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甘夏と青年  作者: ささえ
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マキと雅美の最期の会話





「長居してしまいすみません。本当に美味しかったです」



 雅美との談笑を終えたマキは、玄関の外に出ると雅美にお礼の言葉を伝えた。



「いいのよ、おばさんも楽しかったわ」


 玄関口まで見送りに来た雅美は、マキに対し手を振り応える。




「……雅美さん。律さん、もうすぐ退院します。恐らく連絡が来ると思います」


 マキの表情がふと真面目なものへと移り変わり、不思議なことを口にした。



「……え? どういうことかしら?」


 雅美は今日初めて会った目の前の青年が発した言葉に戸惑いを覚える。



「……いえ、なんとなく、ただなんとなくそう思っただけです」


 雅美の動揺を感じ取ったマキは、すぐに表情を優しいものへと変え、首を横に振る。



「……そう、なんだか気を遣わせてしまってごめんなさいね。でもそうだと嬉しいわ」


 二人で甘夏を食べていた時の雰囲気へと戻ったマキに安心を覚えた雅美は、ふふっと笑みを零し言葉を返した。




「雅美さん。雅美さんも、どうか元気に過ごしてくださいね」


「ええ、ありがとう。あなたもね」




 そこで二人の別れの挨拶は終わり、マキは雅美に背を向け歩き始める。


 マキの姿が視界から消えるまで玄関先でその後ろ姿を眺めていた雅美。今になって先程までのマキとの時間がどこか不思議なものだったなと振り返る。

 夏も終わりの筈なのだが、また夏が始まったかのような。

 ……いや、正確に表すならば、記憶に残る遠い昔の夏の日を再び過ごしたかのような――。






 家のベランダの方から、チリン、と、風と共に奏でる風鈴の音色が聴こえてきた。




「……あら?」



 自分でも気付かない内に、雅美の片の頬にヒヤリと涙が伝っていた。


 悲しい気持ちなどは一切ない。雅美は自分の涙の理由が全く分からなかった。

 疲れていたのだろうか。彼に話を聞いてもらって心が少し楽になったのかもしれない。


 雅美は自分を納得させるように一度だけ頷き、家の中へと戻っていく。





 ふと、夏の祭りの匂いが近付いているような気がした。






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