異世界での2日目 午後
ストーカーウルフの査定中にお昼を済ませた恭介達、……相変わらずの芋メインに不機嫌な顔の咲をレベッカが心配する一幕があったが。
「レイリアさん。納品代の計算が終了しました。代金を引き取りに来てください!」
「行きましょ?」
「はーい」
ロッティの元へ促された咲の前には、銀貨7枚と銅貨6枚が置かれている。
「こちらの銀貨はキズなし分、キズのあった方は首が落とされているので銅貨4枚で引き取りです」
「銀貨?
ストーカーウルフを?」
「どうしました? レベッカさん?」
「私達が倒すと銅貨3枚位にしかならないじゃない!」
「当たり前じゃないですか。
全身に細かいキズが付き、前足や後ろ足がないのは当たり前、酷いのなんて何の毛皮か分からないこともザラですよ?
討伐費用の銅貨1枚はともかく、鎧の裏地くらいにしかならない毛皮に銅貨1枚でも、ギルド側は赤字になったりするんですからね‼」
新人贔屓のような内容に抗議したレベッカはロッティの剣幕に目を逸らす。
後ろで聞いていた連中も気まずい顔で追加の注文をしている所を見ると自覚はあるらしい。
「…貨幣の価値が分からないな」
「そ、そうよね。真竜種って言っても魔獣が知るわけないものね!
じゃ、そう言うわけだから、それを持って買い物がてら説明するわ!」
恭介の助け船に飛び乗ったレベッカは咲の手を引いて急いでギルドを出る。
「ハア、ハア。…ここら辺が商店が並ぶ辺りよ」
数分の全力疾走に肩で息をするレベッカを心配する同じスピードで走ってきた咲。
「大丈夫ですか?
レベッカさん?」
「なんでレイリアちゃんが平気な顔しているの?
マージと言っても、レベル差で見れば私の方がステータスは上のはずじゃ……」
「うんにゃ、俺の加護でステータスを底上げされているから、その分レイリアの方が上だぞ?」
『そんなのあったっけ?』
『聖女なんて誤魔化せん職業だろ?
それに比べれば、竜の加護でステータスが上がるのは良くありそうな話だ。
それで口裏合わせろ』
『はーい』
「テイマーなのにドラゴンライダーとかそう言うのに準じてるのね」
「だな。
ドラゴンライダー何て言うが、乗ってるのは殆ど亜竜種だから、加算値はレイリアの方が上だな」
「うらやましい……」
「レベッカだって、どっかで竜と契約すれば、ドラゴンライダーになれるぞ?」
「自殺行為よ!
まあ良いわ。ここに入りましょ」
「ここは?」
すぐ前の店へ招くレベッカ。看板が2枚上がっていることに気付いた恭介が問うと。
「ここはギルド提携の商店よ。
高品質の武具とかは専門の店に行く必要があるけど、駆け出しなら必要品が安くて、全部揃うこう言う店を利用すると良いわ」
「便利ですね」
「ギルド側も準備を怠った冒険者に死なれるのは損害だって言っているもの。
それに特殊な依頼はそれを受けた時に内容を移した紙が貰えるの。
それを店員に見せると必要な道具を見繕ってくれるから最初はそれを利用すると安全よ?」
「例えば、洞窟内へ入る依頼とかでか?」
「ええ。それならカンテラ、ロープ、防寒着とかを用意してくれるわ」
「助かるな。普通に暮らしていた人間が洞窟が寒いと言う発想は出来まい」
「もちろん、必要のないものまで買うことはないけど、知っていて要らないのと最初から知らないのは全然違うからね」
「いらっしゃい!
…見ない顔だねぇ。
新人さんかい?」
「そうよ。ポール、昨日登録したばかりのテイマーのレイリアちゃん」
「冒険者の店を任されているポールだ。よろしく」
「……大きいですね」
店に踏み入れてすぐに声を掛けてきた大男を見上げながら驚く咲、それに対して平然としているのは恭介だった。
「冒険者に必要な道具を見繕ってくれるんだぞ?
引退したベテラン冒険者なのは予想が出来るだろう?」
「ああ!」
「その子は真竜種か?
凄い相棒持ちだな」
「そうでしょ?
