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鋼の悪魔  作者: エンペラさん
1/1

願いと契約

初めまして、エンペラさんと申します。今回初めてなろうに投稿する形となりました。拙い文章ではありますが、楽しんで頂けると幸いです。

静かだった。ただただ静かな場所だった。見渡す限りの瓦礫。幸せそうな家庭の会話が聞こえていた住宅街も、人々が賑わい、各々の買い物をしていたデパートも、絶え間なく楽しそうな笑い声が聞こえてきたテーマパークも…すべて瓦礫と化し、面影は残っていなかった。

この街だけではない。今や、地球上の8割がここと同じような状況にある。そして、この街を、世界を変えてしまったのは、ソラから降りてきた侵略者達だった。


「…暑い」

真夏の猛暑にやられ、体力を極限まで削られた僕が声を絞り出して言ったのはこの一言だけだった。なんだってこんな暑い日に外の日光を吸収しまくった地面の下で生活してるんだ。

なんてことを考えたところでこの猛暑がどうにかなるわけでもないので、仕方なく部屋を見渡して昨日どこに置いたか忘れてしまったうちわを探す。

...うん、いつも通り何も変わりない部屋だ。2年前地下街のビジネスホテルの1室だった部屋。テレビが置いてあった場所には代わりに電気街から拝借したパソコン、昔持っていた本と外に出た時に拝借してきた本を入れている大きめの本棚。電気と水は一応通ってるが、どうもエアコンだけはぶっ壊れてて付かない。

「…電気街にまだ使えるやつあるかなあ...」

なんてつぶやいているとモニターとパソコン本体の間に突き刺さっているうちわを見つける。我ながらなんでこんな置き方をしているのだと少し自分の頭を心配する。

「...うーん、そろそろ外に拠点探すかあ?でもいざ神災が起こるとやばいしなあ...いや、さすがにもう半年も起きてないから大丈夫か?」

なんて気持ち悪く独り言を繰り返す。

口では言ってみるものの、恐らく今のこの世界で外で暮らそうなんて思うやつはまだ襲撃に遭っていないノルウェー、アイスランドくらいだろう。

「...寝るか」

この暑さを凌ぐにはもう寝るしかないと思い、大分度のズレた眼鏡を外してベッドに横になる。寝苦しいのは間違いないだろうが、一度寝てしまえばこっちのものだ。最初のうちはその寝苦しさに顔をしかめたが、20分もすれば次第に意識は暗く深い眠りへと潜っていった。


どこにでもある普通のデパート。いつも通り賑やかで、楽しげな声が飛び交っている。

そんな人々の中に埋もれている少年が1人。14、5歳ぐらいだろうか。男とは思えないくらい色白で、華奢な体型。決して健康的とは言えないであろう風貌。ある程度整えられている髪には所々白髪が見える。薄手のパーカーを羽織り、焦点があっているのかわからない双眸にメガネを掛け、首にはやけに年季が入ったヘッドホンを掛けている。そんな彼はいつも通りのお気に入りのベンチでいつも通り人々が行き交うのを見ながら人を待つ。

「あ、いたいた。みかっち〜」

みかっち…もとい月原ミカドは声がした方に目を向ける。

1人の少女が歩いてくる。ミカドと同年代ぐらい。ボーイッシュな見た目で、髪は短く、しかし丁寧に整えられている。ショートパンツとシャツから露出する肌は白く、しかしミカドとは違い不健康な印象は一切受けられなかった。

ミカドはその少女を見ると、気怠げにベンチから腰を持ち上げた。

「…早いね。予定だとあと30分ぐらいは時間あるのに」

「みかっちはもっと早いけどね」

「………」

ミカドは歯切れが悪そうに目を反らす。

「……今日はハルカはなんか買うの?」

「いんや、みかっちの買い物に付き合うだけだよ?」

「……物好きもいたもんだね」

ミカドの呆れたような顔を見て、ハルカと呼ばれた少女は愉快そうに笑う。

「それじゃ、行こっか」

「…ああ」

そっけない返事を返し、ミカドは自分の用事を済ますためにハルカとともに賑わう人ごみの中に紛れていった…


付けっぱなしにしていたパソコンから耳を引きちぎられそうなほどにやかましい音が鳴り出し、僕は夢の世界から再び現実世界へと引き戻された。

「なんだようるさいなあ、人が夢見てる時に無理矢理起こすバカがいるか!?」そう言いながら画面を確認すると、画面には真っ赤になったバックに大きい黒文字で「神災警報」と表示されていた。


