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6.私の主人《マリア視点》

マリア視点で、ユーリアを語って頂きます。


私の名前は、マリア・キャンベル。


アレクサンドラ家のユーリアお嬢様に仕える専属侍女です。



私がお嬢様と出会ったのは、10歳の頃。キャンベル家は落ち目の貴族で、そんな家の娘が奉公へ出されたのです。


メイド見習いとして勤め始めて半年経ったときのことです。キャンベル家は私一人を残して、一家心中を図ったとの報せがありました。


家の為に働いていたのに、まさかその家が無くなるなんて。虚無感や喪失感、1人残された孤独感が私の心を荒らしました。無心で仕事をし、気を紛らわしました。


そんな時でした。当時4歳だったお嬢様に声を掛けて頂いたのは。


「ねぇねぇ、あなたおなまえは??」


しかし、私はそれはもう荒んでおりましたので、愛想なく答えてしまいました。


「マリアでございます。」


「マリアというのね。すてきなおなまえだわ。そういえば、わたしから、なのらないとでしたね。ユーリア・アレクサンドラといいます。よろしくね、マリア。」


「はぁ?」


いけないと分かっているが、思わず声が出てしまいました。馬鹿にしているのか。流石に仕えている家の娘の名前くらい知っている、と当時は思ったものです。


「わたしはマリアと、はじめましてだからね。あいさつはだいじよね。」


たかが一使用人に挨拶など。令嬢らしからぬ言動に呆気に取られていると、お嬢様は隣のメイド長に話し掛けられました。


「ねぇマギサ。わたし、マリアとおちゃしたいの。おねがいしてもいい?」


「は? いえ、いけません。お嬢様そのような.....」


「畏まりました、お嬢様。少々お待ちくださいね。」


私の制止など聞こえないと、メイド長は準備に行ってしまわれました。そのままお嬢様に言われるがまま席につき、あっという間にお茶会の準備が整ってしまいました。


「ありがとうマギサ。さぁマリア、いっしょにたべましょう?」


「.......えぇと、では失礼して。頂きます。」


お嬢様とメイド長の完璧な笑顔に、もう何を言っても無駄だと悟ったので、大人しくお菓子を頂きました。


「マリア、たくさんたべてね。かなしいときは、おなかいっぱいにするんだよ。でも、ひとりじゃ、おなかいっぱいにならないんだよ。」


この小さなお嬢様は、どこまで知っているのだろうと思いました。そして、きっと何も知らないだろうと思い至りました。


「だから、いっしょにたべよう? だれかとたべたら、おいしいも、うれしいも、ふえるんだよ。.......でも、いまのマリアは、なきそうだね。かなしかったら、ないてもいいのよと、おかあさまがいってたよ。だから、マリアもないていいんだよ。そのあとに、またおなかいっぱいに、なればいいんだよ。」


私が返事を出来ないでいる間、お嬢様は話し掛け続けて下さいました。話の内容は支離滅裂でしたが、純粋に私を想ってくださっているのは伝わってきました。そして気付いたのです。家族の訃報を聞いてから、私が泣いていなかったことに。


一度気付くと、涙がどんどん溢れてきました。声をあげて泣きました。そのうちに、お嬢様も貰い泣きをしてしまいました。自分より声を上げて豪快に泣くお嬢様。


どう発音しているのか、「マリア」に濁点を付けて泣くお嬢様に、つい吹き出し、笑ってしまいました。


このときに私は吹っ切れました。10歳であったマリア・キャンベルは4歳のお嬢様に救われたのです。そして、このお嬢様に仕えていたいと、そう思えるようになったのです。


はじめましてから1時間弱のことでした。その短い時間に私は、お嬢様の虜になってしまったのです。


約束通り、お腹いっぱいお菓子を食べました。部屋を出ると、メイド長が「うちのお嬢様は凄いでしょう? 任せて良かったわ。」と私の表情を見て、誇らしげなお顔をしていたのが忘れられません。


...少々、長くなってしまいましたね。失礼致しました。



そんなお嬢様は、ザッケローニ様との婚約破棄で人が変わってしまいました。


破棄に至るまでの会話を近くで聞いておりました。多少癇に障る言葉もありましたが、ザッケローニ様はお嬢様の良さが分からないのだと、同情の方が大きかったですね。


まさか、こんな痴話喧嘩で婚約破棄になるとは思わないでしょう。故に空気に徹しておりましたら、ことは起こりました。


当時の様子を見ていた、旦那様仕えの執事長の話によると「したこともないくせに、懸命にお嬢様に厳しく当たろうとする旦那様がそれはそれは滑稽で。」と肩を震わせていました。いやそこではなくて。しかし、お嬢様に甘々な旦那様しか拝見したことがございませんので、それには驚きました。


しかし、笑えない自体も起こりました。旦那様の態度と奥様のお言葉にお嬢様が倒れてしまったのです。


それから、お嬢様がお目覚めになるまでの3日間は長く、暗いものでした。お屋敷中が、まるで色を無くしてしまったようでした。



目を覚ましてからの、お嬢様は何かが決定的に変わりました。それが何なのかはいまだに分かりません。


あの、悲しい出来事から4年。


お嬢様は成長されました。言葉遣い、マナー、姿勢、ダンス等々。既に10歳の貴族の娘として恥じる点は何も無いでしょう。本人はまだまだやる気のようですが。


何よりもこの4年間、お嬢様はお菓子を全く食べていません。真面目にダイエットに打ち込んだ結果、余計な脂肪は消え去りました。お嬢様は可愛らしいお顔立ちかと思いきや、痩せるときりりとした目鼻立ちをしておりました。銀髪と翡翠色の瞳はなんと儚げなんでしょう。また胸は豊かなままに、身体はきれいなラインを残すという奇跡をやってのけました。将来が恐ろしいですね。


まぁ、何を伝えたいかというと、お嬢様きれい! お嬢様万歳! ということであります。


最初は使用人みんなで、なんとかお嬢様を甘やかしたいと、奥様には内緒でお菓子を差し入れようとしました。しかし、お嬢様本人にお優しい言葉と共に断られてしまうのです。


それが1年続いた頃、ようやく我々はお嬢様は本気だと気付きました。私たちがするべきは、お嬢様の応援といつも通りに振る舞うことのみだと。


旦那様だけがそのことに気付かず、お嬢様を誘惑しますが無視されておりましたね。なんとなく、お嬢様は旦那様に対して厳しいときがありますが、自業自得というのが、我々の見解です。



「あ、マリア!! 今日、午後の予定が無くなってしまったの。だから一緒にお茶しましょう?」


「ふふ。畏まりました。お菓子はどうしますか?」


「あ、また意地悪言うのね。もちろん無しよ。マリアのお茶は美味しいからいらないもの。」


「ふふ、光栄です。すぐにご用意致しますね。」


お嬢様は確かに変わられました。内面もお姿も。しかしお嬢様のお優しい本質はこれからも変わらないだろうと、私は思うのです。


そして、そんなお嬢様にお仕えできることが私の何よりの誉れであると、いつかお嬢様のお伝えしたいものです。


さぁ、今日もお嬢様の為に美味しい紅茶を淹れなければなりませんね。



ユーリア4歳のセリフ、読みづらくてすみません。

少しでも、舌っ足らず感を感じて頂けると嬉しいです。


次回、家族が増えます。

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