山に入って約30分。そろそろ息が切れてきた。

がしかし。一向に目的の山小屋が見えてこない。おかしい。

あそこはおバカなアタシでもわかりやすいようにほぼ道を一直線。徒歩でも10分以内で余裕でつける。

アタシの体力が保てるギリギリのラインで建てられている。

…なんだろ。おじじは生まれてくる末の曾孫が体力皆無のもやしっ子になるというお告げでもあったのだろうかというくらいアタシにピッタリな立地でたててくれてる。

あれ?おかあちゃんのための小屋だったんじゃ…。


もう体力がもたなくなってきた…。足くそ痛い…。

ってゆーかこれはもしかして…

「迷った…??」

おバカでもさすがに理解できる。

アタシ迷子ってか、遭難してる…!!!

「やばい!!おとうちゃんにバレたら今度こそゲンコもしくは投げ飛ばされる…!!」

いや、怒り具合では両方の線が…ってか今朝の件も含め両方の線のが濃厚。いかん。痛いのは勘弁である。

急いで元来た道に引き返そうと振り返った。が、

「…あれ?道がない…????」

さっき通ってきた舗装されてないにせよ踏み慣らされた山道が獣道に早変わりしている。

いやいやいや。

だってアタシ、スウェットにクロックスよ??獣道なんざ歩けようはずもない。一瞬にして足が傷だらけになるわ。つまりアタシが通ってきた道ではない。

…まっすぐ直進してきたはずなのにおかしいなあ…。

「いや!呑気にしてる場合じゃない!!帰れない!!やばい…怒られる云々のまえに…」


死んでしまう。


単純な脳みそもそのくらいは想像がついた。

手元には何もない。手ぶら。

帰り道を指し示すものもない。山にこもる準備もない。絶望的。

現在地も不明瞭で、ここまでくると今いる場所が本当におじじの御山かもわからない…。

「ど、どうしよう…。どうしたら…」

パニックになる頭によぎるのは、両親の言葉だった。


【ええか。お前はアホや】

【なんて暴言】

【でも山に入ろうとする。ならこれだけは覚えとけ。ええか、山で遭難したら…】


そう。そうだ。おとうちゃんが言ってた。山で迷ってどうしようもないなら…

「まず…水を探せ…水は流れ落ちていく、自分の生命線になると同時に、運が良ければ集落につながる…」

冷静になれとも言っていた。

正規のルートを優先してさがすためにも見晴らしのいい場所を見つけることも大事だけど、頭が冷えていくにつれてやっぱりここはアタシの知ってる御山じゃない気がしてきた。

植物の種類が違う。

おじじの御山は杉林がまず目につく。けれどここは雑木林。山小屋までは基本杉の木がある。でもここにはそれがない。っていうか絶対日本の植物じゃない。どう見ても亜熱帯を想像する木々だ。

…なんでここまで来てそのおかしな点に気づかなかったんだアタシ。馬鹿なの??

…家族にお墨付きもらうくらいにはおバカだったわ。そういや。

「とにかく水。川とかあれば尚いいけど…」

はたして素人に簡単にみつけられるものであろうか…。

「いや!!諦めたら試合終了って敬愛する某先生も言ってたし!諦めるな絹穂!!!」

諦めてしまえばもう二度と生きて家に帰れない。まだやりかけのゲームも読みかけの漫画も山ほどある。やるっきゃねえ!!!!

「とりあえず…もうちょい登るかあ…」


ごめんなさい、先生。山口絹穂すでにくじけそうです。

みつからんよ~…水辺どこよ~…喉かわいたし、なんならクロックス穴あきそう。スェット越しに草木で足傷だらけ。あ、穴あいてる…。

血みどろだあ…。おとうちゃんに似て痛みに鈍感でも痛いのは嫌いだし、限界が近い。

「泣きそう。いやガチで泣く五秒前」

視界が潤んできた。ふえぇ…この状況まじいかん。死ぬかも…。

「ぷきゅう」

思わず変な声出た…、いや。まって。今のアタシの声じゃないな。なんだろ、もっと足元のほうで…

「ぷきゅきゅ、ぷきゅ?」

「ぷ…ぷきゅー…」

思わず真似してもうた。え?なにこれ。

目の前にはなんかスイスの民族衣装みたいなん着て二本足でたってるウサギがいた。なんだろ、こんな感じのおもちゃあったね。有名なやつ。

うちにも大きな屋根のおうちあるわ。

え?まって?ウサギが直立で二足歩行してる?

