8.男の面目。
「あ〜このマンションだよ〜。」
涼は、ひよりを支えながら、店から一駅電車に乗り、ひよりの住むマンションの前についた。
「ここまでで大丈夫?」
涼は、ふらつくひよりに問いかけた。
「え〜?何で〜?あがっていかないの〜?」
「終電がなくなるし・・・と言うか、初対面の男に部屋上がられるの嫌じゃないの?」
「涼くんだから〜。それに、今日はお母さん旅行行くって言ってたから、誰もいないよ〜?」
「いやいや!そ、それは余計にマズくないか?」
涼は焦っている。
「いいじゃぁ〜ん。私一人で歩けなぁ〜い!」
「はぁ。」
涼は、少し嬉しいと思いながらも、ため息がこぼれる。
「あー!今ため息ついたー!
・・・私のこと、嫌になったの〜?」
「ならないよ。・・・じゃぁちょっとだけ。」
涼は、ひよりを支えながら、マンションのエレベーターに乗り、ひよりの部屋の前まで来た。
ガチャ。
ひよりがドアを開ける。
「たらいまぁ〜。」
「あら、おかえり。あなたベロベロじゃない!まさかお酒飲んだの?」
玄関のドアがあく音で、ひよりの母らしき人が出迎えにきた。
「あれ〜?今日おかあさん旅行じゃなかったの〜?」
「仕事が入っていけなかったのよ!」
不機嫌そうにしながらも、ひよりの母はニヤニヤしている。
「で?ひよりが男の子といるなんて奇跡みたいな事が目の前に起きてるんだけど、説明してもらえるかしら?」
ひよりの母は嬉しそうにしている。
「お持ちかえりちまちた〜。
このひとは〜涼くぅん。」
「あらまぁ。ひより、酔っておかしくなった訳じゃないのよね?」
「うん〜。涼くんは〜素敵なひと〜。」
「すいません。俺、山田 涼といいます。こんなにお酒弱いの知ってたら、飲ませなかったんですが。」
ひよりの母は、涼を気にしながらもひよりを廊下に引っ張る。
「ひより、あなたお風呂入って酔いを冷ましてきなさい。」
ひよりは、言われるがまま、風呂にフラフラと歩いていった。
「涼くんだったわね。ごめんなさいね。酔っぱらいの世話は大変だったでしょ?」
「いえ、楽しかったです。」
「楽しかったの?」
ひよりの母は意外そうな顔をする。
「ちょっと色々聞きたいんだけど、上がってもらえるかしら?」
「あっ。」
涼はビクビクしている。
「その、上がらせてもらいたいんですが、しゅ、終電が。」
「明日休みでしょ〜?
泊まっていけばいいから!」
ひよりの母は、嬉しい様な、心配する様な複雑な表情で涼を強引に引っ張る。
「い、いいんですか?」
「いいの、いいの!」
涼はリビングに連れ込まれると、ソファーに座らされた。
ひよりの母は涼の隣りに座る。
「ひよりがお風呂上がる前に色々聞きたいから、お茶は後で出すわね。」
ひよりの母はまっすぐに涼を見つめる。
「あ、いや、お構いなく。」
「まぁ、礼儀正しいのね。
とりあえず、ひよりとはどう言う関係かしら?」
涼は、今日の出来事をひよりの母に話した。
「今日が初対面なのね。
私が旅行なのを知っててここへ来たと。
・・・酔ったひよりとするつもりだったのかしら?」
「いや、それは無いです。
俺・・・ひよりちゃんがどう思ってくれてるか分からないですが・・・俺はひよりちゃんの事、素敵な人だと思いました。だから、真剣に・・・その、ちゃんと付き合ったりしたいと思ってます。」
「・・・嘘は無いわね?」
「はい!」
涼は、ひよりの母の目を見て、力強く答えた。
「・・・あーー!!!良かったーー!!」
ひよりの母は、肩の荷がおりたかの様に、ぐったりしている。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。
涼くんがちゃんとした子で良かった。
安心したのよ。」
「あの、まだ今日会ったとこですし、ひよりちゃんが俺なんかを好きになってくれるとは思ってないんですが。」
涼は悲しそうに俯く。
「いや〜、涼くん。」
「はい。」
「ひよりがね、男の子とちゃんと話す時点で奇跡だし、家に連れてきたのよ?