「出現した個体は識別できるか!?」

「すいません!中継ドローンがまだ...」

四条トオルは焦っていた。まさか司令官代理を任されて数日で神災が発生すると思っていなかったからだ。

神災対策本部の管制室はけたましいサイレンと忙しなく状況把握に勤しむ職員の声に溢れている。

「衛星から写真が送信されました!モニター映します!」

女性オペレータがそう発言し、モニターに目標の姿が確認された。

そのモニターを見た途端、管制室にいた人間全てが固唾を飲んだ。

それは人の形をした「なにか」だった。体長は周囲に写っている衛星と比べると25mほどだろうか。流線的なフォルム、背中には翼。頭部は中世ヨーロッパで使用されていた甲冑のメットに酷似している。その隙間からは不気味な青い1つの光が漏れており、右手には巨大な斧を握っていた。

「これは...3年前の!?」

私はこの兵器に見覚えがあった。

「発光パターン青!個体、ミカエルと判断!」

オペレータが発したその名を聞き、自分の記憶が間違っていないことを確信する。

こいつは3年前、東京を襲撃した、地球上初の神災だ。

「ヒューマギア部隊を出撃させろ!ここで奴を迎撃する!」

この個体を倒せば生存者たちに希望を与えられる。なんとしても、ここで迎撃しなければならない。この国、いや、地球の未来のために。


「うっわ...冗談だろ」

半年ぶりの神災に驚きを隠せなかった。パソコンのモニターには1年程前に仕掛けておいた遠隔カメラのリアルタイム映像が映されている。その映像には、神災の様子がはっきりと映されていた。前回の奴は確か何も持っていなかったのに今回は明らかに戦闘用の獲物を持っている。それにこいつの顔は覚えている。正確には忘れたくても忘れられない。

「やっと面見せやがったな...ハルカの仇...!」

思わず感情的になってしまう。

落ち着け、まずは冷静にあいつを分析しろ。そう自分に言い聞かせ、1つのファイルを開く。

半年前の神災で降りてきた個体の画像や今までの神災でのそれぞれの個体のメモ、ネットに転がってた各国の状況など、自分なりに神災の原因を探るためにかき集めた資料だ。

「まずは、半年前の仮説が正しいかどうかだな」

そう言ってもう一度リアルタイム映像を確認する。ヤツはまだ降りた場所から動かない。そこは元々デパートの入り口前の道だった場所だ。半年前も2年前も、3年前の神災でも同じ場所に降りていた。ネットで拾った各国の神災でも違うタイミングの神災が同じ場所で撮影されたらしい画像が多かった。

「うん、間違いない。ヤツらは降りる場所を固定している」

仮説がより確信的になった。でも理由がわからない。ヤツらの目的と関連があると考えるのが妥当なんだろうけど、その目的がわからないんじゃどうしようもない。取り敢えずこれに関してはここまでにしておこう。

考察を新たにメモし、映像に目を移す。

そこには新たに人型のロボットが5機ヤツの周りを取り囲んでいた。

「ヒューマギア!?」

ヒューマギアが出ているということは軍が動いている、ということだ。今までそんなそぶりを見せなかったのになぜ今になって動いたのだろうか。

イヤ、そんなことよりも重要なのは、軍が動いているということだ。軍が動いているということはつまり、政府がまだ機能しているということだ。

「...賭けてみるか」

映像を流し続けるモニターを付けっ放しに僕は昔拾ってきた無線機を引っ張り出しに向かった。


「司令官、よろしいでしょうか」

1人のオペレータが声をかける。正直かまっている暇は無いと言いたいが、万一の事態だったならまずい。

「どうした」

「通信があるのですが...」

なんだそんなことか。どうせまた五月蝿いお上様共からだろう。

「後にしろ。今は奴を叩くのが先だ」

「いえ、それが...発信源は市街地の方からです」

「なんだと!?」

管制室にさっきとは違うどよめきが起こった。市街地から通信があった。それはつまり生存者がいるということを指す。

「まだ奴は動き出してないな?」

「はい、まだ静止したままです」

「2番機に生存者の救出に向かわせろ!他の機体には2番機が救出を終えるまで交戦を避けるように伝えておけ!」


「...よし。データも移し終えたし、後は迎えを待つだけか」

昔拾った無線機がまだ使えたおかげであのヒューマギアの司令部と連絡が取れた。これで少なくともここよりは安全な場所で生活できるだろう。食料もここよりはまし...であると願いたい。

