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2.私の世界

今回は前世のお話です。


前話とはテンションが異なり、シリアス寄りです。ご注意ください。


「ぜんいーーーーん!注目!!!」


夕食後の穏やかなリビングに、突如として大声が響く。


ゴトっとスマホを落とした青年がこちらを睨む。


「っるせーんだよ!なんだよ!突然!!」


赤みがかった黒髪を無造作に撫でつけ、不機嫌そうな視線をこちらに向けるのは、(こう)、この家の次男である。


我が兄ながら相変わらずイケメンである。その顔に免じて、ビクッと小さく肩を揺らしていたのは、黙っておいてあげよう。


「「なになにーーー??」」


と可愛らしく声を揃えるのは、私の可愛い弟たち。双子の浅葱(あさぎ)萌葱(もえぎ)である。浅葱はダークブラウンのストレートヘアをさらさらと揺らし、萌葱は同じ色の髪を天然のウェーブに任せふわふわと揺らしながら、2人は同時に小首をかしげる。


あぁ、なんて可愛いの。将来有望過ぎる私の可愛い弟たち。


「ふふふ。明日は何の日でしょうか??」


みんなに問いかけてみる。


「あぁ。もう明日か。」


との言葉は、我が家の長男。(そう)である。深い蒼と黒を間の色の髪をきっちりとセットしている。仕事で疲れているであろうに、その整った顔はそれを感じさせない。


メガネをクイッとあげる仕草は大変様になっている。眼福でございます。


「さすが蒼兄(そうにぃ)! 分かってるね! そうなの。ついに明日!! あの!! 某有名新作RPGの発売日だよ!」


「え、まじかよ。明日一日中講義入ってるわ。最悪だ。くっそー!」


と頭を抱える紅兄(こうにぃ)。あなたが見た目に反して真面目だというのは、大変ポイント高いですよ。えぇ。講義をサボるなんて露ほども考えていないんだもん。


「「うわーい。楽しみだねー。」」


うんうん。楽しみだねー。

ほんとに弟たちには癒されるわー。


「俺も普通に仕事だな。失念していた。」


とは、蒼兄。


「ふっふっふっ。そこで私の出番ですよ!なんと!明日は開校記念日のため、私は休みです!!」


「「「「おー!!!」」」」


パチパチパチとまばらな拍手が聞こえる。


「じゃ、明日頼むわな。」


「うむ。任せたまえ!と言うことで、蒼兄様から軍資金を頂戴したいのですが.......」


「よかろう。良きにはからえ。」


「ははー。有り難き幸せ!」


「「ありがたき、しあわせー!!」」


浅葱と萌葱が復唱している。


思わず笑みがこぼれる。お金が少し多く貰えたとかじゃなくて(もちろんそれもあるけど)、私はこのくだらないやり取りが大好きなのだ。我が兄弟たちは案外ノリが良い。ずっとこんな家族でいたいものだと心のそこから思う。


うちには両親がいない。よくある不慮の事故ってやつだ。双子も私もまだまだ両親に甘えていたかった。でも、周りはそれを許してはくれなかった。すでに19歳だった蒼兄がいたからだ。親戚たちは、誰か1人なら良いよ、という調子で5人まとめて引き取ってくれるような人はいなかった。今なら分かる。急に5人もの子ども(うち4人は男子)を養う余裕など一般市民には厳しくて当たり前だ。当時は家族が離れるのは絶対嫌だと言って、蒼兄を困らせた。だから、蒼兄が1人で働きに出て頑張るしかなかった。紅兄もすぐバイトを始めたし、私も高校に入学後は日々アルバイトに明け暮れている。弟たちはあまり構えない私たちに文句一つ言わない。離れ離れじゃないけど、何となくすれちがってる毎日を過ごしていた。



両親を亡くしたとき、周りの子どもたちは無自覚にその傷を抉ってきた。心配や同情を素直に受け取れなかったから、私は孤立にした。けれどその分傷に対して向き合う時間も多かった。立ち直るのに少し時間がかかってしまったけれど、中学2年生の途中には割と前を向くことが出来ていた。最初は他人が怖くてびくびくと過ごしていたけど、だんだんと話しかけてくれる子が増え、友達と呼べる子も数人いた。そんな穏やかな日常が変わってしまったのは、兄が近くの高校に通っていると誰かが騒ぎ始めた頃だった。


「え!?お兄さんてあの紅さんなの!?」

「まじで!?今度お家遊びに行ってもいいかな??」


そんな二言が増えたいった。最初は気にしていなかったけれど、1番仲の良かった子を家に招待したときに気付いてしまった。


「ねぇ、今日はお兄さん居ないの??」

「今日はバイトがあるから、20時までは帰ってこないかな」

「あ、そーなんだ。じゃ、今度はいつ来れば会えそうかな??」

「.......。えと、バイトのシフト聞いておくね。」

「やった!ありがとう!いいよねー、あんなイケメンのお兄ちゃんいるとか、超羨ましいわー。」


.......うまく笑えている自信がなかった。他の女の子の友達もみんな、そんな感じだった。私を通して兄に近づくことしか考えていない。最初の友達は決してそうでは無かったはずだ。それでもこんなやり取りが数回続けば嫌でも気付く。


私は何となく、家族以外の人間を信じるのが怖くなった。


そこからふざきこむようになった私を、なんと蒼兄がゲームに誘ってくれた。みんなでカートレースをする、有名なゲームである。最初は蒼兄に気を遣わせたと思って付き合っていたゲームだけど、段々と熱中していった。紅兄も空いた時間は参戦したし、弟たちにも操作は難しくなかったらしく交代で参戦していた。いつしか家族でゲームをするのが一番の楽しみになっていった。私はよくリモコンと一緒に体が斜めになってしまうのを紅兄にからかわれたりしたけど、それすら楽しいと思えるゲームの、なんと偉大なことか。


ささいなきっかけではあるが、そこから兄妹みんなでゲームにハマっていくのに時間はかからなかった。「次は何のゲームをするか。」その会話に胸を躍らせたし、例えソロプレイのみのゲームでも、プレイしながらわいわい口を挟んだり、挟まれたりも楽しかった。私の小さな世界は家族とゲームで完結していた。それでもいいと思っていた。







ここまでお読み下さってありがとうございます。


次回は今世に戻ります!

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