第五話:派遣社員の女
金曜の朝、あたしは目覚めた。
顔を洗うため洗面台へ行く。
自分の顔を鏡で見る。
平凡な顔立ちだ。
鏡を見て、ため息をつく。
恋人なんていたことない。
性格も暗い。
歯磨きをして、顔を洗う。
化粧はほんの少し。
近眼なので、メガネをかける。
職業は派遣社員。
仕事の内容はつまらないデータ入力。
将来の展望は無い。
負け犬人生。
両親はもういない。
ただ、家は残してくれた。
一戸建て。
しかし、二階に五歳年上の兄がいる。
就職はしたがブラック企業でうつ病になり、首になった。
その後、二階の部屋にひきこもっている。
あたしは一階の部屋に住んでいる。
滅多に顔をあわせない。
兄はこれから、どうするんだろう。
あたしもだけど。
憂鬱。
今日は派遣先の最終日。
契約途中で切られた。
多少、年休が余っていたので、数日前に終了。
タイムシートをファックスで派遣会社に報告。
ちょっとしたお餞別を直属上司から貰って、さようなら。
とぼとぼと一人で帰る。
コンビニで弁当を買って帰る。
自宅近くの暗い道を歩く。
この道は人通りが少ないし、薄暗くて少し怖い。
以前、男につけられている気がして、後ろを振り返った。
見知らぬ男が横を通り過ぎていった。
あたしにはなんの興味もなさそうだった。
今、歩いているのはあたしだけ。
あたしはずっと一人なのか。
駐車場に停まっている自動車の横を通り過ぎようとした。
その時、あたしは腰に衝撃を受けて気絶した。