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泊り会③(夜と青)

「……和くん、いい匂い♪」


「やめろ、恥ずかしい」


「……えへへ……こんなとこバレたら噂されちゃうね」


 なんでそんな柔和な笑顔が浮かべれるんだ。

 壁一つを隔てて、隣にみんなが寝ているんだぞ。


 バレたらまずいと思うと冷や汗が頬中に滲み出てくる。


 しかし、俺の胸部から葵が離れる気配はまるで無い。


 それどころかさっきから密着している面積が多いくなっているのだが。


「……顔真っ赤だね」


「……うっせ、仕方ないだろ」


「えへへ♪」


 なんだよこの可愛い生物。


 ダメだ、二人の世界に溺れていく。

 ずっと深い底も見えない果てしない空間。


 それでも、違和感はない。いや、むしろ心地いいと感じる感覚の方が勝っている。


 接触している部分から葵の温もりや感情までハッキリと伝わってくる。


 何を考えているのかも。


「和くん、なんで目を逸らすの」


 消灯し見えないはずなのに葵は俺の顔、増してや視線の方向までしっかり見えているようだ。


「いや、その、な?」


「むぅぅううう。そんな和くんにはこれだ」


 そう言いながらおでこで胸部をぐりぐりしてくる。


 痛い!と言いたいが、実際くすぐったい。

 でも、ここは痛いと言っておこう。


「痛い、痛い。悪かったって」


「……えへへ、こっち向いたね♪」


 なんで目が合うだけでそんなに嬉しそうなのか。


 この笑顔を絶やしてはいけないな、とふと思ってしまうくらいの満面の笑み。


 誰だってこんな美少女の谷間が目線を落とすだけで見えたら凝視する奴は、居るかもしれないが、逸らしてしまうものだ。


 同じシャンプーを使っているはずなのに、別物のように甘い香りが俺の鼻を刺激してくる。


 ピンク色の軽いパジャマだからか、葵の体の感触がしっかりと伝わってくる。


「葵もそんな積極性があればみんなと仲良く出来るんじゃないか?」


「……いや!」


 胸部で息を吐かれるとくすぐったいのですが。


 葵は言葉を紡ぐようにして続ける。


「和くんじゃないと話せない。あの時、変なおじさんに話しかけらた時和くんが居ないとどうなっていたか考えただけで怖い。

 あんなに怖いのに和くんは見捨てずに私の事庇ってくれたし、他の人はあのおじさんみたいに優しくないかもしれない。

 私は和くんじゃないとダメなの、和くんが居なきゃダメなの!」


 言葉を続ければ続ける程、弱々しく今にも消えそうなそんな声になっている。


 あの時のことを根に持っているのは分かっていたがここまでとは。


 葵は身震いをしている。相当のトラウマなのだろう。


 「すまなかった」


 ……もっと早く助けていれば、と後悔が残る。


 あの時、俺は脚が竦んで一歩が踏み出せなかった。怖かった。


 臆病で卑怯で脆くて、どうしようもない。しかし、怖いのは葵も同じ。


 それでも、葵は必死に抵抗していた。一人で大人のそれも力は格上の男性に。


 あの時の葵は誰よりも強くそして、勇敢なまるでヒーローのような主人公のような。……かっこよかった。


 助けた、と言えば聞こえはいいかもしれないが実際はそうではない。


 俺も葵から勇気を貰ったのだ。


 感謝される側ではない。俺が感謝する側の人間だ。


 「ありがとな」


 「えっ?」


 「色々と」


 「むぅぅううう。ずるいよ!和くん、私もまだ言ったことないのに」


 思わず失笑してしまう。







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