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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第六章 憤怒の牙、罪深き者共に噛みつく

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面会

 これまで仕立ててもらったドレスも遠慮なく持っていこう。

 小さくなって着なくなったものの、貸し衣装店で売れるはずだ。

 お金になる物はなんでもいただこう。そんな精神で荷造りをしていたが、やってもやっても終わらない。

 十歳の子どもの小さな手は、大人の手のようにテキパキ動かないのだ。

 仕方がない。メイドの手を借りよう。

 そう思って通りすがりのメイドに頼んだら、まさかの人物がやってくる。

 三度目の人生でわたし専属メイドになってくれたリナだった。


「その、ヴィオラお嬢様の荷造りを手伝いにやってまいりました。メイドのリナです」

「ありがとう」


 リナの瞳には怯えた色が滲んでいるように見えた。

 そういえば三度目の人生のときも、初めはそうだったなと思い出す。

 懐かしい気持ちになりながら、彼女に指示を出した。


「そこに山積みに置いているドレスを鞄に詰めてもらえる?」

「かしこまりました」


 リナはドレスの扱いに慣れているようで、あっという間にドレスを鞄に詰めてくれた。

 子どもの手だから上手くいかないのだ、と勝手に決めつけていたが、単純に経験の差だったようだ。


 リナがやっている様子を横目で見ながら、ドレスのたたみ方のコツを習得する。

 すると、上手くできるようになった。

 心の中でリナに感謝したのは言うまでもない。


 三度目の人生で、リナを連れて独立することはできなかった。

 母とわたしはシュヴァーベン公爵夫人に殺されてしまったから……。

 当時の歯がゆく、悔しい気持ちがこみ上げてくる。

 もうすべて終わったことだった。


 リナの加勢を受け、あっという間に荷造りが終わった。


「ありがとう、助かったわ」

「お役に立てて幸いです」


 去ろうとするリナを引き留める。


「ねえこれ、あなたにあげるわ」


 午後のお茶と一緒に出てきた焼き菓子をリナにあげる。

 本当はもっと価値のある品を渡したかったが、もしも他のメイドに見つかったらやっかみを受けてしまうだろう。

 さらに盗んだなどと疑われたら大変だ。

 だからお菓子くらいしか渡すことができないのだ。

 ハンカチで包んでリナに手渡した。


「とってもおいしかったの。よかったら食べて」

「はい、ありがとうございます」


 遠慮されたらどうしようと思ったのだが、受け取ってくれたのでホッと胸をなで下ろす。

 その後、リナはぺこりと頭を下げて去って行く。

 最後にリナと話せてよかった。

 あとは何かいただける品がないか、部屋を見て回っていたら、控えめなノックが聞こえた。

 いったい誰がやってきたのか。

 こんなふうにノックする人は初めてである。


「どなた?」

「レンです。ケレン・アイスコレッタです」


 レンがやってきただって!?

 こんなの初めてである。

 親しくしていたときだって、部屋を訪ねてきたことはなかったのに。

 何か用事があるのだろうか?

 急いで扉を開いた。


「突然、約束もなしに訪問してしまい、申し訳ありません」

「いいのよ。何かわたしに用かしら?」

「少し、話したいことがありまして……。長居はしません」

「わかったわ、入って」


 廊下に誰もいないのを確認してから、レンを部屋へ招き入れる。

 レンは申し訳なさそうな様子だった。

 そんな彼に椅子を勧める。


「ごめんなさい、お茶とか用意できないけれど」

「いいえ、お気になさらず。すぐに終わりますので」


 レンはそわそわと落ち着かない様子だった。


「それで、どうしたの?」

「あの、以前、ヴィオラお嬢様の秘密を、その、知ってしまったのですが……。今日は私の秘密を、打ち明けようと思いまして」

「あなたの秘密?」

「はい」


 いったいどんな秘密を抱えているというのか。

 無理に話さなくてもいいと言ったのだが、彼は公明正大フェアではないと言う。

  レンは意を決した様子で話し始めた。


「実は私は、男なんです!」


 レンは顔を真っ赤にしながら秘密を打ち明けてくれた。

 その、なんていうか、知ってる……。

 きっとわたしの秘密を知ってしまったことに対して、レンは罪悪感を覚えていたのだろう。それで自らが抱える最大の秘密を打ち明けてくれたのだ。


「あの、あまり驚いていないようにお見受けするのですが」

「いえ、その……なんていうか女の子にしては、声が低いな、とは思っていたわ」


 レンが女の子らしくない理由について、苦し紛れだが挙げてみる。


「それに他の子よりも手足が長くてすらりとしていたし、全体のシルエットも違うように思えて」

「バレていたのですね」

「違和感を覚えていた程度だから。他の人はきっと気付いていないはず」


 レンは女装し、ヒルディスの取り巻きをしていた理由についてざっくり語った。

 聞くのは二回目だが、大人しく耳を傾けておく。


「大変だったのね」

「いえ……」


 もう彼と会うこともないだろう。

 伝えておいたほうがいいのか。

 いいや、止めておこう。

 きっとこの先、わたし達の人生が交わることなんてないから。


「教えてくれてありがとう。これでお互い様ね」


 そんなふうに言うと、レンは安堵の表情を浮かべる。

 最後にこの顔を見ることができてよかった。


「これからも、何かありましたら、私に話してくださいね。こうして聞くことくらいしかできませんが」


 一瞬、ブラッティ・ナイフについてレンに話してしまおうか、なんて考えが脳裏を過るも、すぐに打ち消す。

 これ以上、彼の重荷を増やしてはいけない。

 そう判断し、言わなかった。


「どうかしましたか?」

「いいえ、なんでもないの」


 これ以上ここにレンを拘束してはいけない。そう思って、帰すこととなった。

 そんなわけでレンと別れ、再度一人になる。

 明日、わたしはシュヴァーベン公爵邸を出て行く。

 マルティナ夫人が後見人となり、彼女のもとで働くのだ。

 この先どうなるかはわからない。

 今度こそ長生きできるように、面倒くさい人達とは距離を置かなくては。

 そう、心の中で誓ったのだった。

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