そんなことを考えながらふと本棚を見ると、ある1冊の本に目が止まった。図鑑のように大きな本で、羊皮紙で出来た背表紙にわけのわからない言語が書かれており、他の本とは違う妙な存在感を放つ。

「ああ、これも持っていかなきゃか」

昔、考古学者だった親父から貰った本だ。これを渡した後に行方不明になってしまったから、勝手に原因がこれにあると思っていた。まあ神災が何度も起こった今じゃもう親父は死んでしまっているだろうから、実質親父の形見だ。

本をバッグに詰め込んだところで、隣の部屋から爆音が鳴り響いた。それに続いて、その部屋とを隔てる壁が崩れ、1人の男性が姿を現した。30代後半ぐらいで、パイロットスーツを着用している。壊れた壁の奥にヒューマギアが見えているあたり、どうやら彼が迎えで間違いないようだ。

「君が通信を送った生存者で間違い無いかい?」

男性が聞く。緊張状態を続けていたのか、その表情は強張っている。

「ええ、僕が送りました」

返答を聞くと、彼の表情が少し綻んだ。

「良かった...僕たち以外の生存者を見るのは3ヶ月ぶりなんだ」

「しぶとく生き残ってしまっただけなんですけどね」

彼の言葉に返答する。正直僕は運が良かっただけなんです、と言葉を続ける。

「いや、それでもだよ...生きていてくれて、ありがとう」

本当に嬉しかったのか、彼の表情は一層柔らかいものに変わった。

「さあ、早く乗ろうか。神災が起こっている今グズグズはしてられないからね」

そう言って彼は手を差し出した。僕は差し出された手を取ろうと身を乗り出した。

ーー瞬間、彼の背後にあったヒューマギアは巨大な斧に潰された。


「...2番機、信号ロスト...生存、確認出来ません」

オペレータのその発言を聞き、私は落胆した。奴が突然動き出したことは想定外だったが、そのことを想定しなかった事を後悔する。そのせいでパイロットの命が、生存者の命が消えたのだ。私が奪ったと言っても間違いない。

「...全機に伝えろ。交戦を許可すると」

私は再び、奴を叩く事を決意した。それが彼らへのせめてもの償いだと考えた。


気が付けば暗い小さな空間にいた。目の前にはさっきまで持っていたバッグが放り出されている。どうやら自分は瓦礫の下敷きになっているらしい。首から下は痛みでろくに動かせない。倒れこんでいる床にはドロッとした液体が流れている。それが自分の血だということに気付くまでそう時間はかからなかった。

ああ、散々生きてきたけどやっと僕は死ぬのか。考えてみれば、正直何故生き続けようと思ったのかわからない。いや、実際理由はなかったのだろう。死ぬ勇気がなかっただけだ。ヤツらの情報を集めていたのはハルカの仇を取るためだと自分に言い聞かせていた。実際は生きる理由が欲しかっただけだ。死ぬ直前に気付くなんて馬鹿な話だが、僕は生きる事を内心諦めていた。

もう一度顔を上げて前を見る。気付かなかったが、首にかけていたヘッドホンも転がっていた。

ああ、せっかくハルカから貰ったのに...あ、でも死ぬんなら関係は無いか。

ふとヘッドホンの奥を見ると、何かがあるのに気付いた。

それはロボットの頭部だった。最初はヒューマギアのものだと思ったが明らかに形状が違う。土埃で汚れた風貌からしておそらくヒューマギアが破壊された時の衝撃で地下に埋まっていたものが掘り起こされたのだろう。若干細長いその頭部には悪魔を連想させるような太く大きな角が造形されていた。

