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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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化粧品を売ってしまおう

「なんだ、いいアイデアとは?」

「大ミサの日に、観光客に向けて売るの!」

「化粧品を、か?」

「ええ、そう!」


 たしか大ミサの日は各地から信者が押し寄せ、街が賑わっていた。

 その人出を利用し、一気に販売してしまえばいいのである。


「しかし、王都へやってきて、わざわざ化粧品なんか買うのだろうか?」

「大聖女ヒルディスの大ミサ記念品とか銘打ったら、手を取ってくれるはず!」

「なるほど……」


 マルティナ夫人は貴族女性に向けて売りたかったようだが、現状、上手くいく手立てはない。

 ならばいったん諦めて、在庫を抱えないためにも大ミサの人出と、ヒルディスの名声を利用するほかないのだ。


「そもそも貴族女性向けに新しい化粧品を流行らせるというのは、とてつもなく大変だと思うわ」


 彼女らは変化を望まず、歴史と伝統の中で生きている。

 その中に入り込んで成功を収めるというのは、かなり難しいことなのだ。


「たしかに、一理ある」


 そもそも化粧品はエドウィン・フェレライのアイデアで始めることとなったらしい。

 マルティナ夫人にプロジェクトを任せると言いながら、勝手に話を進めて製品化していたのだ。完成したらしたで、販売をマルティナ夫人に丸投げしていた。

 まったく酷い話である。


「最初から貴族女性に向けた商売というのは、無理があったのだな」

「そうだと思うわ」


 この辺の感覚は、貴族社会で生きないとわからないことなのだ。

 富裕層生まれだが、貴族でないマルティナ夫人がわかるものではない。


「して、これをどうやって売る?」

「大ミサの日は中央広場に露店が並ぶでしょう? そこで売るのはいかが?」

「露店で化粧品なんか売れるのか?」

「物珍しさに買うかもしれないわ」


 貴族女性にとってありふれた化粧品でも、地方からやってきた人々からしたら洗練された商品に映るかもしれない。

 男性相手にも奥方へのお土産、贈り物にどうぞと勧めることができるだろう。


「ここ最近、空気が乾いているから、保湿クリームを試しに使ってみせてもいいかも」


 肌が乾燥していたら通常であればべたつく感覚の保湿クリームでも、効果を実感してもらえるかもしれない。

 そんなわたしのプレゼンを、マルティナ夫人はメモを取りつつ聞いてくれた。


「して、価格はどうする? 貴族女性に向けたものでなければ、金貨三枚では売れないぞ」

「半銀貨でいかが?」

「それでは採算が取れない」

「採算度外視でもいいから、さっさと売ってしまわないと、在庫をこの先何年も抱えてしまうわよ。この化粧品はマルティナ夫人が時間をかけて作った商品ではないの。エドウィン・フェレライが適当に業者任せにして、やっつけで仕上げたこだわりも何もない化粧品なのよ」


 もしも正規価格で販売し、悪評でも出回ったら商会にとっても大打撃である。

 一方、価格がほどほどに安ければ、そういうものだと諦めもつくだろう。


 そう指摘すると、マルティナ夫人は眉間に皺を寄せ、なんともいえない複雑そうな表情を浮かべる。


「わかった。お前の言うとおりにやってみよう」


 そんなわけで、化粧品は大ミサ当日に販売することとなった。


 ◇◇◇


 あっという間に迎えた大ミサ当日――。

 化粧品は中央広場のもっとも人通りのある位置で販売することとなった。

 美人どころの販売員を集めて売るという。

 マルティナ夫人とわたしは在庫が置かれた背後で売れ行きを見守る。

 大ミサまであと三時間ほど。

 販売員は信者に向けて声かけする。


「大聖女ヒルディス様の大ミサを記念し、作られた化粧品セットです」

「お土産に、贈り物に、いかがでしょうか?」


 皆、ヒルディスと聞いて足を止めるも、なかなか購入には至らない。


「興味は持てど、まったく売れないな」

「だって大ミサ前ですもの。勝負はここからよ」


 大ミサ開始までに売れたのは、たった三セットのみ。

 マルティナ夫人は険しい表情でいる。

 数時間後――大ミサが終了する。

 信者に変化があった。

 実際にヒルディスを前にし、その神々しさを肌で感じたのか、興奮しているようだった。

 そんな彼らに、ヒルディスの名を冠する化粧品は魅力的に聞こえた。


「一つくれ!」

「私は三つ!」

「妻へのお土産にしよう」


 いきなり飛ぶように売れ始めた。

 これにはマルティナ夫人も驚いたという。


 千個以上あった化粧品は、あっという間に売り切れてしまった。


 ◇◇◇


 その後、マルティナ夫人はエドウィン・フェレライの商売のやり方に疑問を覚えたからか、独立することを決意したようだ。

 三年後、彼女が商会長を務める〝マルティナ商会〟が誕生した。

 そこで販売する商品は未来の流行を知るわたしの助言のもと、お菓子やドレス、宝飾品、酒に書籍とさまざまな品物を販売し、そのどれもが大ヒットに繋がる。

 わたしはマルティナ夫人から大いなる信頼を得るようになったのだった。 

 しだいに夫であるエドウィン・フェレライの商会よりも売り上げを伸ばすことにも成功する。

 それはエドウィン・フェレライの自尊心プライドを傷つけることだったようで、ケンカが絶えなかった。

 さらに三年後、エドウィン・フェレライとマルティナ夫人は離婚した。

 マルティナ夫人から離婚を言い渡されたさいの、エドウィン・フェレライのショックを受けた顔は見物だった。

 それから二年経ち、十八歳になったわたしはマルティナ商会の広告塔としてモデルを務めるようになる。

 なんでもわたしがモデルを務めると、飛ぶように売れているらしい。

 マルティナ商会は富裕層に向けた商品の数々を販売し、大いなる成功を収めていた。

 貴族相手の商売ではないので、ヒルディスと顔を合わせることもなかったのだ。

 今度の人生は上手くいっている。

 そう思っていたのだが、ある日衝撃的な光景を目にすることとなった。

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