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甘夏と青年  作者: ささえ
39/43

大輝の告白




「はい、これ新刊な」


 大輝の部屋に戻った二人。


「サンキュー」


 各々漫画やスマホゲームなど、自由な時間を過ごしだす。

 このようにお互い干渉することなくだらだらと過ごし、智明が帰宅することを面倒に思ったら泊まっていくまでが毎度の流れだ。


「コンクール、どんな感じ?」


 漫画を一冊読み終えた智明は、大輝にコンクールへの進捗具合を聞いてみる。


「あー、まあ大丈夫かな」


 大輝はスマートフォンに視線を向けたまま返事を返す。


「流石だな」


 彼のことだ、そつなくこなして結果を残すのだろう。

 智明が次の漫画に手を伸ばしたタイミングで、大輝がスマートフォンをベッドに置き智明の方へ体を向ける。



「……なあトモ、変なことを言ってもいいか」


 大輝の言葉に智明は漫画から視線を上げる。


「ん? どした」



 智明にすぐに言葉を返すことなく、大輝は考えるようにポリポリと鼻を掻く。


「いや、あー……、やっぱいいや」


 珍しく煮え切らない態度の大輝に、智明は尚更言葉の続きが気になってしまう。


「なんだよ、そこまで言ったら教えろよ」


 普段の大輝は他の同級生より達観した思想と落ち着きを持つ高校生だ。二人でいる時も智明が怒られるようなことをし、それをフォローすることが彼の役目でもある。

 そんな大輝がぐずついている様子はとても珍しく、いよいよ好きな人でもできたのかと、智明は彼をからかう準備をする。



 しかし、大輝から返ってきた言葉は、智明の予想と大きく反するものであった。





「……俺さ、自分が浮いている感じがするんだよな」



 ベッドの上で胡坐(あぐら)をかいて指を組む大輝は、今までに見たことがないどこか脆い表情をしている。



「周りをさ、友達も仲間も、家族も、全員がテレビの中の人に見えてしまうというか。伝わるかな? 額縁の外から見ているような感じ。話していて、普通に楽しいしちゃんと俺にも感情はあるんだけど、でも客観的な自分が右上から見てるんだよ。……たまに、夜中に自分を殺したくなる」



 上手く言葉にできないのか、まるで自分の気持ちを表現する言葉を探りあてているかのようだ。



「おいおい、物騒なこと言うなよ。それはお前が色んなことが出来過ぎるから、周りと話が合わないだけなんじゃないか?」


「そうだけど、違うんだよ。俺はそんな人間じゃないんだ」



 いつもと違う様子の大輝に、智明は徐々にじんわりと嫌なざわつきを覚える。



「俺さ、多分普通じゃない。隠してるから誰にもばれてないだろうけど。同じ動作を繰り返ししないと気が済まなかったり、ここじゃないって時にやってはいけないことをしたくなる衝動に駆られたり。……それも、きっと許されないレベルの事も……したくなるんだと思う。……でも理性はあるから、抑えられる。抑えられるから周りが求める優等生を演じられるし、皆がそういう俺に集まってくれる。たまにそれがとんでもなく苦しくなる」



「大輝……」



 大輝の急な告白に、彼をよく知る幼馴染の智明ですら理解が追い付かず、言葉が続かない。



「大輝、詳しく話せよ。何で今まで言ってくれなかったんだよ」


 智明は真剣な面持ちで大輝と向き合う。



「言いたいんだけど、言えないんだ。こればっかりは、上手く言えないんだよ」


「俺はお前がどういう人間だろうが、お前への付き合いは変わらない。どんな考えを持っていても、どんなことをしていても、俺は絶対受け入れるし一緒に考える」



 焦りからなのか、智明の口調が強くなる。だが大輝は依然として視線を下に向け口を閉ざしている。



「……大輝、それとも、俺もお前にとっては他人なのか?」



 苦しそうな智明の言葉が耳に届き、大輝は反射的に顔を上げる。



「トモは違う!」



 突然の大声に、智明は意表を突かれる。



「トモが居るから……俺、なんか生きていられるんだと思う」


 あやふやでいて仰々しい大輝の言葉に、智明は少しだけ気持ちが緩み安堵する。



「なんだよそれ、大袈裟だな」



 大輝もつられて笑ってしまい、漸くいつもの二人の調子へと戻ってきた。




「ほんとだよな。ただ、お前に、いつもありがとなって、そんな話だよ――」




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