人生もゲームと変わらないと思っていたら、唐突にプチ人生ゲームが始まっちゃいました!
「あーあ、人生もゲームみたいになんないかなぁ」
「人生もゲームみたいなもんだろ」
「そうかぁ? 俺はそうは思えねーよ」
テストの翌週の昼休み、前の席の高濱が嘆いていた。おそらくテストの結果が散々だったのだろう。
「どーしたよ? テストの点数でも悪かったのか?」
「悪いなんてもんじゃねーよ! 親にぶっ殺される......」
どうやら、いくつか赤点があったらしい。高濱は半泣きになっていた。
「聖一も一緒に夏休みの補習行こうなぁ」
「やだよ。というかなんで補習なんかかかるんだよ」
「かかんないわけがねぇんだよぉ」
追試に合格すれば補習はないのにも関わらず、高濱は既に諦めムードだった。いや、勉強しろよ、勉強を。
「これがゲームだったらなぁ」
高濱は机に突っ伏して愚痴り始めた
「ゲームならモンスター倒せば簡単にお金稼げるし、恋愛だってしたい放題だろ?」
いや、リアルでモンスターと戦えるかよ! 命懸けだろあんなもん! と心の中でツッコミながらも
「勉強も同じようなもんだろ? 課題倒して、定期試験やっつけて、入試に挑む」
と、答えてやると、高濱は突っ伏したまま
「勉強をRPGで例えるなよ。俺はそんなやる気の起きないもんタイトル見ただけで捨てるわ」
などと、ケチを付けてきやがった!
「最近は恋愛シュミレーションかギャルゲーの気分なんだよ」
知るかそんなもん! とキレそうになったが、大人の対応で高濱を黙らせたい気分になった。
「恋愛で例えたって同じようなもんだろ、相手のタイプ探って、勉強能力上げていけば、試験も余裕だぞ?」
言い切るなりドヤ顔を決めてやった! 高濱はそれを見て
「なんか凄そうだな! やってみるわ!」
なんて、目を輝かせていた。
「じゃあ攻略頑張れよ」
そう言って俺は午後の授業の準備をすることにした。
5時間目が始まって10分ほど経っただろうか。
昼休みに意気揚々としてたのに、高濱は既に夢の国へ渡りかけていやがった。椅子を引くとビクンッと身体を震わせてから振り返った。
「なんだよ聖一......」
は? なんだよじゃねぇよ? 勉強しろよ!
「起きろよ、先生めっちゃ見てたぞ」
軽い脅しのつもりで言ってやると
「なんだー、とうとう俺にもモテ期きたかー」
は? モテ期ではねぇよ。というかお前はモテ期でいいのか? 相手は50代のハゲたおっさんだぞ?
「寝ぼけたこと言ってないでちゃんと勉強しろよ」
「授業も放置ゲームと変わんないよ」
言いながら教科書を立てて机に伏せた。
絶対寝る気だろこいつ!!
それは「放置」じゃなくて「放棄」だ......
怒りを通り越して呆れに変わったのでもう注意することを諦めた。
結局、高濱は5時間目をそのまま寝続け、6、7時間目も目を覚ます事はなかった。
帰り支度をしていると、高濱が話しかけてきた。
「今日一緒に帰れねぇわ。この後先生に呼び出しくらってんだよね」
「だから起きとけって注意しただろうが!」
先生に呼び出されてニヤニヤするんじゃねぇよ!
「悪ぃな! 聖一の名前は出してないから安心しろよ!」
高濱は午後の教科の担当と担任、計5人の先生から呼び出されているらしい。そりゃあ3時間寝続ければそうなるわな。
「まったく、じゃあ俺は先に帰るからな」
「おう、また明日な」
高濱が呼び出されたことにより急に暇な時間ができたので、商店街に寄ってみることにした。
「子供の頃は親と一緒よく来たんだけど最近はあまりこねえな。もしかしたら、俗に言うシャッター街になってたりして......」
(なんて心配しながら来たけど、以外に綺麗だな)
商店街には肉屋や魚屋、クリーニング店などなど様々なお店が立ち並んでいてそれなりに繁盛しているようだった。
不意に、道の脇に落ちている『それ』に目が止まった。
『それ』には1~10の番号とそれらを指す針、そして回転させるためのツマミが中央にあった。
『それ』は紛れもなく人生ゲームのルーレットだった。
何の気の迷いか、俺はそれに触れてしまった............
