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⒎双子誕生

ユーリア10歳の日常がスタートします。


大氷山から凍てつきそうな北風が吹き荒れる。それに対抗するかのように雲ひとつない晴天が眩しい、3月のある日。


「.............お母様、頑張って!! 」


ただ今アレクサンドラ家はかれこれ5時間に渡り、超緊張状態を強いられている。


目の前の扉の中からは、お母様の叫び声だけが響いてくる。


(神様お願い、どうか二人とも無事でありますように。)


閉めきられた扉の横に急遽置かれた椅子に座り、ユーリアは両手を固く握りしめ神様に祈る。


「.......きっと大丈夫だよ、ユーリア。」


と肩に手を置きながら、優しい声が降ってくる。


「ブルーノ兄様、はい。すみません、落ち着きが無くて。」


この人はブルーノ兄様。アレクサンドラ家の長男で現在18歳。肩甲骨まである濃紺の髪をサイドでまとめ、縁無しの眼鏡の奥では綺麗な紫色の瞳が微笑んでいる。


4年間寮付きの学園に通っていたが、この度晴れて卒業し我が家に戻ってきた。厳密には2つの学校に通っていた訳だけど、その話はまた今度。お兄様に会えるのが嬉しくて玄関まで迎えに行った私に


「こんにちは、可憐なご令嬢。ユーリアのお友達かな?」


と声をかけられたことは記憶に新しい。


「ユーリアが心配したところでどうにもなんねーから。大人しくしてろ。」


「レド兄様、うるさいですわよ。」


この口の悪いのが2番目の兄様。レドウィン、16歳である。目は釣り気味で瞳の色は燃えるように赤い。瞳より若干色の濃い赤い髪は、短くさっぱりと整えられている。


ダイエットの1年目は、よく使用人たちから甘い物を差し入れられそうになっていた。「ごめんね。気持ちだけで嬉しいよ。」と伝えつつ毎回断っていたのだが、レド兄様にはそんな光景を数回見られていて、


「やっぱり、ユーリアにダイエットなんて無理だろ。無理しないで今まで通りでいいんじゃねぇか。」


と嘲笑とともに声をかけられたのが今は懐かしい。


先日2年間の寮付きの学園生活を終えて帰ってきたときの驚きの表情は、ぜひ写真に収めたかった。この世界には無いけれど。



実に約4年ぶりの3兄妹集合には訳がある。もちろん2人が卒業したことも理由だが、それはただタイミングが良かったに過ぎない。


なんと、この扉の向こうではお母様が出産中である。


本格的な陣痛が始まり約3時間。お医者様や前世で言うところの助産師さんが部屋に入ってから約2時間が経とうとしている。その間、ずっとお母様の叫び声が響いていて、落ち着きたくても落ち着けない状態が続いている。


「ユーリア、大丈夫だから。母様を信じて待とう。」


ブルーノ兄様とお母様の一際大きな声が重なり、一瞬の静寂があたりを包む。


(う、産まれた!? こういう時は産声が聞こえるまで待つべきなんだよね...?)


表情だけでわたわたしてると、赤ちゃんの声ではなく再びお母様の声が響いた。焦ることしか出来ないのがなんだか悔しい。


20秒程の沈黙の後、二人分の赤ちゃんの声が聞こえてきた。


(え? 二人分?)


お兄様たちと視線を交わし「今は待とう」とお互い頷き合う。先程までの緊張は、少しだけその糸を緩めていた。


ガチャリと扉が開き、メイド長のマギサが出てきて声を掛けてくれた。


「皆様、奥様が双子を出産なさりましたよ。奥様も双子も大変元気です。」


と笑顔で伝えてくれた。その時点で限界を超えた私はへなへなと床に座り込んだ。今度こそ糸が切れてしまった。





「ふぉぉおおああ。か、かわいぃぃいいい。」


まだ目を開けたところは見れないけど、お互いの手を握り寄り添っている様はとても可愛い。すーすーという呼吸すら可愛い。


「なんだその声、もう少しどうにかなんねーの? 」


そう言いつつ、レド兄様もにやにやしている。この2人の天使たちの前には、レド兄様の暴言も私の耳をすり抜けていく。


「ふふ。本当に可愛いね。ユーリアの時を思い出したよ。」


ブルーノ兄様と天使たち、絵になるわぁ。と言うことで、天使もとい産まれたての双子ちゃんたちとのご対面である。


お母様はそのままお休みになられたので、また明日である。ちなみに、出産中に横でお母様を応援し続けていたお父様も一緒になって休んでいる。応援し過ぎて気力が尽きたらしい。....何故だ、父よ。


産まれたばかりの双子を前に、私は前世のことを思い出していた。そういえば、浅葱と萌葱が産まれた時もこんな感じだったなと懐かしくなる。


....そういえば、家族構成が前世と一緒だ。ゲームのユーリアの家族設定は知らないけれど、こういう所にも彼女との縁があったのだなと思う。今はそれが嬉しい。



この4年の間にもっとゲーム知識を思い出してみようと努力をした。でも、結果はあまり良くなかった。


とりあえず避けたいのは魔王の一派に加わること。その一点のみだ。


そのきっかけになるであろう攻略対象者についてだが、放置一択である。こういう時は、攻略対象者を避けまくるのがベストだと思う。思うが、名前も知らない人間の避け方が分からないので放置しかないのだ。出会ってから考えようと思う。


第一、この世界での私の目的はで恋愛することではないのだ。恋に落ちろというほうが難しいかもしれない。


そして今、天使たちに出会って私は再び決意した。こんな可愛い子たちを残して、人類の敵になどなるものかと。


今の私はユーリアであって、ユーリアでない。それがこの世界のゲームシナリオ?にどんな影響があるかは分からないけれど、魔王の戦力が例え1でも減るのは悪いことではないと思う。



おっと、いけない。この2人との面会時間は限られている。堪能しなくてはもったいない。二人ともミルクティーブラウンの髪をほわほわとたたせている。


「うふふふ。お兄ちゃんの方はきっとサラサラストレートヘアね。弟ちゃんはふわふわパーマに違いないわ。」


今の時点でそんなことは分からないけれど、浅葱と萌葱が思い起こされて、ついそんなことを言っていた。



後ろで、2人の兄がその発言に顔を見合わせていたなんて、天使に夢中の私が知るわけもなかった。



ここまでお読み下さってありがとうございます。


次回もユーリア視点です。

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