「ぷきゅぷきゅきゅきゅー!」

「え!?な、なに!?なんなん!!?」

混乱してたら突然ウサギ?さんがスェットをおもっくそ引っ張ってくる。ちょいまって。そんな引っ張られたらこんな薄くなったくたびれスェット破けるわ。

踏ん張ったらなおも引っ張ってるウサギ?さん。よくよくみるとこのウサギ?さん表情がある。

顔が青白く…いや、元から白ウサギさんだから白いんだけどなんか妙に焦っている。

まるで早くここから移動させようとしているかのような…。

「きゅー!きゅー!」

「まってまってまって!わからん!言葉がわからんのよ!たぶん何か伝えようとしてくれてるんだろうけども!まったくもってチンプンカンプンで…!」

焦ってまくし立ててきてるのが何となくわかるのだが、まったく言葉が通じない。ついていっていいのか?っていうかやっぱここ御山じゃない。御山にこんな未確認生物いたためしはない。

ってかここ地球?今更ながらおもうけどまるでこの子ファンタジー世界の獣人とか亜人とかっていう種族の子のような見た目だ。

あれ?もしかしてこれって…

「巷で流行りの異世界転生!!!?…いやアタシ死んどらんし…」

状況的によく漫画やアニメにある展開とそっくりだ。こう、わけわからん場所に出て現地民に出会う感じ…。おお、さっきの遭難の発覚もあってめちゃ冷静じゃんアタシ。

「ぷぎゅーー!!!!」

「うぁいったぁ!!!!?」

なんかよそ事考えてたらウサギさんに頭はたかれた。ウサギの脚力を遺憾なく発揮してジャンピングしての頭部ビンタ。威力はマシマシですね。さっさとしろってことかな、はい。

頭のダメージに涙目になりつつさすっていると…


〈スキル・姉妹の絆を獲得。パッシブスキル・次女の権能を発動〉

「ふぉあ!!!?」

「ぎゅ!!?」

突如頭に女性の声を模したような機械的な音声が響いた。びっくりした。ついでに言うとびっくりして発したアタシの奇声にびっくりしたウサギさんも変な声出してた。すまんね。

「ど、どうしたの?大丈夫…?」

「あ、うん。ごめんね…ってあり???」

おわかりだろうか。さっきまでぷきゅぷきゅ言ってたウサギさんがなんか知らんが流暢な日本語を口にしだした。びっくりした。

「え、あの、アタシの言葉わかる…?」

「え…。え!?わかる!!どうして???人間の言葉は挨拶くらいしかわからなかったのに…」

おおう。どういうこった。なんか知らんが意思の疎通ははかれるよになった。ウサギさん悪い人…ひとじゃないな。いいウサギさんのようだしとりあえずどうしたのかきいて…

「ってそれどころじゃない!!早く逃げないと!!人間なんて弱い種族がこんなところをノコノコ歩いてたら一瞬にして殺されてしまうわ!!」

おっとー???なんか物騒なこと言い出したぞこのウサ子。あとなんとなく感じてたけどこの子女の子だったな、やっぱ。ようし。君は今この瞬間からウサ子だ!!

