まさかの再会
「はあ、はあ、はあ、はあ――!」
どうして?
どうして?
どうして?
疑問が荒波のように押し寄せる。
ヒルディスが登場してきたことよりも、レンが彼女の傍に侍る聖騎士になっていたことがショックだった。
彼とはわたしのほうから距離を取り、黙って姿を消した。
勝手なのはわたしのほうだろう。
けれどもこれまでの人生でレンがヒルディスの傍にいたことなんてなかったし、彼女に興味を持つこともなかった。
まさか腹いせのつもりでヒルディスの聖騎士になったのか?
いいや、レンがそんなことをするわけがない。
彼はきっと努力し、それが認められ、ヒルディスの聖騎士として選ばれただけだ。
きっと他意はない。
「はあ、はあ、はあ……はあ」
考え事をしつつ闇雲に走っていたら、いつの間にかオペラハウスの裏口にいた。
今日はこのまま帰ってしまおうか。
ヒルディスを前にしたら、ブラッティ・ナイフが発動してしまうかもしれない。
レンを見て驚き、ここまで逃げてきたが、ブラッティ・ナイフの危険性についてすっかり失念していた。
あのときわたしの胸の前で消えた禍々しいナイフは、今も体内に残っているのだ。
危なかった。
レンがいなかったら、会場に残っていたかもしれない。
馬車を呼ぶのも面倒くさい。どこかのホテルにでも泊まろう。
マルティナ夫人はわたしとヒルディスの仲がよくないことを知っている。そのため、会場から姿を消しても気持ちを察してくれるだろう。
呼吸を整え、裏門から外に出る。
しばらく歩いていると、突然誰かが急接近してきた。
「ヴィオラ、ヴィオラじゃないか!?」
「きゃあ!!」
薄暗闇の中、突然男が飛びだしてきたので悲鳴をあげてしまった。
「だ、誰よ!」
「俺だ! エドウィン・フェレライだ!」
「なんですって!?」
男は手にしていた角灯を掲げ、自らの顔を見せる。
痩せこけ、無精髭が生えたみすぼらしい姿だが、間違いなくエドウィン・フェレライだった。
「よかった! お前に会うために夜会の会場にやってきたんだが、守衛に追い返されて」
当たり前だ。エドウィン・フェレライなんて一度も夜会に招いていないから。
「いったいなんの用なのよ!?」
「ああ、話が早い。ヴィオラ、俺と一緒にやり直そう」
「は?」
「みんな言っているんだ。マルティナの商売が上手くいったのは、お前がいるからだって! お前さえいれば、俺は元の生活に戻れる! そうすれば、お前を正妻として迎えようではないか!」
ぞわ、と全身に悪寒が走る。
奴はいったい何を言っているのか。
「冗談言わないで!」
「本気だ! 俺についてこい!」
エドウィン・フェレライはそう言って、わたしの腕を掴もうとした。
その瞬間、目の前に閃光が走る。
「うわっ、なん、眩しい!!」
エドウィン・フェレライは目を押さえ、ふらふらと後退していく。
「これは、聖術?」
そう呟いた瞬間、背後から声がかかった。
「大丈夫ですか!?」
聞き覚えのある声に、胸がどくんと高鳴る。
振り返らずにここから逃げだしたい。そんな気持ちに反して、わたしは振り返ってしまう。
そこにいたのは、純白の板金鎧を纏う聖騎士。
彼の声を聞き間違えるわけもない。
ケレン・アイスコレッタ。
何度時間が巻き戻っても、わたしの心に居続けた男性だった。




