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異世界での2日目 午前


 外がうっすら白み出している時間にも関わらず、目を覚ました1人と1匹。

 昨日部屋に着いた途端に寝てしまったレイリアが早朝に目を覚まし、がさごそと身じろぎしている音にルードが起こされたのだ。


「さて、これからの行動だが、今日は冒険者の心得を習ったら、旅支度。

 明日の朝、昨日来た道を南下してレントレント王国を目指す」

「そんなに急がなくても……」

「ダメだ。

 召喚された日と同日だったとすると実家に戻っている雪葉さんが帰ってくるのは今日から1週間後。

 それまでに帰らないと俺の熱帯魚がアロワナの餌にされかねん」

「……ああ、なんでパパが焦っているか、やっと分かった」

「それは何より、ところでミルは無事だろうか?」

「え……。あ。

 ……逃げて!

 ミルちゃん、超逃げて!」

「いや、流石に娘の猫をどうこうするほど、雪葉さんも鬼じゃないと思うぞ?」 


 錯乱して騒ぎ出す咲の頭に軽く手を置いてなだめる恭介。彼にとっては口は悪いが良い奥さんなのだ。

 なのだが、この場合は咲の危惧が正しい。


 恭介が今年で40歳なのに対して、雪葉は30歳、10歳差の夫婦である。

 更に言えば、今年で14歳になる咲が雪葉の実の娘であると言えば、その理由が分かる。

 雪葉は16歳で妊娠した計算だろう?


 常識的に考えれば、恭介は未成年を襲った犯罪者なのだが、流れは逆である。

 16歳の誕生日に親が出掛けるからお祝いしてっと押し掛けた雪葉が、仕事の疲れでウトウトしていた恭介を介抱している内にお互いにそういう気になった、同意の上での行動とは言え、成人男性と未成年の少女、そのままなら犯罪だ。

 だから恭介は彼女を幸せにするから結婚させてくれと彼女の両親へお願いに行った。

 …何故、その両親に逆に土下座でお願いされたのかは未だ分かっていないが。


 両親は恭介の暗い顔を見て核心したのだ。この馬鹿娘やりやがった!! っと。

 そして、娘の手の平で踊らされていた自分達を恥じた。

 何故、オーケストラのペアチケットの予約日と娘の誕生日が重なっていたのか。……恭介宅へ違和感なく乗り込む口実だった。

 何故、高校入学に前後して、栄養士の資格を取ると勉強を始めたか。……将来の為じゃない。恭介を墜とす(物理)為だった。

 そこへ思い至った時、直ぐに結婚式の準備を整えた。2人の頭にあったのは、『恭介君が他の子と付き合ったらヤバい! ストーカーになりそう!』とか『拉致監禁犯の親で取材受けたくない』だった。


 と、まあ、実の親からヤバい娘認定を受けている雪葉が自分に良く似た娘を警戒しないわけはなく……。

 『将来はパパと結婚する』と言った小学2年生の咲へ民法の書類を見せて、『父娘で結婚しようとすると逮捕される』と解説までしたのだ。……本気過ぎる。


『そんなママが、パパと2人で泊まり掛けの遊びにでも行ってそうに見える状況で暴走しないわけがない』


 そう考える咲が正しい。

 ……ちなみに、子供と言うのは禁止されると、それだけそれに興味を持ってしまうものだ。つまり、何が言いたいかと言うと、咲は完全なファザコンである。

 中学2年生にもなってどうやったら一緒にお風呂に入れるかを画策するレベル。……ガチである。


「さて、状況の不味さは理解できたな?

 ……そもそも、飼い猫が1週間放置だと餓死しそうな気もするが」

「パパ! 今すぐ出発しよう!

 レントレント王国のお城ごとさっさと吹き飛ばそう‼」

「落ち着け、治安の良い日本にいるミルより俺達の方が命の危険は大きい。

 まず、こちらの地盤を安定させるのが先だ」

「……」

「……明日ここを発ち、レントレント王国の王都までは3日、翌日には潜入して一時帰還と言う流れに持っていけるはずだ。自動給餌器が置いてあるし、ミルは結構向かいの幸田さんに餌を貰ってもいたし大丈夫だろう」

「……分かった」

「それじゃあ、食堂に行くぞ?