「いってぇ!!」
ルーレットに触った瞬間、究極進化した静電気のような衝撃が俺の腕を伝う。
あまりの痛さに目眩が起き、後ろによろけた。
「なんなんだよ......」
ルーレットに文句を言おうとして口が空いた
「タイルってこんなにカラフルだったか?」
商店街のタイルの色が一定の間隔で変化している......
規則性はないけれど、赤、青、白のタイルが並んでいる
「なんだよこれ」
気がつけば腕時計をしていた位置に小型のルーレットがくっついていた。
「足が動かねえ......」
こんな変な状況から一刻も早く抜け出したいが、移動することができない。
「まさか、このルーレットで出たマス分だけしか動けないやつなのか?」
まるでそれを肯定するかのようにルーレットが輝いた。
ルーレットを回しても嫌な予感しかしないが、このままでは商店街の端にぼーっと立っている変な男子高校生になってしまう。
覚悟を決めて、ルーレットを回す......
『3』
「ふっざけんなよ! 1〜10だぞ!? やる気出せよ!?」
ルーレットの結果につい叫んでしまい、周りの人から不振な目で見られてしまった。
3マス先に赤いマス、もう嫌な予感しかしなかった。
「そうだ! 電話で高濱に助けを呼べば......!」
通学かばんの中のスマホを探しながら移動する。地面の赤いマスには何やら文字が書かれでいた。
「『あなたは不運なことに持ち物をひったくられる』......?」
「きゃー! 引ったくりよー!!」
突然後ろから叫び声が聞こえた。慌てて振り返ると、大柄な男がこちらに走ってくる。その男は俺の通学かばんもひったくって行った!
「おいてめぇ!! 待ちやがれ!!」
すぐにひったくり犯を追いかけようとするが足が動かない。
結局、ひったくり犯は商店街の奥へと走り去っていった。
「マジかよ、最悪だ、人生ゲームで所持金0とか詰みだろ......」
気分は最悪だが、足が動かないのでルーレットを回すしか道はなかった......
『5』
「かばんひったくられたのに、5しか進めねぇのかよ......」
5マス先は肉屋の正面だった。こちらは青いマス目に文字が書いてある。
「えーとなになに?『幸運なことにメンチカツをもらう』?」
「おい兄ちゃん、さっきは災難だったな、これでも食って元気だせよ」
肉屋のオヤジが、すごく気の毒そうに、1個150円のメンチカツを差し出す。
「あ、ありがとうございます......」
メンチカツってこんなに美味しかったっけ?
商店街の人の優しさに触れ、涙が溢れそうになった
......が
「いや、待てよ......かばん取られてなければ30個は買えてるじゃねぇか!! ふざけやがって! なにかばんとメンチカツで等価交換してくれてんだよ!!」
「なんだ、その、頑張れよ...!」
肉屋のオヤジは引きつった笑顔で俺を送り出してくれた......
『2』
「これはやばい、明らかに人為的な操作入ってるだろ!?」
3回ルーレットを回した合計が10......平均は3.3といった所だ。数字の少なさにはがっかりしたが、幸いにも青いマスだ。
「今度は『元カノと復縁のチャンス』......なんだこれ」
そっけない言葉とは裏腹にかなり気持ちは高鳴っていた。なにせ俺の元カノは学年1と噂される程の美人だったのだから!! 彼女と復縁できるんならかばんくらい安いものだ!!!
「もしかして、聖一君??」
元カノに突然名前を呼ばれ、一気に心拍数が上昇する。振り返ると天使のような美しい顔がこちらを見ていた。
「こんなとこで会うなんて奇遇だな!」
俺は平静を装い、返事をした
「......うん、そうだね」
元カノはなぜか浮かない顔をしている。それはまるで幻想を打ち砕かれた子供のような顔だった。
「聖一君って、メンチカツ食べながら絶叫するような人だったんだね......」
「いや、これには深い事情があってだな!」
俺は先程の出来事について必死に弁解しようとするが
「それに、そういう趣味(?)だったんだね......」
元カノの視線は俺の左手首、小型のルーレットを見ていた......
