2.居候
「いや、なんでですか。嫌ですよ。警察に通報しますよ?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!警察はダメだ。警察に捕まると不法侵入やらなんやらで捕まっちまうかもしれない!」
「知らないですよそんなこと」
「た、頼む!お願いだ!お願いだから俺をここに泊めさせてくれ!」
うーん。どうしようかなあ、邪魔だし、どっか行って欲しいが、でもかわいそうだしなあ。
「分かりました。そのかわり、何か得意なことはありますか?それがあればここに泊まっていてもいいですよ」
「え?得意なこと?え、えーっと」
「無いんですか?じゃあ」
「ま、待ってくれ!えっと、あ、数学!」
「数学ですか?言っておきますけど、僕も数学は普通に出来る方ですからね。じゃあ、これ解けますか?」
今日のテストで出た問題を出してみた。
「な、なんだ。普通の二次方程式の問題か。これは簡単だろ」
男は、サラサラっと解いてしまった。
「じゃ、じゃあこれはどうですか?」
今度は、今日の試験の中で一番難しかった問題を出してみた。だが、
「おっ、不等式の問題か。ちょっと骨が折れるけど、解ける問題だな」
そう言って男はスラスラっと式を書いていき、結局解いてしまった。
「す、凄い」
「はは、だろう?」
じゃあ数学の教師として居てもらうか。
「いいですよ、泊まってってください。でもそのうち出て行ってもらいますからね」
「ありがとう!恩に着るよ」
そして男は俺の家に泊まることになった。
「あと、家事も手伝ってくださいね」
「分かってる。出来る限りのことはするよ。俺も追い出されたくないからな」
まあいいだろ、ここには盗むものもそんなにない。行くあてもないし、どこかに逃げたりはしないだろう。
「じゃあ、これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
固く握手を交わした。
「俺が暮らしてた世界ではなあ、こーんなに高いビル、建物がズラーッと並んでたんだぜ」
「へえー、そんな建築技術があるんですね」
「それだけじゃない他にも色々ある。例えば......」
男の話はとても面白く、刺激的なものだった。俺が知らない世界に少しでも触れられているのが嬉しかった。
「あはは、そんなこともあったんですね。......さて、そろそろ晩御飯にしましょう」
「よし、じゃあ俺が作ろう」
「ええ?出来ますか?」
「バカ言え、俺だって三十過ぎたおっさんだぞ。自炊くらい出来るさ」
「でも知ってる食材ないでしょう」
「うっ、それは確かに」
「だから最初は見てるだけで良いですよ。徐々に覚えていってください」
「悪いな、助かるよ」
今日は肉と野菜の炒め物だ。シンプルだが、自炊ならそんなものだろう。
「じゃあ調理開始しますよ」
フライパンに肉と野菜を乗せ魔法の火で焼いていく。
「ちょ、ちょっと待て。もしかして、魔法ないと料理出来ない感じ?」
「あ、そうか。魔法使えないんでしたっけ。でもまあ、練習すれば出来るようになると思いますよ」
「そんなもんかなあ」
「というか、出来てもらわなきゃ困りますよ。この世界で魔法使えないとめちゃくちゃ不便ですよ。田舎ならいざ知らず」
「そうかあ、じゃあ出来るようにならないとなあ」
「明日は休日ですから、その時に練習しましょう」
「何から何まで悪いな」
ええい、乗りかかった船だ。最後まで乗り切ってやるさ。