ふたり
「あっ、風船。」
見上げると、真っ青な空に赤い風船がフワリと浮いている。
まるで、空を散歩するかのようにゆっくりと、心地よい風に吹かれて空高く上がっていく。
「風船どこにいくのかなあ?」
「どこかにお散歩かな?」
幼い女の子が母親に聞いている。
風船が小さく見えなくなるまで見ていた里子は手に持った買い物袋を持ち直し家路についた。
史郎と里子は2ヶ月前に結婚したばかり。
元々高校のクラスメートでクラス替えのない学校だったので3年間同じクラスだった。
史郎の斜め後ろが里子の席。
授業中、ちらっと後ろをみるとよく里子は机に突っ伏して寝ていた。
史郎はバスケット部に入っていて、レギュラーになるために毎日練習を欠かさなかった。
一方里子は、バレーボール部に所属。
史郎のいるバスケ部とは違い、試合をするには部員がたりない弱小チーム。
それなりに練習はしているが、なんせ試合ができない状態だから、遊びにちかい活動だった。
そんな二人も無事卒業。
卒業後、史郎は県外の大学へ進学。里子は県内の会社へ就職した。
卒業後しばらくしたある日、友達から里子にメールがきた。
〔史郎が久しぶりにこっちに帰ってくるんだって!久しぶりに今日みんなで会わない?〕
ちょうどその頃教習所に通っていた里子は
〔うん。久しぶりに会いたいな。今から教習所だから終わったら連絡するね〕
と返信して教習所へ。
教習終了後、教習所の外に出ると「プップー」とクラクションが。
「迎えに来たよ〜♪」と友達が手を振っている。
車に駆けよると、中には友達とその彼女。とすでに史郎の姿もあった。
「久しぶり〜!元気だった?」
元々クラスメートのこの4人。
車の中での会話も弾み、その後の食事も楽しい時間を過ごした。
夜も遅くなり、みんなで連絡先を交換してその日は解散した。
その後数回4人で遊だが、しばらくして二人だけで遊ぼうと史郎から誘いがあった。
断る理由もなかったので里子は会う約束をした。
駅で待ち合わせをして史郎の運転する車で出掛ける事にした。
里子が駅に着くと史郎はシルバーのスポーツタイプのクルマで待っていた。
里子にとって男性の運転する車に乗るのは(しかも助手席)に乗るなんて父親以外は初めての事。
ましてや、男の人と二人っきりで会うのはこれが初めて!
「久しぶりだね。」
「うん。…元気にしてた?」
「うん。そっちは?」
「ウチも元気だよ……。」
「………」
「……」
お互いぎこちない会話で話しは進まず。
里子はふと気づいた
あれ?これってデート?
もしかしてデートだよね?
でも、付き合ってないからデートじゃないのか??
「……ちゃん、さっちゃん?」
「えっ?」
「さっちゃん、もしもーし?」
「あっ、えっ?ごめん!何?」
「今日はどこ行く?」
うーん…デート=映画?という里子の単純な発想で、食事をした後映画を見に行くことになった
気軽に入れるレストランに入り、たわいもない話をしながら食事をした
お互いの映画の好みが分からなかったので、無難に選んだ動物が主役の映画を見て初めてのデートが終わった
(その後、史郎は恋愛系、里子はホラー系と全く違った系統が好きなことが判明)
律儀な史郎は9時には里子をアパートに送り届け、アパート前に止めた車中でしばらくおしゃべりをしていた。
「今日は楽しかったね。ありがとう。また誘ってね。」
里子がドアを開けようした時、史郎が
「さっちゃんは好きな人いる?いなかったら付き合ってくれる?」
!!!
突然の告白にカァーと顔が熱くなりどぎまぎしている里子
チラッと見ると、里子以上にどぎまぎしている史郎が
「ウ、ウチでよかったら…」と言うのが精一杯
かくして二人は付き合うようになった
史郎は学校があるので週末にしか帰ってこれなかったからデートは毎週末だけ
日曜日の夜には学校のある県外へ帰らなくてはならない
それでも楽しかった途中で何度かハプニングが起きたが交際は順調に続いていた。
史郎が学校を卒業後1年経ち、付き合い始めて3年たったある冬の日。
「今日は里子が行きたいっていってた公園に行こうか?」
史郎は里子をドライブに誘った。
それは小高い丘の上にある小さな公園。
その公園の中央には海が一望できる展望台があり、里子が幼い頃によく家族で来ていたお気に入りの場所であった。
「うわー、久しぶりに来た。うれしいなー。海が綺麗だね、史郎」
「そうだね。天気もいいし良かったね。」
とても嬉しそうに歩く里子の後ろから声を掛ける史郎はポケットに入っている物を確認すると、意を決したように足を止めた
「里子!」
「ん?なあに?」
振り向いた里子の目の前には貴臣の緊張した顔があった。手には指輪を持っている。
「俺と結婚して下さい。」
突然のプロポーズに驚き里子は言葉が出なかった
「私でいいの?料理とかあんまり出来ないよ……私で良かったら……うん。」
緊張でこわばっていた顔が緩み笑顔になった史郎は里子を抱きしめた。
夕陽が沈む海を背に手をつないで帰って行く2人。
里子の左手の薬指には輝く指輪が光っていた。その半年後、2人は結婚式を挙げた。
両親や親戚、友人たちが2人の門出を祝ってくれた
幸せな日が続いていた