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甘夏と青年  作者: ささえ
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マキとのこれから



「マキ、話があるの」



 いつもの場所のいつもの時間。結局二人で花火をした日以降お互いのタイミングが合わず、マキとは久し振りの再会となった。

 退院の事や今後についての報告をしたく、律はマキと会える日をうずうずと心待ちにしていた。



「何、告白? まあそこまで言うなら?」


 いつもの調子でマキは冗談めいた返しをしてくる。



「違うから! あのね、今週末、退院が決まったの」



 律の言葉にマキは一瞬だけ何かを含んだ表情を見せたが、すぐにぱっと表情を明るくし、律の頭をポンポンと優しく撫でた。



「そっか、良かったじゃん!」


「うん! 親にはまだ連絡していないんだけどね」



 律は自分の事のように喜んでくれるマキに嬉しさを感じる。


「退院したらまず何がしたい?」


 マキは両手を握りながら前屈(まえかが)みの態勢になり、横に座る律の顔を下から覗き込む。


「まずは、そうだな……。お母さんの手料理が食べたいかな」


 律は少しだけ照れた表情を見せながらも、自分の正直な望みを口にした。



「そっか、楽しみだな。それからは?」


「うーん、まだすぐには働けないだろうから、リハビリしながらお母さんの手伝いをして、あとはまあお父さんの晩酌にも付き合ってあげようかな」


「おい、お父さんももう少し大切にしないと悲しむぞ」



 確かに、律は母との再会しか頭に無かった。だが豊とは病院で毎週会っており、確証はないが自分の気持ちも伝わっているだろうと勝手に踏んでいる。



「彼氏は作らないの?」


「それはまあプライベートな問題なので」


「なんだよそれ、教えろよ」



 律が意地悪に笑ってみせると、マキから肘で脇腹を突かれた。



「あ、それとね、やっぱり前の仕事に戻りたいなって思ってる」


 そういえば、とマキに今後の仕事についての報告をする。



「そうか、それも楽しみだな」


「本当にね!」



 マキに「それから?」と律の退院後の予定を根掘り葉掘り聞かれていく。律は気分が高まり今後の目標などをあれこれと語り出す。



「あ、でもね、まずはマキにお礼をしたいかな! マキには沢山お世話になったから。そういえば私、マキの連絡先聞いてない。教えてよ」



 律はポケットから自身のスマートフォンを取り出す。

 これまでは病院でしか会えなかったため、二人でできることは限られていた。だが退院後は二人で経験できることや行ける場所も無限に増えるのだ。


 自分が支えてもらった分マキに恩返しがしたい。マキのこれからの人生を見守りたいし、色々な感動を共有していきたい。



 律にとって、マキはとっくにかけがえのない存在となっていたのだ。







「……」






 だが、律の予想に反し、マキはずっと口を閉ざしたままであった。



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