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甘夏と青年  作者: ささえ
19/43

父である豊と律




「律、体の調子はどうだ」


 マキとの会話から翌日の夕方、律の元へ豊が見舞いに訪れていた。



「これが着替えと、あと求人の雑誌」


「ありがとう」


 律は豊から荷物を受け取り、同時に洗濯する洋服などを渡す。


「まだ仕事は気が早いんじゃないか?」


 豊は今しがた律に渡した求人雑誌に目を向け、心配そうな表情を浮かべた。


 昨日マキと何も考えなくていいと会話を交わしたばかりであったが、この雑誌はそれより以前に豊に頼んでいたものだ。主に派遣とパートタイムの求人情報が掲載されている。

 まだ退院が決まった訳ではないのだが、退院後は通院が必要となるためフルタイムで正社員として働くことは難しい。体が慣れてくるまでは無理のない範囲の仕事で生活を繋いでいきたい。

 律は現状としてどういった仕事が募集されているのか、少しでも把握しておきたかった。



「一応ね、自分の中のモチベーションは上げておきたいから」


「そうか……」


 入院中の今できることといったら資格等の勉強ぐらいしか思いつかず、それならば次の仕事に活かせる勉強をしたい。

 ゆっくり体を休ませることが今の一番の仕事だと分かっていても、何かしないと無限にある時間に逆に疲弊が溜まってしまう。



「あと……、これ。昨日電話で頼まれたやつだ」


 豊が、そういえば……と、大きめのビニール袋を律に手渡す。


「ありがとう! ごめんね、ちょっと面倒な買い物を頼んでしまって」


「そこは気にしないでいいが……それより、それは病院から怒られないのか?」


 豊は《それ》に目線を当て心配そうに問い掛ける。


「大丈夫、うまくやるよ」


 律の返事に豊は分かったと頷き、それじゃあ帰るから、とベッドを囲うカーテンから出ようと体を反転させる。




「お父さん」




 その瞬間、律は反射的に豊を呼び止めていた。




「お父さん、お母さんは元気?」




 律に呼ばれて振り向いた豊は、律の口から発せられた思ってもいなかったその言葉に一瞬の驚きを見せる。



「……ああ、お前が帰ってくるのを楽しみに待っているぞ」



 だがその驚きもすぐに無表情へと戻り、淡々と言葉を返す。



「そう……」



 一見無機質な豊の表情や言葉の中に、確かな温もりを感じることができたのは、二人が家族だからなのだろうか。

 律は唇を甘く結び、ちょっとした嬉しさを滲ませる。



「お父さん、いつもありがとうね」



 律の言葉を受けても返事はせず、そのまま部屋から出ていく豊。



 しかしその横顔は、珍しく笑っているかのように見えた。




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