第一話 アルとエギル
「朝から晩まで草草くさぁっ! いー加減こんな食生活やってられるかっ!」
俺は目の前の丸太のテーブルに並べられている草のステーキ、草のアヒージョ、草の炒め物ののっているテーブルを思いっきり叩きながら文句を言った。
「俺は絵物語に出てくるような人間たちが食っている肉や魚が食いたいんだよ!」
「まぁ落ち着けってのアルフレッド・フェンリル・ドヌーシャ」
「ああもうそのやたらめったら長い呼び名も気に入らねぇ!」
「こればかりは仕方ないね。名前をフルネームで呼ぶのは僕たち高貴なエルフたちのたしなみ。だからね」
木製のティーカップで、いつもの薬草茶をすすりながら答える。
「ああもうこれだからエルフは嫌なんだ!」
「アルフレッド・フェンリル・ドヌーシャ。君だって僕たちと同じエルフじゃないか?」
ほっそりとした左指でエルフの特徴の一つでもある自分の長耳をつまみながら答えた。
「ああもうフルネームで呼ぶなよっエギル・ストーキン・ハルカス」
「君だって僕のことをフルネームで呼んでいるじゃないか」
「うがあああっそうだったっこれからはエギル・ストーキン・ハルカス。君のことはエギルッて呼ぶことにするぜ」
「まぁ好きにしなよ。僕は格式ばったエルフの長老たちと違って寛容だからね。呼び名ぐらいでいちいち目くじら立てたりはしないよ」
「じゃあそうする。でだ、エギル」
「なんだいアルフレッド・フェンリル・ドヌーシャ?」
「このままだと俺たちは近い将来ボケる」
「君は唐突に何を言うんだい」
エギルがずっこけそうになる。
「考えてもみろよ。うちの長老たちをっみ~んなボケてやがる」
「うん。まぁそうだね」
エギルが薬草茶を口に含みながら答える。
「エルフは長命でやることがない。つまり、ボケるのが早い」
「う~んアルフレッド・フェンリル・ドヌーシャ。君の言いたいことは分かるけど。だからといってどうしようというんだい?」
「だから俺は」
「俺は」
「この国を出て人間の国に行く!」
「人間の国に?」
「ああもう決めた今決めたすぐ決めた絶対決めたこんな腐った国今すぐ出てくっ」
「やめときなよアルフレッド・フェンリル・ドヌーシャ。この国を出たら人間たちのエルフ狩りにあうのがおちだ」
「この長耳がなきゃいいんだろう? 俺は今日からエルフをやめる」
ザシュと小さなナイフでエルフの特徴である長耳を切り落とした。
「ああもうアルフレッド・フェンリル・ドヌーシャ。今すぐ治癒魔法でその耳はくっつけてやるからバカなことはやめるんだっ」
「いやだ。炎よ」
俺は左手に持った両耳だったものを空に放り投げると力ある言葉を投げ放ち焼き消した。
ボウっと燃えて、黒い消し炭になった長耳は、地面に落ちることなく黒い炭となり砕け散った。
「アルフレッドッなんてことをするんだ! その長耳は我らエルフの誇りだぞ!?」
エギルが声を荒げる。
「そんなわけわからんもんで腹は膨れねぇっ」
「それに我らが故郷から出ていくなど長老はおろか君の父上母上も許しはしないだろうが」
「長耳と一緒にその長ったらしい名前も捨てる! 俺はこれからアルだっただ食の探究者アルだ!」
そうして俺は故郷である齢五千年をゆうに超える木々で覆われたエルフ大森林を抜けて着の身着のままで人間の国を目指して旅に出た。