これは本当にすごい事なの!」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ、そうなったのは私のせいでもあるんだけど。
・・・ひよりのお父さんね、浮気して出て行ったのよ。
それ以前も、ひよりには構わないし、夜遊びばかりしてたし。
私達夫婦は喧嘩ばかりしてたわ。
そんな父親を見て育ったからかしら。
中学生くらいから、男の子を毛嫌いしてしまってね。」
「そうなんですね。
でもなら、何で俺とは話してくれたんですかね。」
「分からないけど、涼くんが真面目で信頼できる人って感じたんじゃないかしら?」
「だといいんですが。」
「あとさ、ひより・・・依存というか・・・メンヘラ基質あるかもしれないけど大丈夫?」
「それはどう言う?」
「ひよりには私しかいないからかもしれないけど、ちょっと会社の飲み会とか行くと、ひっきりなしに電話とかメッセージがくるのよ。
一人になりたくないって気持ちが強いのかもね。」
「い、依存されたい・・・もしひよりちゃんが俺を選んでくれたら大切にします!」
「良く言ったー!」
ひよりの母は嬉しそうに立ち上がると、キッチンに向かい、お茶の準備をしている。
「お風呂でたよ〜。」
パジャマ姿のひよりビングに入っていた。
「酔いはさめた?」
「うん。涼くん帰ったの?」
「何?寂しいの?」
「うん、ちょっと。
でも、連絡先は聞いたから。」
「そう、良かったわね〜。」
ひよりの母はニヤニヤしている。
「ひより、お茶はこんで。」
ひよりの母は、お盆にのせたお茶をひよりに渡した。
「なんでコップ3つあるの?」
「・・・いやー!!」
ひよりは、照れくさそうにソファーに座る涼に気付いて、その場にしゃがみ込んだ。
「あはははっ!」
ひよりの母は嬉しそうに笑う。
「涼くんもいるなら言ってよー!」
「ごめん・・・酔い、冷めたみたいだね。」
「・・・うん。」
ひよりは諦めたのか、お盆をもってソファーに座った。
「さっきの聞いてたよね?」
「う、うん。」
「・・・迷惑・・・だよね。」
「いや!嬉しい!すごい嬉しい!」
「ほ、本当!?」
ひよりは、嬉しそうに涼を見つめる。
「こら、こら。母親の前でいちゃつかないの。」
ひよりな母はキッチンで笑顔だ。
「何よ!お母さん、私をはめたくせに。」
「ごめん、ごめん。」
ひよりの母もソファーに座り、3人で少し話した後、涼は風呂に入る事になった。
バザーン。
「はぁ〜。いい湯だ〜。」
涼は、緊張から解放され、しばしくつろいだ。
「ひよりちゃん、何でなんだろう。」
涼は、ひよりが自分に好印象を抱いてくれている事が、不思議で仕方なかった。
「まぁ、いいか。そろそろ出るかな。」
涼が風呂を出ると、ひよりとひよりの母の話す声が聞こえる。
「無理ー!」
「いいからー!」
「絶対無理ー!」
「あの、何か揉めてるのですか?」
涼がリビングに入ると、ひよりは顔を赤くして、ひよりの母はニヤニヤしていた。
「な、なんでもない!」
ひよりは少し怒っている様に見えた。
「さっ!寝た寝た〜!
ごめんね、来客用の布団とかないから、涼くんはひよりとベッドで寝てね〜。」
「えっ?いや、それは。」
「何〜?嬉しいでしょ?」
ひよりの母はニヤニヤしている。
「俺、そこで寝ます。」
涼はソファーを指さす。
「私、まだ仕事するから。
さっ!とっとと寝なさい!」
ひよりの母は、ひよりと涼の背中を押しながら、ひよりの部屋に押しこんだ。
「私、イヤホンで音楽聴いてるから気にしないでね〜。」
ひよりの母は、楽しそうにリビングに消えて行った。
「ごめんね、涼くん。」
「いや、いいんだけど・・・むしろ嬉しいんだけど、いいの?」
「う、うん。寝よ!」
ひよりは涼を見つめて微笑んだ。
「か、可愛い。」
「もぅ。」
ひよりは照れた表情でベッドに横になった。
涼もひよりの隣りに横になった。
ひよりと涼は背中合わせに横になり、無言のまま目を閉じた。
しばらく二人は眠ろうと努力していた。
バサッ。
ひよりは、涼の方に体を向けた。
「あのっ。」
ひよりは少し震えた声で涼をよんだ。
「な、何?」
涼は緊張した様子だ。
「涼くん。こっち向いて?」
「う、うん。」
涼は、ゆっくりとひよりの方に体を向けた。
涼が振り向いた瞬間、ひよりは涼に抱きついた。
「えっ?」
涼が驚いていると、ひよりは抱きしめた腕を緩め、涼に唇を重ねた。
「んー!!」
涼は、口がふさがったまま、驚きの声を上げた。
ひよりは、恥ずかしそうに俯いた。
「ひ、ひよりちゃん?」
「お母さんが、こうしろって。」
ひよりは、涼の下着の中に手をいれ、つかんだ。
「ちょー!ちょっと!待ってー!!」
涼は、一瞬だった。
男の面目という物があるならば、この事は誰にも言えない。
涼はそう思った。