 行動が早いに越したことはない」

「はーい」


 部屋を出る恭介を追った咲は、食堂に着いて疑問を口にする。


「そう言えば、ご飯って…」

「昨日の昼と同じだ。

 この辺りは芋が主食の文化圏なんだろう」

「…やっぱり」

「しょうがないだろう?

 こればかりは諦めろ」


 テーブルに運ばれてきた芋を見て、がっかりしている咲を慰める恭介は蒸かし芋を相変わらず丸飲みしていく。


「豪快な食べっぷりですね。ルード殿」

「レベッカだったか?

 今日はよろしく頼む」

「あ、よろしくお願いします」


 堂々とした態度の子竜としっかり頭を下げる少女の組み合わせにほっこりとした表情のレベッカ他大勢。

 …猫が愛されるような雰囲気を演出した甲斐があると内心嗤う恭介は性格が悪い。


「それじゃあ、レイリアちゃんが食べ終わったらカウンターで依頼を確認して出発ね」

「そうだな」


 恭介の視線に居心地悪い思いをしながら、芋を頬張る咲。

 レベッカは、そんな恭介の穏やかな表情に疑問を抱く。


「ルード殿はレッサードラゴンと言うことですよね?

 魔獣としてはかなり高位の存在、何故人間のレイリアちゃんと契約をしたんです?」

「小さい時から面倒を見てきたからな」

「……ああ。

 真竜種ですから見た目に反して年上と言うこともありますか」

「うむ。ちなみに今年で40歳だ」

「え?

 私より年上?」

「竜と人とでは年齢差はあてにならんがな。

 自然界でなら俺は先達だが、人の社会で見れば初心者だ」

「……そうですね。

 討伐系の依頼を受けようと思います」

「任せる。……行くか?」

「うん」


 抱えた恭介の問い掛けに元気良く返事を返して、ギルドカウンターへ向かう咲。

 向かう先は、満面の笑顔なロッティ。…だと思ったと呟く恭介を後目にロッティへ視線を向けるレベッカは、


「軽い討伐系お願い」

「レッサードラゴン相手じゃ、ワイバーンだって軽い相手じゃないですか?

 遭遇率考えると時間かかりますけど」

「本当に軽い依頼よ、初心者が受ける奴をちょうだい」

「でしたら、これとこれがおすすめです」


 ウルフ狩りとゴブリン退治の2枚を差し出すロッティ。


「ウルフ狩りかしらね。こっちの方が勉強になるし」

「どう違う?」

「狩りはその素材を欲しがる人がいる依頼、退治は害獣駆除の依頼よ。

 ウルフだと毛皮がきれいなほどお金になるし、わりも良いんだけど…」

「毛皮がボロボロではタダ働きになる可能性もあるな?」

「ええ。退治の方が簡単だけど…」

「狩りで良い。俺は風の魔術が使えるから、そう言うのは得意だ」

「だそうよ」

「分かりました。お気を付けて」


 ロッティの言葉に手を挙げて返事を返し、ギルドを出てすぐの街門を抜け、昨日ぶりの街道へ出る2人と1匹。


「ウルフ種と言っても色々いるわよね?」

「そうだな」

「狩猟系の依頼は該当種を必要量狩れば良いわけだけど、儲けようと思えば、上位個体を狙うのがセオリーなの。

 この辺の草原にいるストーカーウルフやレッサーウルフよりは、森や山まで行って、フォレストウルフを狩った方が良い。

 もちろん、余裕があればよ?