ヘッドホンとバッグはその顔の傍に転がっていた。そして更に気が付く。最初は瓦礫の隙間から漏れていたものだと思っていた光は、自分のバッグから出ている。

次の瞬間、バッグが爆散し、中から何かが出てきた。

人型の何か。あえて何かと表現したのは、ソレに黒いコウモリのような翼と細長い尻尾、そして頭部に目の前のロボによく似た角が生えていたからだ。

その何かはゆっくりと周りを見渡し、僕に気が付くと、ゆっくりと近付いてきた。

僕の顔のすぐそばで足を止めたそれはしゃがみ込み、見たことも無いような悪人面をこちらに向け声を発した。

「...願い事を言え」

「...は?」

声が出なかった。いや、これだけ血を流していれば声も出しにくいだろうがそういう意味ではなく、だ。

さっきの悪人面がまた言葉を発する。

「願い事を言え。よっぽどの願いじゃない限りはどんな願いでも1つだけ叶えてやる」

「...君は一体なんなの?神様か何か?」

その返答にソレは頭を抱えながら必死に笑いを堪えていた。

「ククッ、逆だよ逆。俺は悪魔だよ、悪魔」

ますます訳がわからない。いや、風貌からして想像できるのかもしれないが、本当に存在しているなんてことは信じられない。

「ほら、早く言えよ願い事。別におとぎ話と違って魂を取るなんてことはしねえからよ」

自分は悪魔だと言ったソレは僕の願いを催促する。しかし

「...願い事は別に無いよ」

その言葉を聞いた途端、それの表情が強張った。

「願いがねえわけねえだろ、人間だろお前」

「もうすぐ失血で死ぬ人間が願いを持つなんて思う?」

「生きたいとも思わないのか?」

「思わないね」

ソレが更に顔をしかめる。

「...僕は生きる意味がなかったんだよ。死ぬのが怖かったからただなんとなく逃げ続けただけ。あのパイロットにありがとうと言われた時も、正直違和感があった...当然だよ、生きようと思ってなかったのに不幸にも生き続けてしまっただけなんだから」

言葉を紡ぐ度、ソレの表情は複雑な表情に変わっていった。怒り、失望、憐れみ。それらが混ざり合ったような、そんな表情。ソレは願い事の催促を止め、僕の前に座り込んだ。

「…ハルカってお前が昔好きだった人間か?」

その名がソレの口から出てきた時、なんとも言えない感情が込み上げてきた。

「…なんで知ってる?」

「これでも一応専門分野は色恋沙汰なんでな」

心の中で小さな期待が芽生えた。

「…死人を生き返らせることはできるか?」

死を受け入れようとした僕の最後の後悔。

「ああ、できるな」

その返答を聞き、期待の蕾は花となった。

「じゃあ…!」

「ただし、そのハルカって子は生き返らせることはできねえな」

紡がれたその言葉は、咲いた希望の花を無残に踏み潰した。

「…なんで…!」

心の底から怒りが湧き上がる。死者を生き返らせることができる、と答えたのに今度はできないと答える。まるで意味がわからない。

「…お前、ハルカって子の最期を見届けたか?」

「最期を見届けなきゃ生き返らせることはできないっていうのか?」

「違う違う」

ますます怒りが湧き上がる。

「じゃあなんでできないっていうんだよ!」

声を荒げる。寿命を縮めているのは間違いないが、こいつに怒りをぶつけられるなら後悔はない。

ソレは黙ったままその悪人面をこちらに向ける。

「生きてるぜ、その子」

「…へ?」

一瞬頭が真っ白になった。ソレの言葉を理解するのに時間がかかった。

「生きてる人間をどうやって生き返らせるんだよ」

その言葉に期待が膨らんだ。

「…やめろ」

その言葉を信じてしまいそうになる。

「やめろ」

本当なら僕は...

