マルティナ夫人の反応
それからのわたし達は驚くほど順調だった。
さっそくマルティナ夫人に、レンとの結婚について相談したのだが――。
「アイスコレッタ公爵家との結婚だと!? またとない話ではないか!」
「反対しないの?」
「するわけないだろう」
なんでもマルティナ夫人は、わたしの結婚相手を探さなければならない、と頭を悩ませていたという。
「これまでに何度かお前と結婚したいと申し出てくる男がいたんだが、まったくつり合わないから断っていたんだ」
マルティナ夫人はわたしと結婚するならば、〝とっておきのいい男〟としか許すことができないと考えていたらしい。
「アイスコレッタ公爵はお前の幼なじみで、お前を一番に思っていて、さらに金持ちというのであれば、言うことなどあるまい」
「わたしを一番思っているって、どうしてわかるの?」
「アイスコレッタ公爵から、結婚の許しを乞う手紙が届いたのだ」
そこにわたしに対する想いが書き綴られていたという。
「これまで求婚してきた男達とは違う。お前がダイヤモンドの原石だった時代から、特別に想っていたような男だ。反対なんぞするものか」
「そう、だったのね」
手紙の内容を知りたいような、知りたくないような。
とにかく、レンが手回ししていたので問題ないようだ。
「盛大な婚約パーティーをしようではないか」
「いいわよ、そんなの」
「一生に一度のことだ。私はお前を本当の娘のように思っている。これくらいはさせてくれ」
まさかマルティナ夫人がわたしのことを娘のように思ってくれていたなんて。
そんなふうに言われたら、拒絶できなくなるだろう。
「あ、もしかして、婚約パーティーでドレスを売るつもりなの?」
「またとない商売の機会だな。貴族の招待客もいるだろうから、販路を広げる機会にもなる」
「まさかそれが本当の狙いなの?」
「冗談だ」
マルティナ夫人が言うと冗談に聞こえないのだが。
何はともあれ、わたしとレンは問題なく結婚できるようだ。
婚約パーティーの企画については、マルティナ夫人にお任せしよう。
◇◇◇
婚約パーティーのドレスを作り、会場を押さえ、招待状を贈って、食事の手配をし――マルティナ夫人を交え、準備は順調に進んでいく。
レンも参加したかったようだが、ヒルディスの巡礼が始まってしまい、地方に旅立ってしまった。
次に会えるのは、婚約パーティーの当日だという。
母に招待状を送ったのだが、返事はなかった。
現在、母は王都の外れに屋敷を与えられ、使用人と共に暮らしているという。
愛人の役目から外されたようだが、その後の暮らしもしっかり保証してくれているようだ。
酒や賭博に染まらないよう厳しく管理されているようで、心配ないという。
母の近況はすべて、マルティナ夫人が探偵を使って調査してくれた。
父であるシュヴァーベン公爵は招待しなかった。
持参金を渡した時点で、父親の役割は放棄しているだろうから。
ヒルディスも呼んでいない。
これはレンとも話し合って決めたことである。
わたしとレンの結婚を風の噂で聞きつけたシュヴァーベン公爵夫人がマルティナ夫人に抗議してきたというが、軽くあしらったようだ。
シュヴァーベン公爵夫人相手にそんなことができるのは、きっとマルティナ夫人くらいだろう。心強い味方がいて本当によかった。
そんなこんなで迎えた婚約パーティー当日。
レンは巡礼から戻ってきた。
「すみません! 遅くなりました!」
「その、大丈夫?」
板金鎧姿に変わりはないようだが、どこかくたびれているように見える。
「すみません。帰りの道中、ワイバーンの群れに襲撃されまして」
「なっ!? 大丈夫だったの!? ケガは!?」
「ありません」
ヒルディスも無事だったという。
「ワイバーン自体はそこまで問題なかったのですが、その近くに出現した狼系の魔獣を取り逃がしてしまい、安全確保のための調査に時間をかけてしまいました」
「そうだったの」
絶対に婚約パーティーに間に合わせてみせる、という気概のもと王都まで戻ってきたようだ。
「それにしてもワイバーンなんてめったに出現しない魔獣なのに、酷い話だわ」
「本当に」
何はともあれ間に合ったのだ。
支度をしてくると言った彼を引き留める。
「その、話したいことがあるの。少しだけ聞いてくれるかしら?」
「なんでしょう?」
それはわたしが抱えるもうひとつの秘密だった。




