修復
次の日の午前中、里子とハルとリョウ、荷物を乗せた史郎が運転する車は自宅へ向かっていた。
玄関に入る前に史郎が「ごめんね」と言った。里子は「何が?」と聞き返したが史郎は笑うだけ。
家に入るとその意味が分かった。
「なにこれ?」里子は目を丸くして言った。
脱ぎっぱなし服に、山になった洗濯物。台所のシンクには洗ってない食器やビールの缶。リビングにはよどんだ空気がたちこめ、物置と化していたテーブルの上では荷物のなだれがおきていた。
「里子の毎日がどんだけ大変だったかこの数週間で分かったよ。一人でもこの有り様だ。やっぱりうちには…というか俺には里子が必要なんだよ」
ばつが悪そうに、散らかった洗濯物を拾いながら史郎は言った。
呆れてい里子だが笑顔になると
「さあ。天気もいいことだし片付けますか。はい、史郎も動く!」
里子が史郎のお尻を軽くペシンと叩くと里子の真似をしたハルが面白がって史郎のお尻をパシパシ叩き出した。
窓をあけ家の空気を入れ換える。史郎はハルと一緒に部屋の片付けをし、ベランダには久しぶりに布団が干された。庭では里子が干した洗濯物が風にはためいていた。
月曜日。
史郎が目を覚ますと隣に里子の姿はなかった。
まさかこの週末の出来事は夢だったのかと飛び起きたが、階下から漂ってくる朝食の香りが史郎を安堵させた。
顔を洗い朝日が差し込む明るいリビングへ行くと、奥のカウンターキッチンでは里子が朝食の用意をしていた。
「おはよう。」
「おはよう。」
テーブルに朝食を並べながら里子が熱いお茶を煎れてくれた。
「ありがとう。」
読んでいた新聞をたたみ熱いお茶を口に含む。
二人が和食好きなので朝食は和食、忙しくても朝食は必ずとる
この2つは坂上家の決まりだった。
しかし里子がいない数週間、史郎は朝食と呼べる物はとっていなかった。
今朝のテーブルには炊きたてのご飯に具だくさんの味噌汁、焼き鮭にたくあんなどが並んでいる。
数週間振りのまともな朝食に箸が止まらない史郎はむせてしまった。
「ちょっと、大丈夫?なに慌てて食べてるの?」
好物を目の前にした子供か!史郎は口を拭きながら思った。
支度を整え玄関で靴を履いていると「はい、お弁当。」とずっしりと重い弁当を里子が渡してくれた。
「あっ、ありがとう。」
お礼に頬へキスをしようとしたが華麗によけられる史郎。
「なにしてるの。行ってらっしゃい。」
優しく微笑んだ里子に見送られ史郎は久しぶりに颯爽と出勤した。
昼休み里子の愛妻弁当を食べている史郎が同僚たちにひやかされる事は必須だった。