「やめろ!」

自分の中のわずかな希望を抑えつけようと声を上げる。

ソレは僕の顔を見て、もう一度その言葉を繰り返した。

「願い事を言え」

気が付けば、僕は心の底から願っていた。

「...生きたい...ハルカにもう一度会うために...!」

目から熱いものが流れているのが感じられた。生きる理由がなかった僕は、ソレに生きる理由を貰った。

僕の願い事をを聞き、ソレは満足そうに頷く。

「契約は完了した!汝の生きたいという願い、叶えよう。そして!」

ソレの言葉と同時に体から痛みが引いていくのがわかる。完全に痛みがなくなった時、地響きと共に目の前のロボの頭部の双眸に光が灯る。

「汝が願いのために!我ら72神柱の願いのために!」

ソレの声が響く度、後ろのロボは瓦礫を押しのけ、地上へと登っていく。

「契約者よ!汝の名を魔導書(グリモワール)に示せ!さすらば汝に運命に抗う力授けん!」

その言葉と同時に爆散したバッグの中に入れていた本が僕の手に飛び込んでくる。ソレは手元から羽ペンを取り出すと僕に渡した。

僕は本の最初のページ...何も書かれていないページに自分の名を書き記した。

「月原ミカド...なるほど」

ソレは本を受け取るとバタンと少し荒々しく閉じ、再び言葉を紡いだ。

「我はソロモンが72神柱の第13の柱、ベレト!そして我が背にある機構はリンカー13、名を同じくベレト!汝が運命と彼の7体の天使に抗うための力なり!」

その言葉に反応し、ロボの胸部にあるコックピットと思わしき部分が開く。

「月原ミカドよ。受け取るが良い」

ソレ...ベレトと名乗った彼の言葉を受け、僕は迷わずそのロボ、ベレトに乗り込んだ。


地上では既にヒューマギアは1番機を残して全滅していた。その残っている1番機も既に弾は使い切り、残っているのは1本のナイフだけである。

「司令...これ以上の戦闘続行は不可能と判断します」

オペレータが告げる。わかってはいたが、ここまで歯が立たないとは思わなかった。

やはり悪魔の力を借りなければならないのだろう。

「…1番機を撤退させろ。3から5番機のパイロットで生存が確認できるものは?」

「3、4、5 番機、どれも生存は確認できません」

「…そうか」

改めて自分たち人間の無力さを思い知らされる。奴を倒せないとわかった今、我々が取れる手段は1つのみとなった。

「リンカーは発見できたか?」

「いえ、まだ...」

「急げ!奴らに破壊されるより先にリンカーを保護するんだ!」

リンカーが手に入れば本部のグリモワールで契約ができる。それさえあればまだ奴らに対抗できる。仮に保護したリンカーのグリモワールが本部になくても奴らに対抗する術は得られる。

「司令!地下から新たな魔力反応です!」

「なんだと!?リンカーが動いたというのか!?」

本部のグリモワールが使用されずにリンカーが動いている、というのは正直こちらとしてはあまり良い状況とは言えなかった。

「...中継ドローンを魔力を確認したポイントに移動させろ...最悪の場合、リンカーを破壊する」


「はあ!?撤退命令!?」

1番機のパイロットである少女は司令部から下った命令に納得がいかなかった。

「なんでよ!?私はまだ全然戦えるわよ!?」

「ナイフ1本だけでどうやって戦うんですか!?とにかく早く撤退してください!」

少女はなお食い下がり続ける。

「私は他の奴らとは違うの!エリートなのよ!史上最年少のヒューマギアパイロット!その私があんなのにやられるはずがないじゃない!」

「あなたは契約者の候補なんですよ!?ここであなたを失ってしまっては我々が奴らに勝てる確率がどれだけ下がってしまうのか」

「ああもう五月蝿い!」

少女はオペレータの声を無視し通信を切った。

「ナイフ1本?ハッ、上等よ!」

少女の乗ったヒューマギアはナイフを構え、正面に立つ不気味な天敵を警戒する。その敵は巨大な斧を地面に突き刺し、ゆっくりとこちらを見る。瞬間、敵は目の前にいた。慌てて振られた斧をナイフで流す。

「よし、これなら...!」

しかし敵は少女に反撃の隙を許さず斧を振り回す。最初のうちは問題なく流せていたが、次第にナイフから嫌な音が鳴り始めた。

「まっず!?」

気付いた時にはもう遅く、何度も斧の衝撃を受けたナイフの刃は粉々に砕け散った。

その凶刃はナイフの刃に留まらず、目の前の機械を砕こうと大きく振り下ろされようとしていた。少女は死を恐れ、その目を固く瞑った。

しかし、一向にその刃が振られる様子はない。恐る恐る少女が目を開くと、そこには本部で見た人型のロボに似た機体が敵を殴り飛ばしていた。


気がつくと、僕の乗ったリンカー、ベレトはヤツを殴り飛ばしていた。

「なんだこれぇ!?」

自分でも何をどうしたのかがわからない。いつの間にかさっきの彼もいない。

状況を理解できない僕の頭に、突然声が響いた。

「落ち着け。いいか、今俺はお前の体を借りてこのリンカーを動かしている」

さっきの彼の声だ。しかし、何故頭に声が響くのかもこいつが言っていることもわからない。

「まあ細かい話は追って話す。今は目の前のヤツを倒すことに集中しろ」

さすがに大まかにでも状況説明をしてもらいたいものだが、お相手さんは立ち上がっておもいっきりこちらを睨んでいる。

「OK、後でしっかり聞くことにするけど、取り敢えず今の僕はどうすればいい?」

「そうだな...多分お前の意思とは関係なく体が動くだろうが...慌てるな」

「...了解」

彼の言葉に頷いた瞬間、なんの拍子もなく自分の体が勝手に動き出した。その手足は指の1本1本まで器用に操り、このリンカーを操作する。リンカー、ベレトがまるで手足のように動いている感覚が手足を通して体全体に伝わってくる。

