取引 *暗殺者ギルドのギルド長視点
はあ、このごろくだらないことで暗殺して欲しいという依頼が増えた。
普通の人は知らないが暗殺者ギルドはそもそも国営の組織だ。
制御できないよりかは制御できるようにと暗殺者ギルドは作られた。
暗殺者ギルドは暗殺者と名前についているが盗みや強盗スパイなどいろいろな依頼を受けている。
依頼の料金自体もそこまで高くないように設定している。
まあそれでも非合法の組織も存在する。
そういうのに頼られないようにするため暗殺者ギルドはなにがあっても依頼を達成する。
いざという時に貴族共の弱みを握っておくためにも。
くだらない依頼も来る。
だがそのくだらないことで貴族の弱みを握れるならと受けなければならない。
近頃ので言えばとある貴族の娘を暗殺してくれというものだ。
その娘がすごい魔法使いでその親が成り上がってしまえば自分の出世の可能性が減るという理由だ。
くだらない。
娘は十二歳という。
そんな歳で大した魔法が使えるわけがない。
まあ曲がりなりにも貴族の娘なのでかなりの防衛網をしいていると推測して結構な腕の暗殺者を送っておいた。
殺すこと自体は簡単だろう。
但しばれないようにとなる結構大変だ。
だから、今回送ったやつは俺が直々に暗殺の技術を仕込んだ手練れだ。
腕は一級品だ。
数の都合であいつには質のいい魔武器を持たすことはできなかったが、
あいつが質のいい魔武器を持てばこの暗殺者ギルドの中でも十本の中に入るだろう。
幹部どもが実績が大事だといいはってあいつに魔武器を持たすのを反対しているから
あいつには様々な依頼を回している。
それにあいつはまだ伸びしろがある
将来は暗殺者ギルドで一番になるだろう。
俺の全盛期をも越えかねん。
ただ今回は時間がかかってるな。
まあ証拠も残さずと言えばまだ若いあいつなら手こずることもあるか。
そう思って俺は心配しずに書類仕事を片づけることにする
「ふーやれやれ、終わった。」
「おつかれさま。」
「っ!」
今まで誰の気配も感じなかった。
俺に気付かれずにここまで接近されるなんて。
相手は俺の後ろにいる。
うかつに動けば殺されかねない。
ここは会話をして相手の油断を誘うのが得策。
俺はこの後会議に出席する予定だ。
来ないことに傷づいた部下が俺の様子を見に来るはずだ。
その一瞬が勝負どころだ。
「あのね、実は私暗殺者ギルドに標的として指定されたのよ。
だからそれを撤回してもらえないかなぁって思って。」
女の声だ。
さっき声をかけられたときは急だからわからなかったがまだ子供だ。
「君は誰だね?
それがわからなければ以来の破棄もできないんだが。」
「ああそうね、私の名前は・・・・・えーっとなんだっけ?何て名前かわかる?」
「・・・・」
「・・・・いや名前を忘れたわけじゃないんだよ。
本当に名前を知らないだけなんだよ。ほんとだよ」
こいつなんだ?
ここまで忍び込んでくるだけの腕前があると思えば自分の名前も知らないときた。
「いやえーっと確かクロが言ってたような。
クリーンだったけ?クローンだったけ?どっちか知ってる?」
クロだとあいつが失敗した?
ということはうわさが本当だった?
