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甘夏と青年  作者: ささえ
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変えられなかった未来




 夜も深まり、玄関外まで出た智明と大輝の二人。



「ごめんな、久し振りなのに途中で変な話をしてしまって」



 先程の話の事だろう。大輝は恥ずかしそうに首を掻く。



「今日はトモとゆっくり話せてよかったよ」


「大輝、大丈夫か?」



 智明は心配した表情で大輝の顔を覗く。



「ああ、ありがとう。また明日な」



 そんな智明に大輝は普段の笑顔で返事を返した。



「ああ。また明日」



 少しの気掛かりを拭えないままの智明だったが、翌日の学校の事を考慮し帰路に着いた。





   *   



 大輝から相談を受けた翌日、智明がクラスメイトと昼食を取っていたところ、スマートフォンに着信が入る。



「ん? 愛子さんだ。なんだろ」


 ディスプレイには「愛子さん」と文字が浮かんでいる。

 智明は教室の外に出ると、通話ボタンを押し電話に出た。



「智明です」


『トモ君、ごめんね。大輝は一緒じゃない?』


「いえ、違いますが、どうしました?」



 冷静さを欠く愛子の口調に智明は疑問を抱く。



『実はね、今朝から大輝が見当たらないの。電話も出ないし、トモ君なら居場所を知っているかなって』





 ――大輝が、居ない……?





 昨晩の大輝との会話が脳裏を過る。



「大輝のクラスに登校しているか確認してみます。何か分かったらすぐに連絡します!」


 愛子との通話を終えた智明は、急ぎ大輝の教室へと向かう。



「大輝? 今日は来ていないよ」



 大輝のクラスメイトに確認すると、どうやら今日はまだ登校していないらしい。


 漠然とした不安に駆られ、ふつふつと内臓をざわつかせる。


 自分の教室に戻った智明は鞄を取ると、一緒に昼食を取っていた友人に早退する旨を伝え、急ぎ教室を出た。






「――大輝、どこに居るんだ!」




 大輝が行きそうなところはどこか。

 焦りからか思考が上手く回らないが、今は迷っている時間すら惜しい。とりあえずは彼の通学路をなぞることにする。


 何かあったのか。昨日の大輝は危うかった。何故自分はあのまま泊まらなかったのだ。もっと彼の想いを吐かせるべきではなかったのか。


 どれだけの場所を訪れ、何度大輝に電話をしても全く繋がらず、苛立ちだけが募っていく。



「どうしたっていうんだよ!」



 その時、智明のスマートフォンが鳴り響く。




「――大輝!」



 しかしディスプレイに表示されていたのは、大輝ではなく愛子の名前であった。



「愛子さん! っ大輝! 見つかりましたか!」



 走り続けながら電話に出る智明。



『……』



「愛子さん?」



 スマートフォンに耳を当てるも問い掛けに対する返事が返ってこず、誤発信を疑い再度名前を呼んでみる。





『――っあ、ごめんね。トモ君、大輝、見つかった』



 漸く愛子の声が届き、その言葉の内容を受け安堵した智明はふらふらと歩みを止め肩で息をする。



「そっか……、っ良かったあ……」


 全く人騒がせな奴だ。後程こちらが納得できるまでじっくりと理由を聞かせてもらおう。




『だからもう探さなくて大丈夫。……っ、大丈夫』




 だが安心したのも束の間、智明は愛子の声に隠された小さな違和感に気付いてしまう。



「……愛子さん、大輝はどこにいたんですか?」



『……』



「大輝に変わってもらってもいいですか!?」



 大輝は見つかったというのに、膨大な不安が智明を襲う。



『ごめんね、それはできないの』



「なんでですか!? まさか事故とか事件に巻き込まれて――」



『今、ニュースで流れていると思うけど』




 智明は通話をスピーカーに設定し、急いでニュースサイトを開く。






 速報で見出しが出る。






《――〇〇区の路上に停められた車内より、四名の遺体を発見。車内には遺書のようなメモ、練炭とコンロが残っていたことから、警察は集団自殺の可能性で調べる方向で――》





 智明は、震える指でその見出しをタップし詳細を開く。






《発見した死亡者は――、――、――》








『トモ君、大輝が、大輝がね……』












《獅々田大輝(十七)》














『自殺したの』









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