第二話:リフォームして監禁部屋を作る
私は会社の経営者。
アパレル関係。
ファッション通販サイトで成功した。
その名もナロウタウン。
業界で知らぬ者はいない。
株式一部上場も果たした。
今や、大金持ち。
まだ、三十代。
最近では、芸能人とも恋愛関係の噂になってしまった。
年齢差は十歳。
まあ、その芸能人の方とは、わが社の広告に出演してもらった関係で、高級ホテルのレストランで一度食事をしただけ。
しかも、その方のマネージャーも一緒に。
実際のところ、そのアイドルさんとは一線を越えるどころか、手も握ったこともありません!
しかし、何ということか、週刊誌でその噂の記事が載っただけで、わが社の株価が下がってしまった。
私は株主の皆様にも気配りをする、健全な経営を目指している。
株は自己責任と言うけれども、株主に優しい経営者が理想。
個人投資家は神様です。
証券取引法違反で逮捕されて、会社が上場廃止になって市場を大混乱させて、個人投資家に大損させたくせに、出所しても怪しげなロケット事業をやったり、平然とテレビに出て下らないことを喋りまくったりと、全く懲りてない豚のように太った男とは私は違う!
そう! 全く、違う!
私は偉大な経営者を目指す!
私は思わず、
ドン! と机を叩いた。
え? けど、お前は変態だろって?
そう、変態ですが、何か?
うるせーよ! 人の趣味に文句つけるな、あっち行け!
さて、まあ、とにかく私は大金持ち。
現在は、東京のタワーマンションに住んでいる。
そのマンションに女を監禁するわけにはいかない。
目立ってしょうがない。
監視カメラもそこら中についている。
例のアイドルさんとの件で、マスコミの連中も見張っているかもしれない。
だいたい、社長業は忙しい。
今回の企みは、素早く終わらせなくてはいけない。
まあ、忙しいといっても、私の会社は残業無し。
社員にも優しいホワイト企業だ。
実は、地方に別荘を持っている。
人口の非常に少ない場所。
私の別荘の周りは、人家は全く無い。
居るのはクマやイノシシくらいなもんだ。
地下室もある。
監禁するにはいい。
誘拐した女が悲鳴をあげても、他人が気づくことは無い。
しかし、ここは慎重に考えてみる。
人がいないということは、当然、女もいない。
従って、東京やらで誘拐し、自動車で別荘まで運ぶことになる。
ここで私が気になったのは、警察がそこら中に設置したエヌシステムというやつ。
ネットで検索してみると、自動車のナンバーを無差別に撮影して、車両の情報を全て記録して、犯罪が起った場合に車両のデータと照会され、捜査するらしい。
これでは、誘拐した時に目撃されたり、監視カメラなどに自動車が映っていた場合、すぐに特定されてしまう。
また、一般人の自動車に付いているドライブレコーダーもやばい。
最近は、ほぼ全ての車に付いていると思っていい。
危険ですね。
監視社会。
世知辛い世の中になったもんですね。
別荘監禁計画は中止。
実は、私にはもう一つ家がある。
実家である。
但し、両親はもう亡くなっている。
実家は東京の隣のK県にある。
わたしの家は割と裕福だった。
いろいろと習い事もさせられたなあ。
三階建ての割と大きい家。
ただ、残念ながら地下室はない。
まあ、それが一般的だけどね。
細い歩道に面しており、そして、そこは人がほとんど通らない。
右隣に小さい家があったのだが、今は住む人が居なくなって取り壊されて、うまいことに駐車場になっている。
左隣は我が実家の広い庭がある。
手入れが悪いので、木や雑草が茂っている。
外から実家が見えにくいので、ちょうどいい。
周りに監視カメラはない。
閃いた。
実家のすぐ近くで、誘拐すればよい。
駐車場に自動車を停車。
獲物が来たら、通販で取り寄せたスタンガンで気絶させる。
自動車に引きずり込む。
隣の実家へ獲物を持ち込む。
一分で完了。
我ながら、天才的である。
私は社長業のかたわら、毎週金曜日、定時でこの実家に帰り、家の三階から外を観察していた。
いつも、夕方、同じ時間に、道を通る女を見つけた。
コンビニ弁当を持っているところ、家に帰るところだろう。
おそらく二十代。
ぽっちゃり形。
一度、尾行したことがある。
私の実家から、二百メートルほど歩いた場所に二階建ての古い家があり、そこに住んでいる。
一人暮らしのようだ。
尾行中に女に振り向かれたので、まずいと思い、そこで立ち止まって後ろを向いた。
女はそのまま行ってしまった。
危ない、危ない。
しかし、獲物は見つけた。
そこで、実家をリフォームして女の監禁部屋を作ることにした。
一階に十畳の大きな部屋がある。
それを防音室にする。
工事費用は六百万円。
私にとって、たいした出費ではない。
浮き床コンクリート仕様。
全体にコンクリートで第一遮音壁を設置。
その後、防音室側の壁と天井に第二遮音壁を設置。
窓は当然無し。
天井には梁型で吸排気ダクトボックスを設置。
もちろん、吸音天井仕様。
これで、部屋の中で泣こうが喚こうが悲鳴をあげようが喘ぎ声をあげようが絶叫しようが全く外には聞こえない。
家のインターフォンは居間に付いているが、この監禁部屋にも同時に聞こえるよう小型カメラ付きのを付けた。
外部から突然、人が訪問してきたときの用心のため。
さて、私はわざとらしくバイオリンを工事業者に見せて、
「最近はご近所トラブルが多いので、思い切って防音室を作る事にしたんです」と説明する。
バイオリンは子供の頃、ほんの少しだけ習っただけ。
もう弾き方はすっかり忘れている。
弾けるのは『きらきら星』くらい。
「部屋の扉に鍵は必要ですか」と業者に聞かれたので、
「必要ありません」と答える。
なるべく監禁部屋を作るという目的を悟らせるのを防ぐ。
「まあ、私が小学生の女の子を誘拐して、この防音室に監禁するとは見えないでしょう」と言うと作業員たちは笑った。
冗談と思ったようだ。
実際のところ、冗談で言ったわけではない。
小学生には興味が無い。
私が興味があるのは成熟した女性。
少なくとも二十歳以上。
スタイルがいいなら五十代でもよい。
ウヒヒヒヒ!