序章 家出の巻
今朝、お父ちゃんと喧嘩した。
理由はなんてことはない。アタシの進路が原因だった。
今年でアタシも高校二年生。そろそろ進路について真剣に考えていくべきなんだろうけど、如何せん。
身近な人たちが凄すぎて何がしたいか、何が目標かまったく定まらず今に至っている。
父も母も人を助け守ることを仕事にしていた立派な人だし、兄弟たちもみんなそれぞれ人のために働いている。
親族もまた然り。一番の若輩ものであるアタシだけがただただ好きなことをして過ごしてきた。
不安はあった。焦りもあった。
でも決められなかった。凄い家族たちに守られ甘やかされていきてきたアタシは、自分が何ができるのか。そのためにどうしていけばいいのか分からずじまい。
好きなゲームと漫画だけを愛でて、今年17歳になる。
…で、家でグータラしてばかりのアタシにとうとう今朝。お父ちゃんの雷が落ちたのだ。
いつも味方してくれてたお姉やお兄も今回ばかりはマジ切れ父ちゃんに同調してきやがった。
くそっタレ…。
で、結局今。イライラに任せて家を飛び出してきたわけだけど…。
端的に言うと、アタシの実家はクソ田舎だ。
見渡す限り、田畑・山・川!!隣近所なんて言うが、そのお隣の藤原さん家は自転車で5分かける。
…まだ近いほうだな、これは。
そんなわけで予想はつくと思うが、近所に家出高校生が留まれるような施設なんざ皆無。
コンビニやスーパーすら車で10分以上かかる。クソったれ。
どーしよっかなぁ…。
今日は平日。本来アタシは学校に行ってなきゃなんだけど、サボって今ココ…。当然友達はみーんな学校行ってていない。つまりは匿ってくれるところがない。
自転車乗ってくればよかった…。
…よし。こうなったら山にいこう!!
何故かって?
実はウチの家の裏手にある山は曾爺さん・おじじの山。おじじは山で猟師として生きた人でおじじが生きていた頃は、この山でよく過ごしたそうだ。
おじじの山・御山にはおじじがアタシのために残してくれた山小屋がある。元々は母、つまりおじじの孫娘のための遊び場だったが、今やその小屋の中はアタシの秘密基地と化している。電気は通っちゃないが一時的に身を隠す場所としては上等だ。
夕方になれば友達も帰ってくる。そうなればこっちのもの、いくらでもやりようはある。…まあ迷惑かける前提なのは心苦しいが、今日はもうお父ちゃんの顔も見たくない。すまん友よ。
そうと決まればレッツ御山!
微妙に踏み慣らされた雑草まみれの道をスェットとクロックスという山を登るなら頭おかしいと思われるいで立ちで侵入する。
これが山口絹穂16歳・一応乙女【笑】の異世界生活の第一歩となったのである。