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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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朝を迎え

「おはようございまーーす」


 脱力するようなメイドの声で目覚める。

 たいていノック音で目覚めるものだが、昨日は疲れていたのか。

 瞼を開くと、赤毛にそばかすが散った十代後半くらいの女性がわたしを覗き込んでいた。


「あ、起きた!」


 何が起きただ、と思いつつ起き上がって背伸びをする。


「昨日から、お嬢さんの話題で持ちきりなんですよ!」

「わたしの?」

「そう! どうやってあの気難しいマルティナ夫人に取り入ったんだって」


 話を聞いているだけで、頭がズキズキ痛む気がした。

 彼女はわたしをただの子どもだと思って、ぺらぺら話しかけているのだろう。

 そうであっても、シュヴァーベン公爵邸のメイドはこんなふうに気やすく話しかけてくることなんてなかった。

 貴族に仕えるメイドと、そうでないメイドの違いなのだろう。

 相手にする必要はない。

 けれどもお高くとまっていると思われたら厄介である。

 そのため、ここにやってきた理由について軽く語ることとなった。


「わたしは愛人の子で、本妻とその娘と一緒に暮らしていたの。でも、いつ追いだされるかわからないから、ここで働くことになったのよ」

「ええ!! そうなんですか!? お母様は? 許したんですか?」

「母はわたしを見捨てているの。都合が悪くなれば、すぐに親子の縁すら切られるとわかっていたから、そうなる前に自分から行動を起こしたのよ」

「へ~~~~」


 ここまで聞いたら、マルティナ夫人に取り入ったわたしを羨ましいなどと思わないだろう。


「話を聞いてくれて、ありがとう」


 そう言って、心付けチップを握らせておく。

 半銀貨一枚だが、メイドはパッと表情を明るくさせた。


「いいんですか!?」

「ええ、もちろん」


 きっと彼女の口から他の使用人に向けて、わたしの境遇について語られるだろう。

 念のためお金を握らせておいたので、悪いようには言わないはずだ。


「あなた、名前はなんて言うの?」

「ビアンカ。ビアンカ・カントです」

「そう、ビアンカね。わたしはヴィオラ・ドライスよ」


 これからよろしく、と挨拶を交わしたのだった。

 朝食は焼きたてのパンに、カリカリベーコン、それからふわふわのメレンゲ・オムレツだった。

 メレンゲ・オムレツが絶品で、ぺろりと平らげてしまう。

 朝食を終えたあとは、用意されていたエプロンドレスに着替えた。

 髪はビアンカがお団子に結い上げてくれる。

 マルティナ夫人の執務室へ向かったのだが、扉の向こう側から怒号が聞こえた。


「なんだと!? そのような話は聞いていない!!」


 秘書の声だろうか。悲鳴のような「申し訳ありません!」という言葉も聞こえた。


「今一度、商会長に確認してまいります!!」


 執務室から飛びだしてきたのは、眼鏡をかけた三十代半ばくらいの細身の男性である。

 急いでいたからか、余裕がないからか、わたしの存在に気付かずに駆け抜けていった。

 開きっぱなしの扉の向こう側にいたマルティナ夫人がわたしに声をかける。


「ああ、来ていたのか。中に入れ」


 最悪な雰囲気の中、一日目の仕事がスタートするようだ。

 無言でいたマルティナ夫人に話しかける。


「何か問題でも?」

「誤発注……というか、夫が事業を勝手に進めていて、気付いたらすでに商品が製品化されていた」

「それはそれは」


 エドウィン・フェレライが余計なことをしてくれたらしい。

 テーブルの上にある品を指し示す。

 その、真珠があしらわれたパッケージに入った品を忘れるはずもない。

 二度目の人生でエドウィン・フェレライに売るように押しつけられた、例の化粧品セットである。


「おそらく夫が適当に化粧品会社に発注し、作らせた物なのだろう」


 十年後の世界でエドウィン・フェレライはマルティナ夫人が作った、と主張していたものの、実際には違っていたようだ。

 マルティナ夫人が作ったことにし、責任を押しつけるなんて酷い話である。


「一セット金貨三枚で売ると採算が取れるようだが……」


 宝石箱のようなパッケージに真珠を使っているのと、劣化しない魔法がかかっているというので、単価がどうしても高くなってしまうらしい。

 十年後の世界ではあまりにも売れないから、半銀貨以下の価格で販売していた。それでも売れ行きは芳しくなかったのだ。


「果たして売れるものか……」


 マルティナ夫人は化粧品セットを開封し、化粧品を手に取る。

 真っ白なコンパクトは美しく、デザインは悪くない。

 蓋を開いて匂いを嗅いだマルティナ夫人は、顔を顰める。


「この白粉は、げほっげほっ、むせる!」


 化粧水や乳液は薔薇の香りがしつこく、口紅はあまりにも派手。

 保湿クリームは肌がべたつき、パフは肌触りが悪い。

 一通り調べたあと、盛大なため息を吐く。


「貴族相手に売りたいようだが、このような品を買うわけがないだろう」


 絶対に売れない、とマルティナ夫人は断言する。


「どうしたものか……」


 たしか、十年後の世界でも貴族相手の商売は失敗だった、なんてことをエドウィン・フェレライが話していた。

 どうにかして売ろうとしても、無駄な労働になるのだろう。

 噂が出回って売れなくなる前に、効率的かつ短い期間で販売できないだろうか?

 しばし考えた結果、ある販売方法を閃く。


「ねえ、いいアイデアがあるの!」


 わたしの言葉を聞いたマルティナ夫人は、片眉をぴんと跳ね上げた。  

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