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魔術練習開始



 昨日朝早く街を出た1人1匹は、国境のすぐ手前まで歩を進めていた。

 進めてはいたのだが…。


「襲撃多すぎるだろ!

 無限ポップでもしてんのか、コイツらは!」

「ゲームじゃあるまいし、それはないと思う?」


 本日3度目になる狼系魔物の襲撃を受けていた。

 数的には5~10頭程度だが、度々奇襲されてはたまらない。


「分かってはいるさ。コイツらの縄張りが広いだけだ。

 ……こっちから潰しに行くと逃げるみたいだし。

 連中もこちらを監視しているだけだと理解できる」

「オートモードが凄い欲しい!」

「それだ!

 いざ、舞い来たれ、風の娘よ!

 『マテリアライズ・エアリア』」


 短剣を構えて牽制していた咲の言葉に反応した恭介は珍しく呪文詠唱をして魔術を発動させる。

 それは精霊具現化の魔術。小さな蝶の羽を持つ妖精が現れる。

 風の精霊はスタンダードな妖精系の姿らしい。


「頼むぞ、エアリア」


『はいはいはーい。ウインドカッター乱れ打ち!』


 現れた妖精が手を挙げると風の斬撃が、的確に狼達の首を切り付けていく。


「精霊のオート攻撃モードってこと?」

「正解だ。魔力をごっそり持ってかれるが、半日くらいはお供モンスターみたいに付いてきてくれる」

「本当にゲームみたい」

「あいにくゲームじゃないからな。死体は全部自力回収しないとダメだ」

「放っといちゃだめ?」

「ダメ。

 病気の温床になるかもしれないし、何より俺達金欠だから」

「……ファンタジーなのに」

「ファンタジーだから世知辛いんだろうが。もう少し文明レベルが近代的なら多少のバイトで旅費くらいは捻出出来るはずなんだ」

「…むう。回収頑張るからいい加減魔術教えてよ?」

「そう…。だな。

 襲撃の規模によっては俺でも守りきれんし、いい機会か」

「やった。すぐに集めてくる!」


 いそいそと集め出す咲に死体を触る嫌悪感はない。小さい頃から生き物に接してきたからこそ、命を身近に感じるのだろうが、その様子に恭介は、魔術を教えることが出来ると確信する。

 魔術に限らず、戦う手段を持つ時に一番必要なのは、殺す覚悟だ。

 殺す覚悟がないのに、戦いに身を投じれば、殺されるのがオチ。けれど本当に不幸なのは、覚悟もないのに殺しを成功させた者だろう。

 多大なストレスにじわじわと自滅していく運命が待っている。

 そのストレスを脳が錯覚すれば、快楽的殺人鬼への一歩だし、そうでなくとも、鬱を発症する可能性は高い。


 我が子のかわいい恭介は、咲の言動を注意深く見守っていたのだ。

 殺す覚悟が持てるかどうかを。

 出来なければ、自分か他の者にやらせれば良いと考えたし、その為の手段も確保していた。

 とは言え、咲が自分で身を守る術を得るならそれにこしたことはないと考える辺り、親としては問題があるだろうが…。


「パパ、大体集まったみたい」

「……だな。それじゃあ回収してあの岩の辺りへ行くとしよう」



 血溜まりから少し距離を置いた1人1匹と精霊1体は、大きい岩を教卓にして魔術の授業を始めることにした。


「さて、魔術には幾つかの分類があるが、俺や咲が一番覚えやすく使いやすい魔術である『精霊感応術』を教える。

 まず、握手だ」

「うん!

 ……固い」

「アホもの、誰が人の手を撫でろと言った。握手だよ!」

「ブッ!」


 恭介の左手を両手で持って弄り出す咲の頭に風の塊が、ぶつかって乙女にあるまじき声を出させる。

 どうやら、エアリアが気を効かせたらしい。


「……さて、行くぞ」

「ちょっと! パパ!」

「どう考えてもお前が悪い!

 まったく、ふざけていないでしっかり握っていなさい」

「はーい、…なに?

 今、何か温かい物が通り抜けていったような?」

「俺の魔力とお前の魔力がぶつかって熱として知覚したんだ。今度は自分の中にある魔力を自覚してみ。

 俺の魔力が残っているから、これも熱として知覚出来るはずだ」

「はーい。

 ……むむむ?

 全然感じないんだけど?」

「おや?」


『親子だから親和性が強いんじゃない?

 それより掌に血を集めるように強く念じて?』


 みかねたエアリアがアドバイスをかって出る。

 これは親子であるからと言うよりはトーラ神の系譜同士による魔力の類似性だ。

 同じ神の眷族同士、神から与えられた任務中に魔力の貸し借りは十分あり得る。そこで魔力波長が違えば違うほど魔力が反発してロスが増える。

 それを防止する為に魔力波長が似るようにチューニングされている訳だ。

 まあ、これは今は重要ではない。

 エアリアがやろうとしているのは……。


「あ、温かい物が集まってるみたい?」

「なるほど、風の精霊に魔力を奪わせて自覚させているのだな?」


『人聞き悪いわよ?

 自覚しやすいように仲間を呼んだだけだから!』


「咲には見えていないだろうが、掌の上辺りに精霊が来ていて、魔力を吸っている」

「見たい!」

「言うと思った。

 魔力は自覚できたな?

