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街到着


 始めて来る土地で宛もなく、街を探すと言う無謀な行動にも関わらず、特に問題もなく街らしき石壁を見つけた1人と1匹。

 問題はどうやってその中に入るかだ。

 当たり前だが、魔物のいる世界だから門番がいる。

 通行許可証もなければ、通行料を払う金もない。

 そんな2人は近くの岩場に腰を落ち着ける。流石に街門前で相談して不審者扱いされるのは避けたようだ。


「どうしよう?」

「そうだな、ひとまず、本人達に訊いてみよう」

「はい?」

「行くぞ」


 そう言って浮かぶ恭介を追い掛けるように進む咲は、直ぐに恭介を抱え込む。


「1人で勝手に行ったら駄目」

「…その子は君の友達かい?」


 少し離れたところに立つ兵士姿の男が問い掛けてくる。小さな羽で飛んでくる黒い蜥蜴を不信に思って街門から出てきたらしい。

 優しげな問い掛けだが、恭介を抱えて身を引く咲に、


「あぁ、待って!

 大丈夫、危害を加える気はないよ?

 見たところドレイクの幼体かな?

 街には君みたいに魔物と友達な人も結構いるんだよ? その子が君の言うことをしっかり聞いてお行儀良くしていれば問題ないから、ね?」

「……」

「……参ったなぁ」


 咲の態度が全然軟化しない状況に困ったように頭をかく兵士。


『咲、この兵士はお前を何処か辺境の村から追い出された子供と思っているぞ?』

『そうなの?』

『ああ、ここは俺が引き受けよう』


「まずはお互いの自己紹介から始めてはどうかな?」

「今の声は、……君かい?」

「ああ、レッサードラゴンのルードだ。偽竜程度と見間違えられるのは不本意だ」

「これは失礼した。アッサラ南門衛士のミルトだ」

「…レイリア」

「レイリアちゃんか、ここはアッサラと言う街だよ。

 さっきも言ったけど、レイリアちゃんみたいな魔物と友達になれる人間は『テイマー』と呼ばれるジョブを持っている人達なんだ。

 30人に1人くらいの才能だって言うし、波長の合う魔物と出会えることも決して多くはないから、村とかだと怖がられることもあるんだよね?」

「それで村を追い出されて、街へ行くっと」

「そう。マージとかなら、巡回をしている兵士に預けるんだけど、流石にテイマーを巡士が来るまで半年とか置いておくのは嫌がったりね」

「だが、魔物を連れているテイマーが簡単に死ぬこともなく、こう言う街まで辿り着ける?」

「そう。テイマーと契約できる魔物は人語を理解できる中位以上の魔獣が殆どだ。

 ルード殿は嫌がるかもしれないけど、ドレイクだってこの辺の魔物では太刀打ち出来ないくらいに強い魔物だよ!

 …と、ひとまず街の中へ入ってくれるかい?

 空いている者に冒険者ギルドへ案内させるから」


 そう言って先に門をくぐってすぐの建物に入って行くミルト。それを見送った恭介は、


「結果オーライだな」

「ここまで予想してたの? パパ?」

「これだけ上手く行くとは思っていなかったがね。

 テイマー職のレアリティと魔物の脅威を考えれば、友好的にしておきたいと思うだろうからな」

「レッサードラゴンって言ったのは?」

「偽竜種の幼体なら誘拐を企むテイマーがいる可能性もゼロじゃないが、真竜種相手にそんなバカはいないだろうし、それに加え鑑定持ちへの対策だ。

 真竜の種族スキル『竜の魂』には、鑑定を妨害するアビリティスキル『神秘』があるのだが、それを後から知るより先に自己申告しておいた方が安心感を与えるだろう?」

「え?」

「向こうが鑑定して偽竜種じゃないと問い詰められた時にレッサードラゴンだと申告しても疑われかねん」

「実はもっと強いと疑われたくないってこと?」

「まあ、レッサードラゴンでもステータス平均値150くらいあるから、脅威って言えば脅威だがな。…来たな?」


 扉を開けて出てきたミルトの後ろに付いてきたのは、軽装の革鎧を纏った女性。その女性は咲達を見るなり、小声で鑑定と呟く。


『やっぱり鑑定持ちがいたな。中位スキル『擬装』を用意しておいて正解だった』

『…パパならやると思ってた』

『俺は鑑定出来ないから良いが、咲まで隠すわけにはいかんからな。

 まあ鑑定で分かるのは名前と性別、種族、レベル、ファーストジョブそれとスキルくらいだから、擬装したのは種族とスキルだけだが』

『ファーストジョブ?』

『名前通り、一番最初に表示されているジョブだ。ちなみに『詳細鑑定』がある俺は能力値やセカンドジョブも分かるぞ?』


「お待たせ、レイリアちゃん。彼女は非常勤衛士のレベッカ、週に3日ほど協力してもらっているが、本業は冒険者だ。

 レベッカ、レイリアちゃんとレッサードラゴンのルード殿だ」

「始めましてレイリアちゃん。私は冒険者のレベッカ、マージで村を追い出されたあなたと同じような体験をした人間なの。

 …大変だったわね。ひとまず、数日は私が面倒をみることになったから、その間に自立する術を学んでね?

