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泊り会(終)

 中山も部屋に帰りまた静寂な空間へと戻ると、1つため息をこぼす。


 はぁ。……どうしたもんかな。

 ここまでは気づかない演技を続けてきたものの、いよいよ中山にもあんなことされ始められたし。


 ……言い逃れはさすがにできないよな。


 でも俺の気持ちは葵にあるし……。


 ……しかし、ほんと俺なんだよ。クラスにマシなやつとかいっぱいいるだろーに。


 考えれば考えるほど荷が重くなる感覚に加えて、頭の混乱が生じる。


 これ以上考えるのは今日はやめよう。


 瞳を瞑ると、次第に意識が遠のいていった。




「おはよー、一条」


 最初に起きてきたのは中山だ。

まだ眠気が残っているのか目は完全には開いていない。


 昨日のことを覚えていないのか、それとも、覚えていない振りをしているのかは分からないが、普段通りに接してくる。


 中山の顔を見ると、昨日のことを思い出し顔が熱くなる感覚があったが、中山のいつもと変わらない顔をみて、左右に首を振る。


「どうかしたのか一条」


「いや。中山って俺の中では1番遅く起きるイメージあるから意外だなって」


「もしかして私のことばかにしてるな!」


「もしかしなくてもばかにしてるよ」


「私だって真面目なとこあるんだって!!」


 2人でクスクスと苦笑する。

 ……俺だけ変に意識するのもおかしいよな。


 すぐに変な思考を打ち消して、包丁を持っている手元に集中する。


 でも、眠いのは絶対昨日のせいだろ……。


 中山は半目の目を擦ると、椅子に座る。

 そして、腕で枕をつくると、顔を埋め2度寝を始めた。


 生卵を割っていると、また扉が開く。

 次に起きたのは、林城だ。


「おう。おはよう。もうすぐ朝飯できるから適当に座っててくれ」


「おはよぉ。一条起きるの早いんだね」


「まぁな。早起きは三文の徳とも言うしな」


「うわ出たよ。ガリ勉ことわざ。朝から勉強教えてこなくてもいいのにーー。」


 そんな馬鹿なことを言いつつ一度背伸びをすると、中山の隣の席に座る。


 林城のツッコミは寝起きでも健在のようだ。

  さっき「早い」と言われたものの、9時は軽く回っている。


 ……休日からしたら早いほうか。


 林城は二度寝した中山を見ると悪魔のような笑みを浮かべ、耳元で何かこそこそと囁き始めた。

 どうせ、いつ起きるか楽しんでいるのだろう。


「そいえば聞きたかったんだけど、葵と一条って付き合ってんの?」


 急な質問に吹いてしまった。


「な、なんだよ急に」


「いやー、こないだたまたま一緒に登校してるとこみて」


「監視役だよ。ほらっあいつって男性恐怖症だろ!

 だから、身の安全を守ってるっていうかなんていうか……」


「そうなんだー。一条って優しいよね。同じクラスじゃなかったら絶対接点なかっただろうけど」


「余計なお世話だ」


「私は一条のそういう部分好きだけどなー」


「棒読みはよせ。悲しくなる」


「ごめんごめん。……でも優しいのはほんとだよ」


「そりゃどうも」


 林城とは初めて真正面で真剣に話し合ったかもしれない。

 いつもは他のギャラリーがいるなかでの流し流しの会話だったからか、新鮮だ。


「他のみんなは?」


「真奈は「寝起きで肌わるいから起こしてから行く」って、葵はまだ枕に抱きついてぐっすり寝てるよ」


「そうか」


 朝食がそろそろ出来上がるし、西条に起こしてきてもらうか。


 2階の葵達が寝ている寝室の扉をノックする。


「西条おきてるか?」


「い、一条くん!?お、起きてるよ!」


「朝食ができたから、葵を起こしてきてくれないか?」


「わ、わかった!」


「わるい。ありがと」


 できた料理を中山と林城が座っている正面へと並べる。

 朝食は軽めが良いだろうから、フレンチトーストやサラダにしたのだけれども、好き嫌いを聞いてなかったな。


「お、おはよ!一条君」


「おはよ、和くん」


「おはよ。顔洗ってこい」


「はーい」と葵は適当な返事をすると、洗面所のほうに向かっていった。


 西条は林城が中山の睡眠妨害をしているのを見るとクスクスと笑みを浮かべて、正面の席に座った。


 葵が帰ってきたところで合掌して、料理に箸をすすめる。


「んっ!これ美味しい!!」


「ほんとだ、美味しい!一条って料理もできるだな!」


 葵は慣れているからか、普段通り咀嚼しているか、その表情には少しの拗ねが感じられた。


 手料理を他の人に振舞って欲しくなかったのだろう。


 誤算だった。

 しかし、朝食から外に頼んで重いものを食べさせる訳にはいかないし、これだけは分かってくれ。


 朝食を終えて、いよいよお泊まり会も終盤を迎えた。


「一条には迷惑になったし、私はそろそろ帰ることにするよ」


 林城の会話に便乗するように、中山も西条も口を開く。


「私たちも一条にも親にも悪いし、そろそろ帰るね」


 葵は、といえば全く帰る気のないオーラを放出している。

 表情を窺えばこの後のことが、想起され先が思いやられる予感がするが仕方がないか。


「わかった。気をつけて帰れよ」


「じゃあ一条ありがとね!」「一条君ありがと~」「またなー」と3人は俺の家を後にしていった。


 さてと、朝食の片付けをしますか。


 その瞬間に、背中に振動が与えられる。

白く細い手を俺の腹部に回して顔を背中に埋めている。


「……和くん、」



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