虫を食べることで成長するハンターは、ダンジョンに潜って歌を歌う
それは虫を食うことが生業の女にとっては、とても貴重なダンジョンであった。
ダンジョンというより、洞窟ではあったが。
罠や魔物、そして宝箱だってたまには置かれている点は、よくあるダンジョンと何も変わらないのだが、そこには彼女の求めるものがあった。
虫である。
もちろん、昆虫マニアだから虫取り編みを持ってたくさんの虫を捕まえて愛でたいとか、そういう理由で虫を求めるのではない。
彼女……異世界でハンターとして生きている彼女の名前はカリンといったが、カリンはハンターとして一方上の段階に進みたくて虫を見つけたいのだ。
その虫の多くはダンジョンの地面の中に埋まっているということは、すでに情報として仕入れている。
カリンは調虫師と呼ばれる職業のハンターで、彼女はある特別な虫を食べることで、どんどん力持ちになって、どんどん素早い少女になっていくことが可能だ。
つまり、虫を食べれば食べるほど、一流ハンターへの道へと一歩近づくのだ。
彼女には、養っていかなければならない家族がいる。
みんな貧しくて、必死に生きていかなければならないスラムで育った彼女は、金のためなら虫を食うというプライドを捨てるような行為ですら、我慢できる精神がある。
家族のために我慢して金を稼ぎ、そして名声を得たい。
そんな欲求を持つカリンにとって、その虫がいっぱいいるという秘密のダンジョンは、まさしくどんな宝物よりもお宝と呼べる代物がいっぱいある、宝物庫なのである。
カリンは、ダンジョンを攻略しはじめる。
モンスターもいっぱいいた。そのどれもが強力な魔物ではあったが、事前に準備しておいた虫を食べれば、魔物の攻略は容易だった。
障害が亡くなったあとは、ひたすらに地面を掘って虫を探した。
いろんな虫が見つかった。
その中でも目を見張ったのは虹色の虫で、『光神虫』と呼ばれる非常に貴重な代物であった。お金で買おうとすれば、百万ほどの金が飛ぶとされている虫だ。
カリンはこれを売りさばくか、悩み、しかし悩んだあとに虫を嚥下した。
ごくり、と飲み込む。
彼女は歌が好きだった。昔から歌うことは得意で、みんなによく褒められていた。
そんな彼女は自分の心が動くとき、歌を歌う癖がある。
そんな変な癖があるカリンは、歌を歌った。
「ラッっララー」
洞窟に歌が響き渡り、彼女はご機嫌であった。
そんなカリンの背後から、なぜか巨大な魔物が、突然現れた。
それは一見、虫のような魔物であったが、こんな魔物は見たことがない。
カリンは驚き慌てふためいたが、さきほど『光神虫』を飲んだことを思えば、その魔物だって倒すことは実に簡単だと思えた。
カリンは、常人では不可能なほどの高い跳躍をして、そして腰に差していた剣を、投擲した。
その剣が深々と虫の魔物に刺さり、それは苦しむようにのたうち回ってから、地面に倒れて動かなくなった。
カリンはご機嫌になり、またも歌を歌った。
するとどうだろう、その魔物も、歌うかのように鳴き出したではないか!
「この虫、歌が聞こえているとでもいうの? 歌を歌として、認識している……」
カリンは驚いたので、もっと歌ってみる。
すると、その魔物はさらに大きな声で鳴いた。しかもリズムを取っている。
そこからは二人での大合唱であった。
カリンはノリノリで、魔物もノリノリである。
そんなことがあってから、カリンは虫に対する認識を改めた。虫にも歌を歌ったり、歌を楽しんだりすることができる。つまり、人間と同じようなものなのだ。そんな虫を飲み込んで食べてしまうなんて、人間を食べてしまうのと同じようなことなのだ。
カリンは虫を食べなくなったことで、「調虫師」としては戦えなくなってしまった。
だが、彼女の傍らには、常にあのダンジョンで出会った魔物がいる。
カリンはその魔物とともに戦うことで敵を倒していく、一流ハンターとして、やがて有名になっていった。
彼女は今日もダンジョンへと潜る。
歌を歌う同志を見つけて、仲間とするために潜るのだ。
いつしか彼女の仲間は、百匹を超えるようになった。
伝説のハンター、カリンは、今日も虫とともに、歌を歌っている。
短い作品ですが、楽しく書けました。
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