ベレトの手を大きく広げさせると、フリントロックの銃に長い剣を取り付けたような武器が両手に出現した。ヤツはゆっくりとこちらを見る。

数秒間、睨み合いが続く。

次の瞬間、ベレトはその銃口をヤツに向け引き金を引いた。

ヤツはそれを斧で弾きながらこちらに直進してくる。

「ちょっと待ってこれ本当に大丈夫なの!?」

「安心しな、俺は寧ろ近づいてくれた方が戦いやすい!」

そう言いながら武器を構えヤツに突っ込む。

「いや突っ込むのは愚策ってやつでしょおおおお!?」

獲物からしてヤツと正面からぶつかり合うのは明らかにこちらが不利だ。しかし体ははスピードをさらに上げヤツに突っ込みに行った。

「今だ!」

頭に声が響いたヤツとぶつかり合う一歩手前の瞬間、ベレトはその体を捻らせヤツの突進を回避した。

ヤツは何事もなかったかのように再びこちらに体を向ける。

瞬間、ヤツの体に亀裂が走った。

「よくあの一瞬で入れられたね!?」

動かしているのは自分の体だがそれでも驚いてしまった。

「まあな…さて、やっこさんブチ切れてるみたいだけどどうする?」

彼の言葉を聞き視線をヤツに移すと、再び斧を構えながら大きく咆哮した。

が、何が起こったのかわからないが、数秒後、ヤツは構えた斧をおろし、背を向けた。

そしてヤツは背中の翼を広げ、凄まじいスピードで空へと飛んで行った。

「...帰った...のか...?」

完全にヤツが見えなくなったのを確認すると、僕はコクピットを開け外に出た。

ベレトの外に出ると、外はもう夕方だった。夕暮れの陽はさっきまで戦場だった瓦礫の山を橙色に照らしていた。


「なんなのよあいつ…」

少女は自分が助けられたこと、自分がミカエルに負けたこと。そして何より、自分が死を恐れたことが悔しくてたまらなかった。

「私もリンカーさえあれば...あんなヤツ...!」

少女はコックピットの中で己の情けなさと非力さを痛感するのだった。


「神災、反応ロスト...ミカエル、完全に撤退!」

オペレータのその一言で、管制室に歓喜の声が湧き上がった。トオルもまた、人類初の勝利に体を震わせていた。

しかし、まだやることは残っている。

「1号機とそのパイロットを回収!リンカー探査班はあのリンカーの契約者とナンバー、悪魔を調べろ!」

その一声で管制室の人々はまた各々の仕事に着き始めた。しかし先程とは違い、彼らの目には光が再び灯されていた。


ミカドはベレトの肩に乗り、赤い夕日が沈むのを見ていた。隣には悪魔、ベレトが立っている。

「…夕日をちゃんと見るのは何年ぶりかな」

「そのうち毎日見れるようになるさ...それが俺たち悪魔の悲願だからな」

彼のその言葉を聞き、ふと自分の中に願望が現れる。

「ハルカと一緒にこういう風に夕日を見れる日は...来るよね」

彼は質問仕切る前にキッパリと答えた。

「ああ、間違いなくくるさ...だからそれまで、お前は生き続けなくちゃならねえ」

彼のその言葉を聞き、自分の中の靄が一気に晴れた。

「…僕は生きるよ...いや、生きたい。ハルカとこの夕日を見るために」

だから、と言葉を繋げ、彼の方を向く。

「よろしく、ベレト」

そう言いながら手を差し出すと、彼は照れ臭そうに目を逸らしながらも手を差し出した。

「勝手に死ぬなよ、ミカド」

お互いに握手を交わし、僕は自分の決意を...生きるという決意を固めた。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。とても良い文章とは言えないものだったでしょうが、楽しんで頂けたなら嬉しい限りです。もし面白いと思って頂けたのなら、是非ご友人に薦める等で宣伝していただけると幸いです。次回の投稿は早ければ1ヶ月後、遅くても4ヶ月後には投稿しようと思っています。長くなるかもしれませんが、お付き合い下さい。では、また次回に。

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