「シャーリーン・ラドクリフだろ。」
「そう多分そんな感じのこと言ってた。
それで依頼の撤回はしてもらえる?」
「ああ、いいだろう。」
ギルド長室まで忍び込んでくるような奴を暗殺するのにあの貴族からもらったような金では不足もいいところだ。
それよりか大切なことがある。
「クロはどうした?殺したか?」
そうあいつの育成には結構な手間と金がかかってる。
たくさんの奴隷を買ってその中で素質のあるものを育てるそういうことをしたからな。
それだけ使いつぶしたやつも多い。
「ころしてないよ。」
「そうかそれはよかった。
それでクロはとらえたのか?それとも逃げたのか?」
「つかまえたよ。」
それなら何とかして取り返したいところだな。
「クロを開放してはもらえないか?もちろん身代金は払う。」
「それはだめだよ。私はクロを売ってもらえないか交渉しに来たんだから。」
なにっ。あいつを手放すわけにはいかん。
「あいつは売らん。
そもそもあいつは高いぞ。一貴族令嬢に払えるような値段ではない。」
そうあいつはかなりの手練れだ。
普通に買おうとしたら大貴族並みでないとはらうのは厳しい。
「それは大丈夫だよ。だって私の手の中には暗殺者ギルドのギルド長という捕虜がいるんだから。
ギルド長の身代金としてクロをもらうぐらい大丈夫でしょう。」
ちっそんな手があったか。
さすがに俺が今抜けるわけにはいかん。
「わかった。ただクロの奴隷としての証書はここにはない。
人を呼ぶか俺たちが移動するしかない。どうする?」
「行きましょう。」
・・・あっさり飲んだな。移動は隙になるからあまり好まないものなんだが。
「わかった。」
そういえばギルド内の様子がおかしい。
音が全くしない。
「おい、ギルド内の人間はどうした?」
まさか殺したのか?全員を俺に気付かせずに。
それはもはや戦闘になっていないぞ。
「いいえ全員気絶さしているだけよ。殺したりしたら後が大変じゃない。」
戦闘になっていないどころか気づいてもなかったか。
こりゃ諦めよう。
後で報復するかは別として。
「ああ、そうそう後で報復とかしないでよ。
一応そっちの人間から宣戦布告されたんだから。」
一瞬読まれたかと思ってヒヤッとした。
ただ一人の少女に制圧されたというのはまずいからな。
「後でデモンストレーションもしてあげるから。
ただの一人の少女に暗殺者ギルドが制圧されたらまずいわよね。
だから戦力的にはただの少女じゃなかったってわからせてあげる。」
もしや心でも読んでるんじゃなかろうなあと思ってしまう。
まあそんなことは到底無理だけどな。
それから俺は普通にクロの奴隷としての証書を渡した。
隙ができたら反撃に出ようと思ったけど隙はなかった。
魔法使いは詠唱が必要だがおそらくその身は魔道具で固めてあるだろう。
勝ち目はない。
「クロの証書ももらったし、デモンストレーションをしようか。」
そんなことも言ってたな。
「ああ何をしてくれるんだ?」
「とりあえずまわりを派手に壊してもいい場所に案内してくれないかな?
そこでいろいろとやってあげるから。」
壊していい場所というと裏手の訓練場か。
「では案内する」
訓練場に案内してから初めて見た娘の容姿だがすごく美しいものだった。
すべてを見透かすような暗めの青い目
腰のちょっと上まで伸びたサラサラの銀髪
白磁のような白い肌
そのすべてが調和している。
こんな事態でもなければ見惚れていたかもしれない。
その後見たことは恐るべきものだった。
娘はまず結界を張った。
これは無詠唱だった。
無詠唱などできるものはあんまりいない。
それをこの娘はやすやすとおこなった。
そのあと各属性の魔法を使っていった。
風の魔法で気を細切れにし
火の魔法で一瞬で焼き尽くし
それを水の魔法で消し
そのとき出た水蒸気を氷の魔法で冷やし
それを闇が呑み込む。
ここまでを一挙動でやってしまった。
これは敵対するのは危ないな。
そう思って冷や汗をかいていると
「じゃあギルド長さん、最後の見世物をするからよーく私の方を見といてね。」
そういわれたので何も見逃すまいと注意していると
娘が消えた。
そこまで認識したところで私の意識は途切れた。
私が起きた時私の周りにはってあった結界が消えた。
おそらく娘が私が起きるまで結界で守っていてくれたのだろう。
これもかなり高度なものだ。
あらかじめ私が起きた時に結界が消えるように条件付けされていたのだろう。
その私が起きたときという条件付けが難しい。
こんなことができる相手に戦いを挑むことはできないな。
そもそも最後に何をされたかもわからなかった。
なんとしてもギルドに戦うという選択肢を取らせないようにしないとな。
ギルド自体がなくなりかねん。
あれは化け物だ。