 …まあ、レッサードラゴンみたいな大物が付いていれば安全は大丈夫だと思うけど」

「レイリアです。ありがたいんですが、ご迷惑じゃないですか?」

「ルードだ。この子は世間知らずだから迷惑を掛けると思うがよろしく頼む」

「パッ、ルード!」

「レイリア、俺のような脅威を抱える以上は人の厚意を受け取るのも義務だ。

 お前が人の常識を外れて反社会的な立場に立つのは、秩序を守る側として許容出来ないものだぞ?」

「難しいことを言うのはさすが真竜種と思うけど、ルード殿の言う通り、例えば君が闇ギルドの構成員とかになると困るだろう?

 そうならないように真っ当な道へ進めてあげるのも僕達の仕事さ」

「と言うわけで遠慮なく頼るぞ?」

「えぇと、ありがとうございます?」

「それじゃあ、レベッカ頼んだよ」

「ええ、レイリアちゃん付いてきて、まず冒険者ギルドで登録して、宿屋へ案内するわ。

 明日は冒険の準備と簡単な依頼をこなすところまで一緒に行動しましょう?」

「はい! よろしくお願いします‼」


 手招きして歩き出すレベッカを追い掛けて街へ入る咲。恭介は相変わらずその腕の中に収まっている。


「…不思議よね?

 気位の高い真竜種の中でも特にプライドの高い黒竜が人間の腕に収まっているなんて…」

「そうなんですか?」

「ええ、偽竜種や亜竜種を連れている人は時々見掛けるんだけどね。少なくとも真竜種と契約したテイマーは始めて見たわ。

 私はあまり他の街へ行くこともないからそのせいかもしれないけどね。

 ……ここよ」

「近いですね」


 歩いて5分と経たずに立ち止まったレベッカの視線を追い掛けた1人1匹は目の前の大きな建物を見上げる形になる。


「ここがアッサラ南門冒険者ギルドよ。剣と杖が交差した看板が目印ね」

「南門っと言うと?」

「大きい街なら大抵、門の数だけ冒険者ギルドがあるの。ギルドには併設で食堂もあって、それなりに冒険者が滞在しているものよ?」

「なるほど、緊急時の予備戦力扱いだな?」

「そう思ってもらって良いわ。その代わりギルドの食堂はかなり割安だと思って。

 さあ入って?」


 レベッカに従って中に入ると、様々なハーブが混ざった食欲を誘う匂いが鼻をくすぐる。

 ぐぅと音を出すのは咲のお腹。そう言えば、朝? から何も食べていないな、自分の空腹を自覚する恭介。

 やることがいっぱいあって、空腹を忘れていたらしい。 


「ギルドカードを作っている時間に遅めのお昼にしましょう?」

「……お金が」

「その為のお金を警備隊長から預かっているの。安心して?」

「レイリア、その内恩返しでもすれば良い」

「そうね。さあカードを作りにいきましょう」


 食堂の中央を抜けて、一番奥に4つ並ぶカウンターの前に案内をされる。


「レベッカさん? 彼女は?」

「テイマーの子よ。先ほど街門に来たところ、名前はレイリアちゃん」

「ようこそ、冒険者ギルドへ!

 私達はあなた達を歓迎します」

「それとこっちは彼女の契約魔獣のルード殿」

「殿?」

「レッサードラゴンですって。少なくとも私の鑑定が鑑定不可になったから、上位魔獣以上のランクは確定よ?」

「すごいですね‼

 ルードさん、握手してください‼」

「…はい?」


 満面の笑顔で両手を出す受付嬢にいぶかしむ視線を送る恭介。その様子にため息を付くレベッカが呆れ気味に頷く。


「彼女はロッティ。魔獣マニアで魔獣に触りたくて、解体士資格を取った子よ。

 流石に真竜種を触る機会はなかったから記念に握手してほしいんじゃない?」


 その言葉にすごい勢いで首肯するロッティ。食堂の面々が気にもしてない辺り日常的光景なのだろうか?

 美人なだけに残念な光景だ。

 その後ろに現れた女性が、彼女へ拳を降り下ろす。


「~~~」

「ロッティ、彼女の登録を先にしなさい」

「相変わらずね。キィティー」


 悶絶するロッティに厳しく指示を出す女性にレベッカが苦笑する。


「気持ちは分かりますけど、仕事はきっちりやってもらわないと…」

「レイリアちゃん、彼女は受付嬢のまとめ役のキィティー。困ったら彼女に相談して」

「分かりました。それで…」

「はいはーい。この石を手でぎゅっと握って」


 直ぐに復活したロッティが緑の色合いの石を取り出す。

 恭介の解析では、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔力解析結晶


魔力を元に個人情報を解析出来る結晶。

トレントの樹液を加工して作る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 と出る。魔力その物を擬装している現状なら問題ないと判断した恭介は、頭を撫でまわす違和感へ視線を向けた。

