面会
これまで仕立ててもらったドレスも遠慮なく持っていこう。
小さくなって着なくなったものの、貸し衣装店で売れるはずだ。
お金になる物はなんでもいただこう。そんな精神で荷造りをしていたが、やってもやっても終わらない。
十歳の子どもの小さな手は、大人の手のようにテキパキ動かないのだ。
仕方がない。メイドの手を借りよう。
そう思って通りすがりのメイドに頼んだら、まさかの人物がやってくる。
三度目の人生でわたし専属メイドになってくれたリナだった。
「その、ヴィオラお嬢様の荷造りを手伝いにやってまいりました。メイドのリナです」
「ありがとう」
リナの瞳には怯えた色が滲んでいるように見えた。
そういえば三度目の人生のときも、初めはそうだったなと思い出す。
懐かしい気持ちになりながら、彼女に指示を出した。
「そこに山積みに置いているドレスを鞄に詰めてもらえる?」
「かしこまりました」
リナはドレスの扱いに慣れているようで、あっという間にドレスを鞄に詰めてくれた。
子どもの手だから上手くいかないのだ、と勝手に決めつけていたが、単純に経験の差だったようだ。
リナがやっている様子を横目で見ながら、ドレスのたたみ方のコツを習得する。
すると、上手くできるようになった。
心の中でリナに感謝したのは言うまでもない。
三度目の人生で、リナを連れて独立することはできなかった。
母とわたしはシュヴァーベン公爵夫人に殺されてしまったから……。
当時の歯がゆく、悔しい気持ちがこみ上げてくる。
もうすべて終わったことだった。
リナの加勢を受け、あっという間に荷造りが終わった。
「ありがとう、助かったわ」
「お役に立てて幸いです」
去ろうとするリナを引き留める。
「ねえこれ、あなたにあげるわ」
午後のお茶と一緒に出てきた焼き菓子をリナにあげる。
本当はもっと価値のある品を渡したかったが、もしも他のメイドに見つかったらやっかみを受けてしまうだろう。
さらに盗んだなどと疑われたら大変だ。
だからお菓子くらいしか渡すことができないのだ。
ハンカチで包んでリナに手渡した。
「とってもおいしかったの。よかったら食べて」
「はい、ありがとうございます」
遠慮されたらどうしようと思ったのだが、受け取ってくれたのでホッと胸をなで下ろす。
その後、リナはぺこりと頭を下げて去って行く。
最後にリナと話せてよかった。
あとは何かいただける品がないか、部屋を見て回っていたら、控えめなノックが聞こえた。
いったい誰がやってきたのか。
こんなふうにノックする人は初めてである。
「どなた?」
「レンです。ケレン・アイスコレッタです」
レンがやってきただって!?
こんなの初めてである。
親しくしていたときだって、部屋を訪ねてきたことはなかったのに。
何か用事があるのだろうか?
急いで扉を開いた。
「突然、約束もなしに訪問してしまい、申し訳ありません」
「いいのよ。何かわたしに用かしら?」
「少し、話したいことがありまして……。長居はしません」
「わかったわ、入って」
廊下に誰もいないのを確認してから、レンを部屋へ招き入れる。
レンは申し訳なさそうな様子だった。
そんな彼に椅子を勧める。
「ごめんなさい、お茶とか用意できないけれど」
「いいえ、お気になさらず。すぐに終わりますので」
レンはそわそわと落ち着かない様子だった。
「それで、どうしたの?」
「あの、以前、ヴィオラお嬢様の秘密を、その、知ってしまったのですが……。今日は私の秘密を、打ち明けようと思いまして」
「あなたの秘密?」
「はい」
いったいどんな秘密を抱えているというのか。
無理に話さなくてもいいと言ったのだが、彼は公明正大ではないと言う。
レンは意を決した様子で話し始めた。
「実は私は、男なんです!」
レンは顔を真っ赤にしながら秘密を打ち明けてくれた。
その、なんていうか、知ってる……。
きっとわたしの秘密を知ってしまったことに対して、レンは罪悪感を覚えていたのだろう。それで自らが抱える最大の秘密を打ち明けてくれたのだ。
「あの、あまり驚いていないようにお見受けするのですが」
「いえ、その……なんていうか女の子にしては、声が低いな、とは思っていたわ」
レンが女の子らしくない理由について、苦し紛れだが挙げてみる。
「それに他の子よりも手足が長くてすらりとしていたし、全体のシルエットも違うように思えて」
「バレていたのですね」
「違和感を覚えていた程度だから。他の人はきっと気付いていないはず」
レンは女装し、ヒルディスの取り巻きをしていた理由についてざっくり語った。
聞くのは二回目だが、大人しく耳を傾けておく。
「大変だったのね」
「いえ……」
もう彼と会うこともないだろう。
伝えておいたほうがいいのか。
いいや、止めておこう。
きっとこの先、わたし達の人生が交わることなんてないから。
「教えてくれてありがとう。これでお互い様ね」
そんなふうに言うと、レンは安堵の表情を浮かべる。
最後にこの顔を見ることができてよかった。
「これからも、何かありましたら、私に話してくださいね。こうして聞くことくらいしかできませんが」
一瞬、ブラッティ・ナイフについてレンに話してしまおうか、なんて考えが脳裏を過るも、すぐに打ち消す。
これ以上、彼の重荷を増やしてはいけない。
そう判断し、言わなかった。
「どうかしましたか?」
「いいえ、なんでもないの」
これ以上ここにレンを拘束してはいけない。そう思って、帰すこととなった。
そんなわけでレンと別れ、再度一人になる。
明日、わたしはシュヴァーベン公爵邸を出て行く。
マルティナ夫人が後見人となり、彼女のもとで働くのだ。
この先どうなるかはわからない。
今度こそ長生きできるように、面倒くさい人達とは距離を置かなくては。
そう、心の中で誓ったのだった。