初めての依頼で銀貨7枚も稼いだ期待の新人よ。
……明日にはベニシモ山へ発つらしいけど」
「それは……。
長旅に必要な旅装を見繕うか。食材は10日分として、真竜付きなら、武器は護身用のナイフくらいで良いだろうし……。
服は丈夫な皮製鎧を用意するから、インナーはあちらにあるのを試着してくれ」
「はーい」
「あ、手伝うわ。インナーなんて使ったことないでしょ?」
そう言って店の端を指差すポールに従う咲とそれを追うレベッカ。見送った恭介は、
「大盤振る舞いだが、こちらの手持ちで足りるのか?」
「全然余裕だぞ?
銀貨1枚あれば、10日分の保存食くらいは買えるし、皮鎧ならインナー込みで銀貨2枚、鉄製のナイフがちょっと高いがそれでも銀貨3枚で良い。
昨日登録したばかりなら今日の宿代は街持ちだしな。だが、旅の途中で魔獣を見掛けたら狩ることを進める。
宿代はギルド直営に素泊まりでも銅貨4枚。ベニシモ山までに路銀が尽きるぞ」
持ち運ぶ手段はあるんだろ?
そう問いかけるポールに頷く恭介は、銀貨の価値を1枚3千円、銅貨を1枚5百円程度と認識する。
「お待たせ!」
「戻ったか」
咲は汚れて原型が分からないレベルの中学の制服から身体にぴったりフィットしたインナーへと着替えてきた。
「同じのを3つ用意しよう。元の服はどうする?
こちらで買い取るか?」
「いや、引き取る」
「そうか? それじゃあ、こいつを…。
後は、そのインナーに合う皮鎧だな。少し待っててくれ」
「はーい」
『どう? どう?
ドキッとした?』
『中学の娘にするわけないだろ?
もう少し成長して……。
雪葉さんを想像するに望み薄だな』
『伸長勝ってるもん!』
『まあ、俺に似たのならもう少し成長するか?』
『? パパはロリコンでしょ?
大きくなって良いの?』
『誰がロリコンだ!
って言っても説得力ないよな。どうせ……』
小学生料金に素で乗れる妻を思い描いた恭介はがっくり項垂れる。
あの口の悪さは子供扱いされる周囲への反発だろうと思い、同時に小さい子が必死に大人ぶっているような印象を与えていて効果は薄そうだと哀れむ。
恭介が『雪葉さん』と名前で呼び続けるのも彼女の自尊心を満たすためであり、それに疑問を持たない時点で大分毒されているのだが、本人に自覚はない。
「ほれ、コイツが胸当て、後はブーツとグローブだ。それからナイフに食料。
そんで今の季節なら、大丈夫だと思うが雨避けの外套もいるか?」
「……やっぱり」
「我慢しろ。外套も欲しい。値段は?」
「中古なら銀貨1枚で良い。今は雨はめったに降らんし、数日凌げるくらいで十分だろ?」
相変わらずの芋をみてテンションを下げる咲を叱りつつ、マントを依頼する恭介。
これは雨より人の視線を避ける目的の方が強いのだが、態々言う必要もないと受け流す。
「それでいい。……ベニシモ山までの道中にギルドのある街はあるか?」
「ああ、街道を南下してレントレント王国に入ってすぐに、トロモと言う街がある」
「そうか。それなら何とかなるか…」
どうせ、街道を行く途中で咲を鍛えるのだ。ついでに魔物を狩ればいいと軽く考える恭介。
あいにくと海外旅行の経験がない恭介は入国税を想定することが出来ていないのだが、それが発覚するのはもう少し後になりそうだった。
捕捉、貨幣の種類は5種類、交換率は貨幣ごとに違います。金貨の上に聖貨と呼ばれる特殊な魔法鉱石で出来た貨幣があり、金貨の下は銀貨、銅貨、鉄貨の順で価値が下がります。
交換率は
聖貨1枚 =(1:100)= 金貨100枚 =(1:10)= 銀貨1000枚
=(1:6)= 銅貨6000枚 =(1:6)= 鉄貨12000枚
になります。
これは使用対象の教育差を考慮した設定となります。
聖貨と金貨は、国同士のやり取りで使われるので100まで計算できる人が普通にいます。
金貨と銀貨を主に使うのは上流階級の貴族やそれと取引のある商人なので10以上の数字も大丈夫。
対して、銅貨以下は教育水準の低い者を対象にしているので、教育なしで数えられる片手の指の数を基準にこれより増えると貨幣が1つ上になると理解させてきた背景があります。