最終話:あたしはイケてる
テレビのニュースで、あの変態女を見た。
『ナロウタウンの美人女社長、自宅で転倒、大怪我!』
『十歳年下の人気男性アイドルと密会の噂もあった長身スレンダー美人女社長、頸椎骨折!』
『頸椎損傷で一生寝たきりの可能性も!』
といろいろと報道されている。
「ざまあみろ」と思った。
弟がインタビューを受けている。
あの土下座男か。
「姉は実家の階段を上る途中で、誤って足を滑らしてしまったんです」とか答えてる。
ウソツキ野郎が。
結局、警察には通報していない。
お金の魅力に負けてしまった。
しかし、あの変態女が何らかの手を使って、復讐しにくるかもしれない。
あたしは地方都市に引っ越すことにした。
実家は兄にあげた。
生活費は仕送りする。
引っ越した後、また派遣会社に登録。
しばらく、働くことにした。
もし、あの女が復讐に来て、あたしが行方不明になった場合、会社を無断欠勤すればすぐに会社の人が確認に来るだろう。
ひきこもりの兄は頼りにならないし。
やっぱり、何かしら組織に所属していたほうが安心だ。
事件の詳細を書いた紙を机の中に入れておく。
しばらく、様子を見る。
いずれ、この一億円で海外に住もうかな。
と思ったが、一人じゃ寂しいし不安だなあ。
眼鏡はやめて、コンタクトにした。
眼鏡を取られると周りがぼんやりとしか見えない。
犯罪や災害に巻き込まれたとき大変だ。
コンタクトも落としたら終わりだけどね。
半年経った。
もう大丈夫かと、誘拐されたときに着せられた水着と洋服を捨てることにした。
今まで、持っていたのは証拠品になるかもしれないと思ったからだ。
あのいかれた女の髪の毛とか付いていて、DNA鑑定とかで照合出来るかもしれないと。
まあ、もういらないか。
で、ゴミ箱に叩き捨てようと思ったんだけど。
水着を見ていたら……。
市営プールに行って、競泳水着を着てみた。
プールサイドを歩いてみる。
男性たちがチラチラとあたしを見ている。
何だか気分が良い。
ありゃ、あたしも変態になったのか。
けど、注目されるのは気持ちがいい。
捨てるのをやめた。
洋服も一億あるんで、いろいろ買うようになった。
ナロウタウンからだけは買わないけど。
いろいろとおしゃれな洋服を買う。
お化粧にも凝るようになった。
高級化粧品買いまくり。
髪形もすっきりさせた。
エステにも通うようになった。
兄が就職した。
半年清掃のバイトしていたら、働きぶりを認められて正社員に採用になったようだ。
仕送りはいらないと連絡があった。
急にどうしたんだろう。
まあ、自立してくれたんで、おめでとうと言いたい。
さて、そろそろ会社をやめて、海外旅行でもしようかな。
一億円もほとんど減ってないし。
しかし、一人旅ってのも、ちょっと空しいなあ。
そんなことを考えていたら会社からの帰り際、同僚の若い正社員に廊下で呼び止められた。
イケメンで独身。
「あの、次の土曜日あいてますか」
あいているってどういうこと?
「映画を見に行きませんか」
「は、はい」
これって、デートの誘いじゃん。
あたしは絶世の美女じゃないけど、魅力のある女なんだ。
足どり軽く家に帰る。
あたしはイケてる!
(終)
2019/03/10修正:(終)が抜けていた。




