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8.お勉強会

今日はユーリアの住んでいるところのお話しです。物語はあまり進みません。


いつもの授業を受ける部屋。今日がいつもと違うのは、紅茶の良い香りがすること。そして、隣に兄がいること。


「モニカ先生、お久しぶりです!」


今日は久しぶりの授業。というのも出産で家がバタついていたからである。更に今日は、時間に余裕があるというブルーノ兄様が同席してくれている。紅茶は兄様の為である。


「はい、ユーリア様お久しぶりです。ブルーノ様もごきげんよう。この度は奥様のご出産、誠におめでとうございます。」


モニカ先生は、ウェーブした明るいブラウンの髪をバレッタで纏め、丸い眼鏡がよく似合っている20代(推定)の女性である。物腰は柔らかく、教えるのが上手な先生で主に歴史や地理、社会の仕組みについて教えてくれる。


「早速始めましょうか。今日は前回までのおさらいが主になります。さて、我がエーデライト王国の建国に際し絶対に覚えておきたい2人の名前。わかりますか?」


「はい!聖騎士のヴォルフ・アレクセイ様と大魔術師のミランダ・オールドシュタイン様です。」


「ふふ、正解です。さすがですね。」


エーデライト王国はその昔、大陸中に悪政を強いていた帝国の一部に過ぎなかった。しかし、たった2人の人間がその歴史をひっくり返すことになる。1人が女神より神剣を与えられし騎士、ヴォルフ・アレクセイ様。もう1人が神より祝福を与えられし大魔導士、ミランダ・オールドシュタイン様である。


アレクセイの神剣はたった一振りで万の兵を薙ぎ、オールドシュタインの魔法はその一撃で山が消し飛んだという。帝国からの支配を望まなかった二人が手を結んだのは必然で、あっという間に独立を宣言してみせた。二人はそのまま結ばれ、新たに王を名乗った。この2人は力はもちろん、大変素晴らしい人格者でもあったらしく、そこの領民達は喜んでついて行き建国されたのが今のエーデライト王国である。ちなみに独立に際して、他の地域でも反乱が起こり帝国は滅びたとのこと。


もっと物語チックに絵本にもなっているので、この国の常識でもある。「アレクセイ様のように立派な騎士に」「オールドシュタイン様のように素敵な女性に」というのは、この国の親が使う常套句である。


「ではついでですので、アーケイム領についても復習しましょう。アーケイム領は他領にはない特徴がありますね。アーケイム領唯一にして絶対の特産品はなんでしょうか?」


「大氷山より頂いている、氷です。」


「そうです。これも正解ですね。」


アーケイム領とは我がアレクサンドラ家が治める領地である。ここは北の最果ての地であり、一年中溶けることの無い氷山がこの地を見下ろしている。


この氷山を少しずつ切り崩し、王都を始め国中に流通させている。この世界に冷蔵庫は無い。ならば魔法と思うかもしれないが、氷の魔導師はとても少なくとても日常生活を便利にしてくれるような存在ではない。


そこで活躍するのがうちの氷である。溶けにくという性質を持った氷は、王宮の調理場を始め各家庭の氷室に必須というわけである。たかが氷と思うことなかれ。人々の生活を支えている大切な特産品であり、我が領の誇りでもある。


「ユーリアも領地のことを分かっていてくれて嬉しいよ。少しだけ、余談をしようか。」


とブルーノ兄様がなんだか楽しそうだ。


「建国の騎士アレクセイ様とアレクサンドラの姓、似てると思ったことはないかい?」


「...言われてみれば確かにそうですね。」


「実は偶然ではないんだよ。」


兄様の話では、アレクサンドラ家は実はアレクセイ様の第2子息の血筋にあたるらしい。この地を治めるにあたり、面影を残しつつ名前を変えたらしいとのこと。


「でも、それでは我が家は伯爵ではないのではないですか?」


王家の血筋であれば、侯爵に当たるのではないかとは当然の疑問である。


「うん。ユーリアはちゃんと自分で気付けて偉いね。それはね、」


何故か嬉しそうな兄様が続ける。アレクサンドラ家がアーケイム領を治めるにあたり、辺境伯の爵位を賜ったそうだ。氷山という国境の防衛も兼ねているのでそれは納得である。しかし王家の血筋に辺境伯、この国唯一の氷、これらを権力の集中だと咎める声が少なからず上がったらしい。そこであがった策が、ギリギリまで爵位を下げること。国での発言権を少しでも削ぎたかったらしい。


その話しがあがった当時の領主が、全く権力に欲のない人でそれをそのまま承認。そうしてアレクサンドラ伯爵家が生まれたわけである。


「だからね、うちは伯爵家だけど他からは絶対的に一線を引かれているんだ。家格と権力に差があり過ぎてね。まぁ、 覚えていて損はないだろう。」


「ありがとうございます、兄様。正直、全く知りませでした。 でも、我が家は代々そうなんですかね。お父様からも権力に対する欲を感じたことがありません。」


「そうだね。 普段があれだから余計にね。でも父上は領主としてこの上なく立派だよ。それは信じてあげてね。かくいう私もこれ以上の権力は望まないのが一番だと考えているから、我が家は確かにそういう血筋なのかもね。」


とお茶目にウインクされた。我が兄ながら、クールな外見と仕草のギャップがおかしい。前世も今世も長男のせいで立派にブラコンしてる私は、きっと悪くないはずだ。



「だからねユーリア、僕が次期当主としているから政略結婚なんて考えなくていいんだよ。ユーリアにはちゃんとお互い想い合える人と結ばれてほしいからね。うちの爵位は価値が高い。極端な相手でなければユーリアの自由にしていいんだよ。」


「き、急に何の話しになってるんだすか、兄様! 」


突然過ぎる話題転換に噛んでしまったけど、本当に急に何の話しに変わってるんだろう。


あと、何故そのことを兄様が知っているんだろう。


私は13歳になったときに、聞いてくれるであろうわがままが叶ったら、後は家の為になる結婚をするつもりだったのだ。


(誰にも言ったことはなかったはずだけど.......)


「そう不思議そうな顔をしないで。父上と母様を見ていたら恋愛結婚って素敵だと思えるからね。想う人がいるなら遠慮してほしくなくて。」


「なるほど。ですが兄様、今のところその予定はまったくありませんので。でも、覚えている間は心に留めておきますわ。」


「....覚えている間ね。」


兄様は小さく呟いた。私は恋愛するつもりは今のところないので、早々に忘れる予定だけれど。


「ブルーノ様、ご鞭撻ありがとうございます。私も勉強させて頂きました。話し込んでしまいましたし、今日はここまでにしましょうか。」


「はい。お二人共ありがとうございました。」


ここまでお読み下さってありがとうございます。


次回はお出かけしますよー。

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