プロローグ
「これは困ったな、ナタリア」
ふたりの共謀は一週間限定。
今日はその最後の日。成すべきことは成した。妹と婚約者に一泡吹かせることができた。あとは綺麗さっぱり別れるだけ。
アレクセイもナタリアもそう思っていたのだ。
けれど――
「アレクセイ様っ……待ってください……っ」
「そう思うならその顔をやめろ。やめろと言うその顔、それがどれだけ私を煽っていると思う」
鼠獣人特有の長く太い尻尾を巻きつけて、さらには両腕で強く掻き抱きながら、アレクセイはひたらすらにナタリアに口づけを繰り返す。
「一週間限定。約束は果たすつもりだった、……手放す気だったんだがな」
腰を抱いていた手の力が強くなる。
アレクセイの思いを、そのまま、表しているようだった。
「王妃の座が重いのなら私も皇帝を退こう。言ったであろう、私の後釜などいくらでもいると」
あまりに近い距離で囁かれ、ナタリアは恥ずかしさのあまり目を閉じる。
だがそれを嘲笑うように、アレクセイはさらに熱っぽく囁いた。
「その顔もいけないな。言っただろう、私は、人間のそのういう顔が好みだと」
慌ててナタリアは目を開ける。
だが開けて後悔した。アレクセイの、吸い込まれそうな赤い瞳が、じっとりと熱を帯びていたからだ。
「私と共に来い。苦労はさせん。お前の元婚約者のように、お前を愚弄することはないと誓ってみせる」
アレクセイの唇が、ナタリアの顔に点々と口づけの雨を降らせる。瞳と同じで唇も熱くて、ナタリはもう、深く考えることができなくなっていた。
「言ってみろ。お前はどうしたい? お前の望みなら全て叶えてみせよう」
「っ……私には過分すぎるお言葉で……」
「……、……伝わっていないようだな。……純血の人間はこういうときなんと言うんだったか」
しばらく逡巡して、あぁ、と納得がいったようにアレクセイが呟いた。
「愛しているよ、か」
「あっ――……」
「愛しているよ、ナタリア。だから私のものになれ。なに、私はお前の元婚約者とは違って一途だと思うんだがな」
甘く囁かれた言葉に、ナタリアは、腰が抜けるような思いだった。