「早くこっちへ!さっきあっちの雑木林で見かけたから、もうすぐそばまで迫ってきてる!!」

「え?なにが???」

「ボアボアよ!凶暴なイノシシ型の魔物、人間なんてごちそうがいて匂いを追ってこないはずがない!だからはやく!!」

「魔物…?まじファンタジーじゃん…」

我ながら呑気だ。自分でもわかってる。異常な状況なのに妙に頭がクリアで冷静だ。さっきウサ子にしばかれてネジとんでったかも。

ウサ子がアタシの手を取って走り出す。はやい。もやしっ子にはそのスピードは酷です。お待ちになって。しきりに「はやく」とか「頑張って」とか声かけてくるあたりものっそい優しい子だ。スピードやばいけど。考えてみたら挨拶程度しか言葉わからんくらいの別種族の小娘を危険な魔物の脅威から遠ざけようとしてくれてる。中々どうしてできることじゃない。同じ人間であったとしたらいったいどれだけの人間が同じようにできるだろう。

…できないだろうな、アタシは。すごいな、この子。かっこいい。


助からなきゃ。この子が生かそうとしてくれてるんだもの。走らなきゃ。生きるために。


<スキル・兄妹の絆を獲得。パッシブスキル・三男の健脚を発動>

「うぉおおおおお!!!???また!??」

「ぎゅ!!??ちょっと何!?大きな声出さないで!」

「すいません!!!」

またまた響く声。っていうか声?なんかシステム音声っぽいから逆に怖い。びっくりしたからまた奇声が出て怒られた。すまんね。

さっきから姉妹だのなんだの言ってるけどなんなんだろうか…。

すると次の瞬間、走り続ける足に妙な熱がこもる。あれ?

「足が軽い…?っていうか、動く!!息も苦しくない!え、めっちゃはやーい!!」

「きゃ…!なに!?」

「どこまでもいけるー!!!」

「ちょっと!そっちじゃないわ!」

「うあーい!!!」

テンション爆上がりでウサ子の声が届かず、彼女の手をアタシが逆に引く形で爆走する。

だからまあ…その…


「…ここじゃない」

「はい!すみませんでした!!!」

ウサ子の目的地とはまったく違う川のほとりにたどり着いていた。

遭難してた当初の目的地である水辺ではあるが、当然アタシを助けようとしてくれていたウサ子はちがう。…わかる。これは静かに怒っている。

「ホントごめんね…。なんか頭に声が響いてから足めちゃ早くなったから調子のっちゃって…」

「声…スキルを獲得したの?あの状況下で?」

「スキル…そんなとこまでゲームとかと一緒か…」

「スキル確認は後からにして今は一刻も早く逃げなくちゃ…でないと…、!!!」

突然ウサ子の表情が凍り付く。

それと同時に目の前の川辺に巨大な塊が降ってくる。水しぶきをあげ、黒い巨体が起き上がる。

…イノシシだ。見た目は。

だがとんでもなくでかい。160cmあるアタシの身長を四足歩行のままでゆうに超えている。全長なんて言い出したら何メートルあるかわからない。

なるほど、これは化け物だ。こいつがウサ子の言っていた魔物。こいつが…

「ボアボア…!!」

恐怖と驚きでウサ子の声が引きつってる。

確かにこいつはできれば対峙したくないかもしれない。こわいわ、これ。

でもなんでピンポイントでここに来れたんだろ…。

…あぁ、なるほど。こいつは風下から来た。アタシたちの位置はもろバレだったようだ。


あれ?アタシなんでそんなことわかるの??なんでこんな冷静なの…???

今まで優秀な兄妹、強い兄妹、すごい両親、家族みんなに甘やかされて生きてきたアタシには咄嗟の判断でこんなこと思いつくはずはない。

でも、わかる。体が動く。

手が自然とそうなっていく。

今アタシの手には、握られている。

これは銃だ。猟銃だ。

おじじの写真にあった、使い古された銃。触ったことなんてなかったのに…手に馴染む。


<スキル・曾祖父の愛を獲得。パッシブスキル・山に生きるモノを発動>


また声が頭に響いた。

淡い光とともにおじじの愛銃が確かにアタシの手のなかに現れた…。







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