 それを目に集めてみろ。それで無属性魔術『センスビジョン』になる」

「やってみる。

 ……うわぁ!」


 魔力を自覚したら、すんなりと制御が出来たらしい咲の目には、青白い小さな妖精のような者が掌の上で遊んでいるのが見えた。


「ついでに魔術を発動してみよう。

 咲、その精霊に話し掛けてみろ」

「やってみる。精霊さん、こんにちは」


 その声に会釈する精霊にテンションMAXな咲、反面、言葉を喋らない精霊に首を傾げる恭介。


『言葉は力だもん。あのくらいの下級精霊には一言話すのだって負荷が大きいよ?』


 エアリアの言葉で納得したように頷く恭介は。


「それもそうか。咲、精霊にそよ風を吹かせて欲しいと依頼しろ」

「はーい。

 …精霊さん、お願いね」


『ブロウね?』


「ああ」


 エアリアの言葉に頷く恭介、依頼をした咲の背中から穏やかな風が通り抜ける。


「これが精霊感応術だ。魔力を精霊に提供して、その対価に望む事象を得る。

 与えた魔力が多ければ多いほど強力な力を借りられるし、精霊に気に入られるほど効率も上がる。

 反面、精霊が苦手とする方面は効率が悪い」

「と言うと?」

「広域をカバー出来る風の精霊なら探索系統は得意だが、重い物を持ち上げるのとかは苦手だから運搬とかを頼むなら、大量に魔力を消耗する。

 戦闘に関しては、斬属性が得意で打属性は苦手と言う感じだろう」

「ゲームの風属性のイメージそのままってこと?」

「ああ」


『それと精霊の少ない所じゃ発動できないから要注意!』


「そうだな。風の精霊は大丈夫だが、咲の持つもう一つの属性は水、近くに水場があるか、ある程度の湿度がないと使えんだろうな。

 或いは俺がこの間の『ディバインオーダー』でやったみたいに招霊するか」

「招霊?」

「ああ。

 特定の精霊と専属契約をしておけば、媒介を使って召喚できる。それなら何時でも何処でも使いたい放題」


精霊(こっち)も効率良く成長できて万々歳』


「欠点は常時魔力を消耗している点。

 普通の人間なら魔力の欠乏で衰弱死するな」

「駄目じゃん」

「普通の人間ならって言ったろ。

 魔力は生命力の約半分程度、常時回復しているんだ。咲なら1体くらい契約しても問題ないはずだ」


『…そうね。水の精霊ならいっそのこと体の中に住まわせてあげれば、色々と助けになるわよ?』


「そうだな。しかし今は魔術の訓練優先だ。それなりに成長した精霊と会えんと意味がない」


『難しいけどねー。

 自分で育てた方が早いと思うよ?』


「強いのをいきなり仲間にするか、弱いのを育てていくのか?

 ポ○モンみたいだけど。

 ……パパはどうしたの?」

「俺の場合はパワーレベリング。

 有り余る魔力をガンガン与えて、中級精霊までランクアップさせて、技能スキル『教導』で知識とかを提供」

「チート!」

「間違っちゃいないな。

 その内、特殊スキル『疑似竜核生成』で造ったイミテーションオーブを与えて、半竜霊の仲間を作る予定だ。

 数は力だからな。

 どんだけ優秀な人間でも寝首をかかれたらおしまいだろ?」

「…そうだよね。

 ここは危ない世界なんだよね」

「…ああ、野宿をすれば獣に襲われるかもしれず、人に騙されたら奴隷になるかもしれない。

 物語の主人公ではないんだ。まして、出会う人間はゲームのNPCじゃない。

 最初から最後まで善人とは限らない。

 絶対に裏切らない仲間を確保するのは重要だ」


 そう言う意味ではテイマー職は大当たりなジョブだ。っと恭介は考える。

 時点でエレメンタラー。

 ゲームの主人公なら剣士や魔術師でも十分だろうが、現実的ではない。


「そうだよね。私も魔物をテイムしたいなぁ」


 羨望を滲ませる声音に脅しすぎたか? と不安になる恭介。

 明らかに地球産じゃない動物を連れて帰って、雪葉さんに遠出がバレるのは不味い。

 しかもそれが、咲になついているとなれば……。

 1週間くらいご機嫌取りがいりそうだと悩む辺り、日頃の夫婦の力関係が分かる話だ。


「…そうだな。次に襲ってきた狼系の魔物なんてどうだ?」


 それなら、野良犬を拾ったとでも言って誤魔化せるし。

 そんな打算がある恭介だが、


「……うーん。駄目。

 モフモフ感が足りないもの」

「お前、回収した死体を撫でてただろうに……」

「だから駄目なの!

 毛が硬すぎなの!

 顔は好みなんだけど……」

「草原棲の野生動物の毛が硬いのなんて当たり前だろ。

 怪我防止を兼ねた毛皮だぞ?

 モフモフの動物なんて寒い所にでも行かないと無理だろ」


『そう言う風に昇格させていけば?』


 呆れ果てる恭介を余所にエアリアがアドバイスをして来る。要らんことを言うと考える恭介だが、咲が目を輝かせているので説明するしかないかと諦めた。


「それこそ、ポケ○ンの進化みたいな物だ。

 レベッカに冒険の心得習っている時に種族値と言う物があると言う話はしたな?

 種族値を大幅に満たすとその力が体をオーバーフローして、種族そのものを昇格させるそれが種族昇格。

 その時にテイムしている魔物は、テイマーの意向をある程度反映する訳だ」

「イ○ブイ?」

「まあ、似たようなもんだろ。

 ……毛がモフモフになる適応昇格があるかどうかは知らんがな!」

「大丈夫。

 信じればきっと叶うから!」

「言ってろ。

 ……休憩ついでに昼にしようか。

 このペースなら今日中に国境越えれるだろうし」

「はーい!

 って、また芋なんだよね……」

「だな。

 さて、鍋を準備しようか」


 アイテムボックスを開く恭介に渋々従う咲だが、意外に手慣れた感じで準備を始めるのだった。

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