求めていた日常
漸く午前中の挨拶回りが終わった。
何故ここ近年の日本はこうも猛暑が続くのだろうか。じりじりとした日照りを受け、律の背中と額に汗が沸き立つ。
次の訪問先までは時間がある。普段休憩に使う会社近くの公園に寄ろう。その公園はそこまで大きくなく人もまばらなのだが、ベンチの周りが大きな木で囲まれており、上手く作られた日陰により昼休憩にはぴったりの場所なのだ。
ベンチに座った律は、先程コンビニで購入したサンドイッチとお茶を袋から取り出す。そよそよと吹く風に、少しずつだが汗も引いてきた。
目前に広がる光景を眺める。
風に揺れる新緑の木々が、さわさわと音を立てる。
長時間日陰に当てられたベンチはひんやりとしており、布越しでも律の体にひと時の爽涼とした快感を与えてくれる。
――そうだ、この感覚だ。
ありきたりで代り映えのない日常。
だが、律の心はこの景色と時間をずっと求めていた。
目の前をランドセルを背負った小学生が横切る。男女数名の子ども達の中には、楽しそうにはしゃいでいるさくらの姿もあった。
そうか、学校に通えたのか。本当に良かった。
律にとっても、さくらにとっても、当たり前であって当たり前ではないこの瞬間。それはきっと誰しもが同じなのだろう。
何かがきっかけで気付ける幸せ。
人と笑えること。
ご飯が食べられること。
動けること。
今を生きられること――。
全ては特別で誰もが持ち得ることではない。
しかし一方で、全ては特別なものではなく、誰しもが当然に得られる権利なのだーー。