唐突な別れ
「マキ……?」
律は不安になり、隣に座るマキの顔を覗き込む。
「……退院してからは会えない」
一時の沈黙の後、マキはゆっくりと否定の言葉を吐いた。
「……え……?」
思いもしていなかったマキの言葉に、律は動揺する。
「なんで? もしかして何かあった?」
何か事情があるのかもしれない。それなら尚更教えてほしいし、今度は自分が彼の力になりたい。
「何もないよ」
対するマキは律の心配そうな表情を一瞥し、ぶっきらぼうに吐き捨てる。
「それならなんで――」
「律が退院して病院にいないなら、わざわざ会いに行く理由もないから」
遮るように吐かれたマキの言葉に、律は心を殴打されたかのような衝撃を受けた。
「……待って、理由が知りたい。私はまだマキと過ごしたいよ!」
ベンチから勢いよく立ち上がった律は、マキに苦しい表情で訴えかける。
これまでマキと同じ時間を過ごしてきた中で、彼の性格も理解してきたつもりだ。
きっと何か訳があるに違いない。自分に原因があるのかも分からない。
「ねえマキ――」
「だから理由とかないって! しつこいな……」
そう吐き捨てるマキの表情は今までに見たことがない無慈悲なもので、律の脳内ではそれ以上何も考えることができなくなってしまった。
「……分かった。分かったよ……」
律は混沌とした感情をぶつけることなく虚ろな瞳を浮かべると、ただ拳を握り締め精一杯の声を絞り出した。
律にとってそこからの記憶は無くいつの間にかマキとは別れており、気が付けば退院の日を迎えていた。
マキとの日々は幻だったのだろうか。
そう思える程に別れは突然で、理不尽で、律の日々からマキの存在は失われてしまったのであった。