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69話 Side ナディア 頼りなくも頼れる助っ人

 アタイは木々の枝を伝り、デカ蜘蛛の真上へと回る。攻撃が効かない以上、下手に攻めるのは危険だ。ここは見失わないように時間稼ぎに撤することが…。


「む!?」


 気が付くとそこにデカ蜘蛛の姿がなかった。次の瞬間、右脇腹に強烈な衝撃が走る。


「ぐはぁ!!…ブファッ!!はぁ…はぁ…。なぁ!?」


 勢いのまま飛ばされ、大木に叩き付けられる。その衝撃は大木が根本から傾く程だ。左腕は脱臼し、内臓と肋骨を損傷するも、なんとか意識を保ったアタイは口に溜まっていた血を吐き出しながら、枝の上まで身を引く。


 だが悲しいことにデカ蜘蛛は思った以上に身軽で、気付いた時には背後にいた。それは音や気配もなく、まるで暗殺者のような立ち回りだ。   


「くぅッ!!?」


 すぐさま別の枝に飛び移るも、その先は粘糸で張り巡らせた罠があった。そのため、糸は触れるだけで、くっ付く面倒ものなのだが…主点となる枝を切り落とすことで簡単に除去出来る。それに枝を上に落とせば、そこそこ上部な足場が出来上がる。


 その特性を活かし、より立体的に立ち回る。


 だがそれも視界が明るければの話し。日中ですらこの森には日光が殆ど入らないのに、夜間となれば完全に暗闇だ。幸いアタイには《暗視》があるため、そこそこ見えるが…。


「ぐぅぅぅッ!!!」


 依然として視界が悪いことに変わりなく、着地の際に滑らせ、右脚首をひねってしまった。ひねり方と痛みの度合いから恐らくは捻挫だろう。痛みで体勢を崩し、そのまま枝から落下してしまった。下には粘糸が張り巡らせてあり、触れたら終わり。


「こうなれば!!」


 アタイは落下しながらマントを脱ぎ、粘糸で作られた巨大な巣に被せることで即席の足場を作り出した。その時になって初めて真下にいる蜘蛛の大群に気が付いた。


「まさか…小蜘蛛もいるなんてねぇー。」


 随分と手の込んだことをしてくれる。アタシ個人を排除しようと必死なのがヒシヒシと伝わってくる。


「はぁ…はぁ…随分と…やるじゃないか…。はぁ…はぁ…これがお前の狩りか?ゴブッ!!」


 大量の血を吐きながらアタイは真上から俯瞰ふかんするデカ蜘蛛を睨み付ける。左腕に右脚を負傷した今、上と下で逃げ場を失ったアタイに出来ることなどない。


 だが当初の目的である時間稼ぎはどうにか達成した。もう十分だろう。


「でもね…お前たちに殺されるくらいならアタイの手で…。」


 投擲用の杭の先を喉元に当て、目を瞑り、自ら生命を断とうとした時だった。


「クソババァーーッ!!降りろ!!!《火陣フレイムエリア》!!」

「!?」


 突然、発された怒号と同時に地上は炎に包まれ、逃げる隙すらなく、小蜘蛛たちが一掃された。


 それを見たアタイは下の惨状に唖然としていたデカ蜘蛛の眼球に向かって、投擲用の杭を投げつける。それは油断していた奴には効いたようで、痛みのあまり暴れ回る。


「くぅ…ッ!!」


 悶絶するデカ蜘蛛の攻撃を紙一重で躱し、アタイは下に身を投げる。だが心配はしていない。なぜなら…。 


「うぉぉぉぉぉぉッーー!!!!!」


 そいつは燃え盛る炎の中、岩を踏み台に大ジャンプし、アタイを空中でキャッチする。まるで英雄の登場かの如くアタイを救ってくれたのは、常に手を焼かされる不良冒険者ボルドだった。


