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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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不審な求婚

 我が耳を疑うような申し出が聞こえ、目が点となる。


「え、あの、どうしたの突然!? 冗談じゃ……」

「本気です」


 これまでにない熱量でレンが話しかけてくる。


「実を言えば、大聖女様の婚約者候補に名が上がってしまい、困っているところでして」

「あなたがヒルディスの婚約者候補ですって!? いったいどうして!?」


 これまでの人生では、ヒルディスとナイトの野郎が婚約し、将来結婚するということに変わりはなかった。

 いったいなぜ、レンがヒルディスの婚約者候補になったのか?


「アイスコレッタ家は王家に連なる家系ですので」

「そうだったのね」


 アイスコレッタ家は公爵家だったか。

 ナイトの野郎が年齢的にはヒルディスとつり合っていたのだが、そこに聖騎士であるレンが加わると話は別らしい。

 聖教会側も夫が聖騎士であったほうが都合がいいのだろう。


「そういえばあなた、さっき〝フォン・アイスコレッタ〟と名乗っていたけれど、子どものときは違ったわよね?」

「ああ、それは……跡取りが亡くなって、続くようにご当主様が亡くなったものですから、わたしにアイスコレッタ家の爵位が下りてきたんです」

「つまり今、あなたはアイスコレッタ公爵だってこと?」

「はい」


 まさかの事実に仰天する。

 レンがアイスコレッタ公爵の爵位を継いでいたなんて。

 王家に連なる一族の当主で、かつ聖騎士。ヒルディスの婚約者に選ばれるわけである。


「だとしたら、余計にわたしへ結婚を申し込むことが理解できないんだけれど」

「それは……」


 何か理由があるのだろうが、レンは口を閉ざしてしまった。


「ヒルディスと結婚するなんて、とか謙遜しているの?」

「そういうわけではありません」

「はっきり言いなさいよ」


 このさいだ、全部吐かせてやる。そんな覚悟で話を促した。


「実を言えば、大聖女様とは聖力の波長が合わず、居心地が悪くなってしまうのです」

「そうだったの?」

「ええ……」


 聖力というのは、魔力と同義である。 

 どちらを使っても構わないのだが、信仰心が高い者は聖力という言葉を使いたがるようだ。


「だったらどうして、ヒルディスの護衛なんてしているのよ」

「それは――」


 レンは言いかけ、まっすぐにわたしを見つめた。


「何よ?」

「あなたに会うためです」

「なんですって!?」


 これも冗談ではなく、本気らしい。


「八年前、あなたがいなくなって、私は聖教会で探す決意をしたと、つい先ほどお話ししたとは思いますが――」


 レンの想定にはなかった未来が待っていたという。

 聖教会に入り正規の聖騎士となったレンは、すぐにアイスコレッタ公爵の爵位を継ぐこととなった。


「爵位を持ち始めた途端、周囲の人達の態度が変わったんです」


 子ども時代、ほとんど話しかけられることがなかったヒルディスとも、交流するよう聖教会の上層部から打診があった。


「正直、大聖女様の印象は幼少期の、その……」

「神経質な感じ?」


 わたしがはっきり言うと、レンは頷く。

 そのイメージが強かったので、おっとり優しい性格になっているヒルディスを前にしても、違和感しか覚えなかったようだ。


「聖教会の上層部が、私と大聖女様の仲を取り持とうとしているのは感じていました」


 レンがヒルディスを受け入れることができないのは、幼少期からのイメージの相違だけではない。

 聖力の相性が悪かったのだ。


「はっきり上層部に申したのですが、しばらく一緒にいれば慣れるの一択で」


 聖教会でわたしを見つけることもできないし、各地を巡礼する聖騎士になろうか、なんて考えていた矢先、ヒルディスが思いがけないことを言い出したという。


「彼女は言いました。あなたがどこにいるか知っていると」


 聖騎士として護衛を務めていたら、いつか教えてあげる、と。

 そんなことを言っていたという。


「あなたはそれで、ヒルディスの護衛騎士で在り続けたと?」

「はい」


 わたしを見つけた以上、ヒルディスの傍にいる理由はない。

 それで夜会を抜け出してまでわたしを追いかけてきたのだろう。


「あなたはわたしを、秘密を共有する仲間として特別視していたのよね?」

「はい」

「でも、成長したわたしを見て、がっかりしたんじゃないの?」


 ヒルディスみたいに清楚感は欠片もないし、派手なドレスを着て、賑やかな場所にばかり顔を出し、華やかな暮らしを送っている。

 聖騎士であるレンには、俗っぽい存在に思えてならないだろう。


「いいえ、がっかりしていません。むしろ、子ども時代となんら変わっていなくて、とても安心しました」

「変わったでしょう?」


 レンは首を横に振る。


「そういうあなただからこそ、結婚を申し込んだんです」


 話は振り出しに戻ってしまった。

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