いつもと異なる夜会
今宵も富裕層を招待したパーティーが開かれる。
会場は元オペラハウスをマルティナ商会が買い取ったもので、月に数回、このようなパーティーを開催するのだ。
今日は新作のドレスと宝飾品をアピールする目的がある。
わたしが纏うのは、一点物のオーダーメイド・ドレスだ。ダイヤモンドが散りばめられていて、高級感漂う一着である。
こうして夜会でわたしが着たドレスは、すぐに売れてしまう。さらに色違いのデザインで一点物を作ってくれ、と予約も殺到するようだ。
マルティナ夫人曰く、これがわたしのモデルとしての価値なのだとか。
メイド達の力を借りて身なりを整え、姿見で確認する。
「どうかしら?」
「今日も決まってお美しいですよ~」
心がこもっていない声で褒めるのは、メイドのビアンカ。
エドウィン・フェレライの屋敷に勤める彼女だったが、マルティナ夫人が引き抜き、わたしの専属メイドとして今も働いている。
噂話好きの彼女は情報通で、夜会前はいろいろな噂話を教えてくれるのだ。
「今日は特別なゲストがいるみたいで、商会長が朝からピリピリしているみたいで」
「ああ、サプライズをしたいっていう」
なんでも今日のゲストは大物で、本人が皆をびっくりさせたいので、参加者達には黙っていてほしいと言っていたという。
「いったい誰なんですか?」
「マルティナ夫人以外、誰も知らないのよ」
「へー、ヴィオラ様でさえ、知らないお方なんですねえ」
マルティナ夫人のいつもと違う様子から推測するに、異国の大富豪か、それとも有名な舞台俳優か。とにかくこれまで参加したことがないような大物であることだけは察することができる。
「不興を買わないようにしないとですねえ」
「まあ、なんとかなるでしょう」
大物ゲストに対する気遣いはマルティナ夫人がやってくれる。
わたしはいつものようにモデルとして参加するまでだ。
「それはそうと、エドウィン・フェレライの商会が倒産した話、聞きました?」
「嘘でしょう?」
「夕刊に載っていましたよ」
ここ数年、経営が上手くいっていないという噂は耳にしていた。
それも無理はない。
エドウィン・フェレライの商会は、マルティナ夫人の敏腕運営あってのものだったから。
「いつかそうなるとは思っていたけれど、思っていたより早かったわね」
「本当に」
心の奥底からざまあみろ、と思ってしまう。
エドウィン・フェレライは妻であるマルティナ夫人を蔑ろにし、愛人と遊んで回り、仕事を押しつけ、好きなように遊んで暮らしていたのだ。
「私もマルティナ夫人に引き抜かれてなかったら、今頃どうなっていたか!」
エドウィン・フェレライの屋敷にいた使用人の半分ほどはマルティナ夫人が引き抜いている。使用人達もこうなるとわかっていたからか、ついてきてくれたのだ。
「しかし、あのお方はこの先どうやって生きるのでしょうねえ」
「負債もあるだろうから、大変なはずよ」
「ああ、考えただけでも恐ろしいです」
ビアンカとお喋りしているうちに、夜会の開始が告げられる。
すでに参加者は会場に集まっているようで、満を持すように登場するのがお決まりである。
会場に一歩足を踏み入れると、参加者達がワッと歓声を上げる。
あっという間に囲まれ、男女関係なく羨望の眼差しを向けてきた。
ドレスと宝飾品はわたしが登場した瞬間から売れてしまったらしい。
支配人がわたしに耳打ちしてくれた。
商品が売れたので、あとは気楽に過ごしておこう。
なんて考えていたら、大物ゲストが登場するという。
マルティナ夫人がやってきて、参加者に向かって紹介し始めた。
「今宵、我らがマルティナ商会が主催するパーティーに、とっておきのゲストがやってきてくれた。紹介しよう! 大聖女ヒルディス・フォン・シュヴァーベン!!」
名前を聞いた途端、視界がぐらりと揺れたように思えた。
どうして彼女が富裕層ばかり参加する夜会に?
ヒルディスは純白の清楚なドレスを着て、登場する。
わたしがやってきたときよりも、大きな歓声が上がった。
衝撃はそれで終わりではなかった。
見覚えがある板金鎧の聖騎士を、ヒルディスが引き連れていたのだ。
鎧の色は白だが、忘れるわけがない。
あれはレンの鎧だ。
次の瞬間、その聖騎士がわたしのほうを見た。
気のせいではない。しっかりとこちらを見ている。
わたしは弾かれたように踵を返すと、会場から逃げてしまった。