「まさかお前に助けられるなんてね…というか何故ここに?」

「このヤロウ…テメェが適当に放置したからだろうが。起きたらビビったぞ!!」


 ……あー確か気絶させてたな。しかも邪魔にならないよう端の方に放置してたから皆からも忘れられていたっぽいな。


「あーその…すまんな。」

「チッ!!よくわからんが、とにかく逃げんぞ!!立てるか。」

「脚首を捻ったが…まぁ、問題ないね。」


 状況を知らないボルドが撤退を促してきた。コイツがそんなことを言うとは意外だったが、判断としては間違ってはいない。


「ちなみにお前、回復ポーションとかは持って———。」

「ねぇ!!」

「知ってた。」

「つーかよ…あのデケェ蜘蛛はなんなんだよ。」

「知らん!!…が、あれは恐らく脅威度Bの女王蜘蛛クイーンスパイダーだろう。確信はないがね。」


 それになぜ奴がアタイらを襲うのかはわからんが、厄介なことに違いない。この森は奴らの縄張り。何が仕掛けられているか想像がつかない。


「ふーん。まぁ、Bなら納得の強さだがよ、クイーン級がわざわざ出向くものなのか?」

「ん?どう言うことだ?」

「勘…というか俺が蜘蛛の主人ならそこそこ強い奴で試すのが普通だろ。」


 …確かに言われてみれば違和感はある。あの時は混乱の最中に出した推測であって結論ではない。


 もし、あのデカ蜘蛛がクイーンではなかったら?通常の上位個体だったら?


「は!?」

 

 奴と似た気配…まさか!?


 嫌な予感というのはどうしてこうもよく当たるのか。アタイたちを逃すまいと、二匹のデカ蜘蛛が姿を現す。


 その内の一匹はさっきまでアタイと死闘を繰り広げたデカ蜘蛛だった。そいつはアタイの投擲によるダメージを修復出来ておらず、八つある目のうち、二つから血のようなものを流している。


「コイツ…仲間を呼んだようだな。」

「なぁッ…つーことはコイツらは…。」

「ああ、クイーンではなく、ただの上位種だ。」


 己の不幸を呪いたくなる程の不の連鎖。ただでさえ、先程の個体すら倒せるか怪しいのにこんなの…。


「クソババァ。一匹は俺が担当する。」

「ほぅ、言うじゃないか?そんなにアタイと張り合いたいか?」

「あったりめぇだろ。その代わり、もう一匹は任せるぞ。」


 コイツは素行面で昇格出来ないのであって、その腕だけならCクラス。脅威度Bのデカ蜘蛛相手に心許こころもとないが、その勇気だけは認めてやるさ。


「フッ、そうかい。まぁ、その辺は好きにしな。それが冒険者だ。生きるも死ぬもお前の責任。アタイは強制なんてしないさ。」

「ケッ。何が強制しないだよ。暴力服属の間違いだろ。」

「なら逃げても良いんだぞ?尻尾巻いてな。」

「馬鹿言え。今更こんなとこにいて逃げられるかよ!!あと尻尾は余計だクソババァ。」


 恥じることもなく、さも当然かの如く応答する。紛れもなく、コイツの本音なのは間違いないが、普段の荒々しい行いを知るアタシからするとギャップが酷すぎて笑えてくる。


 危機的状況限定で義理堅い性格が出るタイプか。器用な奴だ。


「まぁ、良いさ。だがな…やるんなら生命賭けろ!!悔いのないようにな!!」

「俺は悔いがあるから絶対に死ねないんだわ。」

「そうかい。じゃあ、お前は精々、三十分くらい相手でもしてくれ。あーお前じゃあ、三十分は無理かな?」

「余裕だこのヤロウ!!」

「そいつは頼もしいさ。アタイは行くが精々、おねんねすることのないようにね。」

「クソババァもな!!」


 お互い励ましあった二人はそれぞれ別れて、蜘蛛への攻撃を開始した。

・デカ蜘蛛の正体、実はクイーンではありませんでしたー。ちなみにこの間違いはわざとですので、指摘はしなくても大丈夫です。


 混乱する頭で誤った推測を出してしまうなんてよくありますよねー。(命が掛かった場面ではよくあって欲しくないけどねw)



・ボルド君は「映画版ジャ○アン」とでも思ってもらえれば結構です。


 あ、ボルドはアラサーの設定です。どちらかというと任侠派のヤ○ザ…みたいな?(ちょっとこの辺りは詳しくない)



・ボルドは低レベルながらも《暗視》を習得してるため、ある程度暗闇の中でも見えます。…でないと(起きた瞬間、ナディアの戦いを見ていた)説明がつかない。



・ナディアさん…左腕を脱臼、右脚首を捻挫、内臓と肋骨を損傷してなお、戦うなんて…かっこよすぎる!!



・何故、巨大な巣の上に枝やマントを敷いて足場にしたのか?


 結論、そうしないと蜘蛛の巣に掛かった獲物になっちゃうから。



【雑学】蜘蛛の巣には自分が歩き回るための足場用の糸と、獲物を捕えるためのネバネバした糸(粘糸)の二種類がある。(と知恵袋に書いてあったので、詳しくはそちらをご覧ください。)



・次回はボルド視点です。この辺りから色々なキャラの視点に移ります。



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