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1.婚約破棄

初投稿作品です。


拙い上に、誤字脱字があると思いますが暖かく見守って頂ければ嬉しいです!


ここはエーデライト王国。国の南側は青々とした緑に溢れ、東側にはどこまでも続く青い海。西側には豊富な資源が未だ眠る鉱山。大変土地に恵まれた王国である。


そんな王国の北側に位置するアーケイム領は、代々アレクサンドラ伯爵家が管理する土地である。そこでは一年中溶けることの無い氷山が領地を見下していた。


氷山から離れた村の近く。そこにアレクサンドラ家の屋敷はあった。暖かな春の陽気に包まれる屋敷の中庭では、到底そこに相応しくない怒声と泣き声がこだましていた。


「うるさいっ!!泣くな!もう我慢出来ない!年々その丸みを帯びていく体型を少しでも省みたらどうか!!そなたは僕に相応しくない!僕は美しいものが好きなんだ!」


金髪のふわりとした髪を揺らし、その橙の瞳に確かな怒りを宿し少年は叫んだ。怒っていても損なわれない美しさが少年にはあった。


「...ひぐっ、どうして、、そんなっ、ひどいこと言うのぉ?ザックさまは、わたしのだんなさまに、なるんじゃないのぉ?」


対する少女は、食べかけのお菓子を手放すことなく泣いていた。銀色のストレート髪を後ろに流し、翡翠色の瞳に涙を溜めながら少女は問うた。儚げな色味とは異なり、その身体の存在感は儚くもなんともない。たいへん残念である。


「だから、今言っただろう。僕は美しいものが好きなんだ。そなたのように際限なく菓子を食べ、体型を少しも気にしない様は美しくない!僕は将来、そんな君と共に歩める気がしない!父上に相談してこの婚約は無かったことにしてもらう!もう決めた!」


先程から少女に厳しい言葉を浴びせているのは、ザッケローニ・キルシュタイン、8歳である。依然として泣き続けているのは、ユーリア・アレクサンドラ、6歳。会話から察せられるようにこの2人は親同士が決めた婚約者同士であった。


「うぅ.....わ、わたしだって、もうザックさまなんて、、きらいだもん!.....うわーん」


「ふ、ふん。ならばちょうど良いな。今から父上のところに相談しに行く。ちょうどそなたの両親も揃っているだろうしな!」


ユーリアも幼いながらに自尊心を傷付けられ、怒っていた。感情に任せ、手に持っていた残りのフィナンシェをもぐもぐと頬張り砂糖たっぷりの紅茶で流し込むと、先を歩くザックの後を追った。


振り返ったザックはその様子に冷ややかな視線を送っていた。


ちなみにこの時ユーリア付きの侍女マリアは一部始終を見守っていたが、まさか子どもの戯言が実現するわけがないと空気に徹していた。それから淡々と2人が後にしたお茶会の後片付けを始めていた。そう、まさか実現するなんて思いもよらなかったのである。






「.......では、キルシュタイン子爵。この婚約、破棄ということでいいかね?」


アレクサンドラ家の応接室に訪れたしばしの沈黙は、この館の主によって破られた。ユーリアと同じ髪の色をした男性が告げる。


「この度は、愚息が大変申し訳なかった。私からもよくよく注意する。本当に申し訳ない!」


顔面を青くした男性が頭を下げている。その横には無理やり頭を下げられ、仏頂面をしたザッケローニがいた。


「いや、穏便にいこう。婚約は無くなっても家同士の関係は続いていく。君と友人であることも変わりない。子どもたちも幸い二人とも幼いしな。まぁ、これからもよろしく頼むよ、キルシュタイン子爵。」


あまり感情の乗らない声で返答するのは、ダーント・アレクサンドラ伯爵、ユーリアの父である。


「寛大な対応、痛み入る。ほんとに何と言ったら良いのか....いや、これ以上の長居は無用だな。今日は失礼させて頂く。」


と改めて頭を下げたのは、ネイサン・キルシュタイン子爵、ザックの父である。そうして2人は早々に屋敷を後にした。


礼を欠いている去り際に見えるが、内心は相当焦っているのであろうキルシュタイン子爵を黙って見送っているのは、先の言葉の通り、2人が友人だからであろう。



しばらくの沈黙の後、ダーントの視線は娘へと移る。


「.......ユーリア。今回のことはザック君だけが悪いと思うかい?婚約破棄自体はね、怒ってないんだよ。向こうからのお願いだったし、友人だから引き受けただけだしね。でもねユーリア。私もね、これでも反省しているんだよ。ユーリアがあんまり可愛いから、今まで甘やかし過ぎたとね。いつの間にこんなにまん丸になったんだい?」


「そうねぇ。とても丸いわねぇ。まん丸だわ。あんまりユーリアが可愛すぎるからと貴女の言うがままにしてきたわ。特に食に関して。そのことを今、大変反省しているわ。ユーリア、今から言うことは貴方のことを思ってだから、心して聞いてね。」


丸いを連呼するくせに、その内容はとがっている。口調は穏やかながらも、何故かその通りに受け取れない声音で話すのは、ローゼ・アレクサンドラ、ユーリアの母である。緊張した空気が場を支配する。


「ユーリア....。今後は一切の菓子類を禁止にします!並びにこれからは家庭教師の先生をお呼びして本格的にお勉強しましょう。お菓子を食べる暇があるからいけないのよ。ふふふ。勉強はもちろん、ピアノとダンスの稽古も始めましょう。.......ユーリア?分かった??良いわよね?私もね、最近のユーリアは可愛くないと思っていたのよ。伯爵令嬢たるもの、折れそうな位でちょうど良いと思わない??ねぇ??」



笑顔なのに無表情という器用な表情を初めて見た。同時に耐えがたい現実を突きつけてきた母に黙ることしかできなかった。言葉の内容が理解出来ない。というか、したくない。唯一反応出来たことは、


「おれるのは、ダメだとおもうな.......。」





アレクサンドラ家には2人の兄がいた。ユーリアは初めての女の子ということで、父に、母に、兄2人に、優しい使用人たちに言葉通り蝶よ花よとあまーい環境の中で育ってきた。誰の目から見ても幸せな家族であった。そんな中で育ったユーリアは性格は決して悪くない。わがまま放題という訳でもない。常にニコニコと可愛らしい笑顔を誰にでも向けられることの出来る少女であった。そんなユーリアがわがままを言うのは、食に関することだけである。食事、特に甘いものに関しては凄まじい執着を見せた。つまりは、彼女を満たしてくれるのは可愛い花やリボン、ドレスや宝石ではなく甘いものであったのだ。これまで甘いものは手を伸ばせばそこにあった。そうなるようにおねだりしていた。その結果が今の体型に現れているわけだが、可愛い娘に盲目になっていた家族にとって今回の婚約破棄は目の覚める出来事だった。そしてようやく気付いたのである。


「ユーリアは太っている」と。


それが先程の言葉に繋がるのだが、そんな経緯を知らない彼女にとって(仮に知っていても)この度の母の言葉は死刑宣告に等しかった。


これまで見たことが無かった母の本気と、何とか受け入れた言葉の数々に、ユーリアは倒れた。


ここまでお読みくださってありがとうございます。


次回は翠のターンの予定です。

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