 石を握りしめている間は他の者が接触してはいけないと言って、自分を抱え込んだロッティにそれに続いたキィティーとレベッカのものだ。


「どれくらい掛かる?」

「ゆっくり20数えるくらいの時間です。石が青色になったら完了でそれを転写版に写してカードに加工するまでに少し時間がかかります」

「……変わったな?」

「ええ、これで大丈夫です。そのトレイの上に置いて下さい」

「はーい」

「それではお預かりします。ロッティ」

「直ぐにやりますので、待ってて下さい」

「それじゃあ、ごはんにしましょう?」


 カウンターを離れるロッティを見送ったレベッカに付いて近くのテーブルを取り、椅子に着く2人と対面するようにテーブルの隅に乗る恭介。


「さて、レイリアちゃんはこれからどうするの?」

「これから?」

「明日までは面倒をみるでしょ?

 その後、成人するまでこの街で暮らす?

 それとも……」

「旅に出る。色々と回りたいが、まずはベニシモ山を目指すかな?」

「ルード殿?」

「面白そうな話が聞こえてきた。

 レントレント王国がベニシモ山を解放して、鉱山を得ようとしているらしい? ぞ。

 ベニシモ山はオーガの集落がたくさんあるから無茶だろうと言う意見も聞こえる」

「…………本当ね。

 けど、嘘の可能性も高いわよ?

 この街もそうだけど、国境沿いの街に兵士がたくさん集められているわ。

 ベニシモ山に向かう街道を北に進めばこの国だから、本当の目的はバザード王国への侵攻じゃないかって噂」


 周囲を気にして小声で話すレベッカは恭介を見ていて、咲が一瞬顔をしかめたのに気付かない。

 恭介の方はつまらなさそうに聞き流すだけに止める。


「どちらにしろ、ベニシモ山を目指すのは一緒だな」

「…そう。あの国の貴族は偏見が強いから気をつけてよ」

「分かった」

「お待ちどうさま。かけだし冒険者定食です!」


 早々と運ばれてきたのは、蒸かし芋とソーセージ、お茶代わりかスープか戸惑うような透明の汁物のセット。


「え?」

「うむ。不味くはない」


 微妙な内容に困惑する咲とそれとは対象的に芋を一呑みにする恭介。


『パパ、思いっきり蒸かし芋なんだけど…』

『我慢しなさい。

 地球でも、歴史的に見た場合、米やパンを主食にしている文化は少ない。

 ましてや庶民の立場なら、芋が主食なのは普通だろう?』

『そうなの?』

『米や麦より育てるのが簡単だしな。

 熱帯地域ではバナナが主食の文化圏も少なくない』

『バナナ? 果物の?』

『植物学的には野菜だが、世界的に普及している種はデンプンを多く含む穀物扱いだ。

 …形が違うだけで、米や麦と変わらんな』

『そう言いながら、ソーセージ食べてないでよ』

『さっさと食べなさい。不信に思われても困るだろう?』


 渋々、芋にフォークを差す咲を放置して、一通り食べ終わった恭介は目を閉じて丸くなる。

 食後の仮眠、ではなく目の情報を閉ざして先ほど以上に周囲の音を拾う為だ。

 そんな恭介の耳に入ってきたのは、レントレント王国の王都に沢山のマージが呼ばれていると言う情報。

 それを聞いて勇者召喚を実行したのはレントレント王国で確定だろうと喜ぶ。

 他にも面白い情報がないかと聞き入っていた恭介が持ち上げられ、再び咲の腕の中へ納められた。


「…それじゃあ、宿屋へ行きましょ」


 恭介が顔を起こすと2人してギルドを出るタイミングだった。

 …入ってきたのとは別の扉から。


「ギルドにくっついているのだな?」

「ええ、その方が安全でしょ?

 反対側の扉からは酒場に行けるけど、行っちゃ駄目よ?」

「俺はさほど酒好きではない、レイリアを放って置いて行くわけないだろうが」

「ならいいけど、……女将さん、お客を連れてきたわよ。テイマー職のレイリアちゃんとルード殿」

「テイマー職の子?

 1部屋で足りるかしら?」


 正面にあるカウンターの中年女性に1人1匹を紹介するレベッカ、テイマーの中には複数の魔物と契約する者がいると言うことだろう。


「大丈夫、この子だけよ」

「そうなの?

 それじゃあ、レイリアちゃんはこの名簿にサインしてね?」

「はい。

 ……はい?」


『咲、怪しまれる前に名前を書け』

『でも』

『後で話す』


「これで良いですか?」

「レイリアちゃんね。よろしく、どれくらい泊まっていく?」

「ひとまず、2泊で良いのよね?」

「そうだな。明後日には街を出る予定だ」

「そう。それじゃあ2泊で取るわね。一番奥の部屋を使って、これが鍵」

「……後、必要なことは女将さんに訊いてね?

 私はこれから仕事に戻るから、……明日の朝はここまで迎えに来るわね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ!」


 去っていくレベッカを見送った咲を尻尾で促すと鍵を持って部屋へ向かう恭介。

 こいつはどうにもマイペースなところがあるようだ。

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