「なんかごめんね」
それだけ言い残して元カノは帰っていった。
確かに、平日の放課後にメンチカツ食べながら絶叫するルーレットを身につけた男子高校生なんて、完全にヤバい人だった。
「青で?! 青でこの仕打ち?!」
このゲームのせいでお金とスマホだけでなく何か大変なものまで失ってしまったかもしれない。
「超絶美少女のヒモ......そうじゃなきゃ釣り合わねえよ......」
「絶対にひったくり犯だけは許せねぇ」
ぶつけることの出来ない怒りを無理やりひったくり犯にぶつけて、俺はゴールすることだけを考えるようにした......
『6』
4回目にしてようやく5以上の目が出た。しかも白いマスだ。マスには
『ゴールまであと14マス』と書かれている。
「この調子で行けば、あと半分でゴールだな」
そうは言っても、今の経験をもう1回づつすると考えると、かなりハードだよなぁ......
『10』
「よかった......ようやく一気に進める......!」
ここに来て最高の出目だ! しかもマス目は青!!
「まて、期待するな! まだ喜んじゃだめだ......」
先程の出来事を思い出し、ゆっくりとマス目に書かれた文字を読む
「『3歩進んで2歩下がる』か、1マス進むって書けよ......」
まわりくどい言い方にイラつきながらも、次のマスに入りかけた
「......動けねぇ」
次のマスまであと10cmという所で、足が進まなくなったのだ。
「まさか......ほんとに3『歩』?」
仕方なく俺は2歩下がった......
「だが、残りのマスは4マスだ! これでほぼゴールみたいなもんだろ!!」
『3』
・・・・・・
「はぁぁぁぁぁあ!?」
ルーレットの目はまさかの『3』 ゴールにギリギリ届かなかった。
「しくじったぁぁ! ここに来てさっきの3歩が足引っ張ってやがる! どうして俺はもっと大股で歩かなかったんだ!?」
とぼとぼと3マス進むと、無情にもマス目は赤......もうやけくそだ。
「『靴紐が切れる。おつかれ(笑)。』......」
「プツン」
両足の靴紐が音を立てて切れた......
ブチッ
俺も近年稀に見るくらい切れた......
「いい加減にしろよてめぇ!? どこまで人をおちょくったら気が済むんだよ!? 靴紐が切れるだけならまだしも?! なんだよ『おつかれ』って?! なんだよ『(笑)。』ってバカにしすぎだろーが! 」
思いの丈を全身全霊でぶつけた
「ハァ......ハァ............」
すごい目で見られたが、最早どうでもいい! あと1マスでゴールだ......
『4』
「さっき出ろや!」
最後まで怒りは収まらず、早足でゴールに向かった。
「オメデト!!」
簡素な音声と共に腕のルーレットは消え、商店街のタイルもいつも通りの落ち着いたものに戻っていた。
「これで帰れるのか......?」
おそらく商店街を通ることも可能だが、ゲームがまた始まっても怖い(数々の奇行を見られている可能性もある)ので少し回り道をして帰ることになった。
「最後の最後まで手間取らせやがって......」
帰り道に高濱と出くわした。
「お、聖一じゃん、寄り道してたのか?」
「ちょっと、いや、かなり色々あったんだよ......」
商店街での心の疲労と紐の切れた靴による歩きにくさで、説明する気力もなくなった。
「元気ねぇな、うちでゲームでもするか?」
何も知らない高濱は、『今聞きたくない単語ランキング』があれば間違いなく上位に食い込んでくる単語をぶつけてきた。
「今日はいいや、また誘ってくれ」
そう言って俺は高濱と別れて帰路に着いた。
「やっぱり、人生はゲームじゃない方がいいかもな」
最後まで、紐の切れた靴は歩きづらく、かばんは帰ってこなかった......
まだまだ初心者でつまらないものですが、読んでくださってありがとうございます!!
コメントで改善点や良かったところなどを教えて頂けるととても嬉しいです!