 フォレストウルフの集団に囲まれたら私だって簡単に殺されるでしょうね」


 そんなわけでストーカーウルフを中心に狩りましょう。

 と言うレベッカに恭介と咲も異論はない。彼らは出来るだけ早く街を発ちたいと言う思惑があるからだ。


「そうだな。レイリア、あちらに向かうぞ?」

「はーい」

「え?」


 右手側を指す恭介とそれに疑問もなく歩き出す咲。戸惑った分出遅れたレベッカがそれに少し遅れる形になり、…気付いた。

 咲があまりにも無警戒に歩いているのだ。1人で辺境の村から辿り着いたなら、怖い思いも数回はしているはずなのに、草原を歩く姿に恐怖心は感じない。

 違和感に更に距離が開くレベッカを無視して、恭介の静止に立ち止まるレイリア。

 その周囲は不自然に揺れる草で囲まれている!


「危ない!」

「7匹か?

 手頃な群れだな」


 大きく警告をするレベッカを無視して、目を光らせた恭介に焦りはない。

 ドサッと言う音が周囲から立て続けに響く。


「レイリア、回収して帰るぞ?」

「私の出番は‼」

「そのうちな」

「ケチ!」

「ケチってお前なぁ。

 武器もない、魔術も使えないなお前に何ができる?

 ベニシモ山へ向かう途中で教えてやるからそれまで我慢しなさい」

「……ルード殿?

 今、何を?」

「闇魔術『ディバインオーダー』で死を命じただけだ。

 闇魔術で悪魔の力を利用した魔術なのに神命とは皮肉が効いている」

「闇魔術…。これが……」

「凄いだろ?

 種族値50以上しか習得できない系統だぞ?」

「種族値?」

「まあ、一般的な人族が知るはずもないか。

 それぞれの種族にはその存在力を示す基本値が設定されている。それが種族値。

 魔物だと種族昇格とかがあるから重要なんだが、人だと精々使える魔術系統に制限ができる程度だしな。

 あ、一番重要な要素があった。

 お前らも生き物を殺すとレベルが上がるだろ?

 あれは相手の存在力を吸収して、自分の存在力を上げる行動だ」

「え?」

「レベルアップの仕組みは他者の存在力を奪う。それが自分の存在力を満タンに満たす、存在性を示すレベルが1つ上がると言う現象だ」

「待ってください‼

 それだと同じ人同士なら、同じ存在力でレベルアップするってことですよね?

 けど……」

「それはあり得ない。人の能力には個体差がある。

 例えば、人間族の存在力は15。これに才能値2から5、……これはレベルアップ時に上昇する能力値のトータルだな。

 加えて、技能スキルの保持数と質が更に影響する」

「例えば、才能の乏しい人間スキルなしならレベルを1つ上げるのに必要な存在力は17、これは平均存在力6のゴブリン最下等種を3体殺せば、レベルが上がる程度だが、ここに技能スキル『剣士見習い』が加わると追加5の存在力を必要とし、ゴブリンを1体余分に倒す必要が出る」

「真竜種の知識量は凄いですね。

 レベルアップの仕組みは未だ誰も解明していない神の叡智だと言われていたのに……」


 注、女神から直接聞いた知識です。


「ちなみに『剣士見習い』のスキルがあれば、レベルアップ時にランダムで筋力か素早さ、まれに生命力のステータスに1ポイントのボーナス値が付く。

 出来るだけ低レベルで技能スキルを身に付け、それからレベルアップするのが強くなるためのコツだ」


 ……気を良くして無駄に自慢げに世界の真理をばらす駄目竜である。

 この話はアッサムのギルドで秘匿され、アッサムが10年後に英雄の生まれる聖地扱いされることになるとはこの時点で誰も気付いていない。


「さて、話はこれくらいにして、コイツらを回収して戻るぞ」


 ……どうやら、多少の事では『真竜種』だから。で済む雰囲気を察したらしい。恭介は『アイテムボックス』を使用する。


「これは空間魔術『トランク』ですか!

 凄いです!」

「そうだろ! そうだろ!」


 恭介は無駄に威張りながら、『時空魔術』じゃなくて『空間魔術』ってことにしておこうと考える。

 ストーカーウルフ7体のキズ1つない死体を回収した2人1匹はさっさと街門へ戻る。

 街の外にいる危険性を考慮するレベッカと出来るだけ早くレントレントへ向かいたい恭介達では草原にいる意味はかなり違うのだが……。

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